それ以前からネット上には真偽の定かではないいかがわしい情報も多かったが、フェイクニュースという表現の認知が飛躍的に進んだのは2016年の米大統領選だった。その最も象徴的な出来事の1つが、民主党のヒラリー・クリントン候補陣営の関係者が人身売買や児童性的虐待に関与している虚偽情報が広まった、所謂「ピザゲート」だ(ピザゲート - Wikipedia)。
2016年の大統領選では、いかがわしい情報のほとんどは共和党候補のトランプに利する内容で、その所為と断定することはできないようだが、トランプが当選を果たした。トランプは自分に都合の悪い話を「FAKE NEWS!」とする傾向が強く、しかもそう断定する根拠を殆ど示さない。
CNN.co.jp : トランプ氏の「フェイク」発言、就任後は1日平均1回以上
この記事は2018年1月、大統領就任からおよそ1年後の記事だが、つい先日もニューヨークタイムズに「大統領が就任前の15年のうち10年にわたり所得税を支払っていなかった、当選した2016年、就任1年目の2017年の連邦所得税は、いずれも750ドル(約7万9000円)だった」と報じられ、またもや具体的な根拠も示さずに「すべてフェイクニュースだ」と主張している(トランプ氏、10年間所得税払わず 「フェイクニュース」と否定―NYT:時事ドットコム)。
大手メディアはこの数年、こぞってフェイクニュースを問題視する姿勢を示している。だが日本では最近、大手メディアが妥当とは思えない報道を平然とする状況になっている。例えば昨日は、フジテレビ上席解説委員の平井 文夫が同局の番組の中でまさにフェイクニュースと呼ぶべき珍説を披露し批判が集まっている(「学術会議で6年働けば、学士院で死ぬまで年金250万円」は誤り。フジテレビで放送、ネットで拡散)。決してこのような傾向フジテレビに限ったことではなく、一部新聞や出版にもその傾向はあるが、特に酷いのはテレビ局全般だ。最早日本のメディア、特にテレビ局はフェイクニュースを指摘・批判できるような立場にない、と言っても過言ではない。
SNS各社は誤情報の拡散を問題視しており、その抑制に注力しているようで、昨日Gigazineは、Twitterが「Birdwatch」という、宣伝や誤情報などユーザーに害を及ぼす可能性のあるツイートを根絶する為の新機能の開発を行っている、と伝えた。
Twitterが誤情報を根絶するための新機能「Birdwatch」の開発に取り組んでいる - GIGAZINE
この機能の開発は公式にアナウンスされたものではなく、まだ未確認情報の段階であるが、ツイッターは既に、編集されたムービーや写真にラベル付けしたり、誤解を招く恐れのあるツイートへラベル付けするなど、意図的に操作された情報に人々がだまされないようにする対策を取っており、5月にはトランプの「郵便投票は不正選挙につながる」というツイ―トにも「Get the facts about mall-in ballots (郵送投票についての正しい情報を得ましょう)」というラベルを付けた。
- Twitterがトランプ大統領のツイートに初めて「誤解を招く可能性がある」とラベル付け - GIGAZINE
- Twitterはトランプ大統領のツイートにどういうプロセスでファクトチェックを推奨するラベルを付けたのか? - GIGAZINE
このようにツイッター本体はフェイクニュースの排除に熱心なようだが、一方で日本ではどうか。フェイクニュースの排除に熱心とは言えないどころか、寧ろ率先して誤解を招く恐れのある情報を流布していると言わざるを得ない状況だ。
昨日ツイッタージャパンは「菅首相が日本学術会議の任命見送りの理由を説明」という見出しのトレンドを掲載している。
これは、現首相の菅が日本学術会議の任命見送り問題についてインタビューに応じたことを伝えている。見出しには「理由を説明」とあるが、菅は
具体的な理由は説明なく…菅総理“任命拒否”
- 日本学術会議は政府の機関であり、年間約10億円の予算を使って活動していること、任命される会員は公務員の立場になること、推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきた
- 個別の人事に関することについて、コメントは控えたい。
- 学問の自由とは全く関係ないということです。どう考えても、そうじゃないでしょうか
- 日本学術会議というのは、省庁再編のなかで大議論を行ったところです。その結果として、総合的・俯瞰(ふかん)的活動を求めることになってますから、まさに総合的・俯瞰的活動を確保する観点から判断をした、これに尽きます。
- (政府が行うのは形式的任命に過ぎないという、1983年当時の首相・中曽根による)過去の答弁は承知していますが、そもそも当時の学会の推薦に基づく方式から、現在は個々の会員の指名に基づく方式に変わっており、それぞれの時代の制度のなかで法律に基づいた任命を行う考え方は変わっていません
などとしか述べておらず、菅は、なぜ前例を覆す必要があるのか、どんな議論の末に任命見送りという結果になったのかなど、一切具体的な説明をしていない。次のインタビューのノーカット動画を見ても、どうやっても菅が説明をしたとは言い難い内容である。
【ノーカット】菅首相グループインタビュー(2020年10月5日) - TBS NEWS
これではツイッタージャパンがつけた見出しは誤解を招く、厳しく言えばツイッタージャパンは、説明してないのに説明したという嘘を流布していると言わざるを得ない。このような話はこの件に限らないし、ツイッタージャパンはヘイトスピーチの放置も多く、日本においては、ツイッター上の有害な情報を抑制するツール開発以前に、管理運営を行うツイッタージャパンの解体と再構築がまず必要だ。
日本では大手メディアやSNSの運営なども既にフェイクニュースを発信する側に成り下がってしまっているのが実情だ。そんな国に果たして明るい未来はあるのか。
トップ画像は、Photo by Markus Winkler on Unsplash を加工して使用した。