大阪市を廃止て4つの特別区に置き換える政策、賛成多数でも「大阪都」にはならないのに何故か「大阪都構想」と呼ばれていた政策の是非を問う住民投票が昨日行われた。結果は反対が50.63%で多数派となった。昨夜反対多数の見通しが示されてから、メディアではしきりに僅差で辛くも反対が上回った、かのような印象が演出されているが、果たしてその伝えかたは妥当だろうか。
最初にこの投稿で扱う数字の根拠について示しておく。公的な発表の数字を調べようと思って大阪市公式サイトを見てみたが、「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票 開票速報∥大阪市選挙管理委員会」というぺージを開いてみたところ、こんな断片的でお粗末なデータ(下記はそのスクリーンショット)しか表示されなかった。
当該自治体が投票結果として各区の賛成表/反対票の総数しか掲載しないのは、ハッキリ言ってかなりお粗末だ。お粗末と言うよりも寧ろ恣意的だとすら言える。そう言える根拠は後述する。もっと詳細なデータをまとめているページはないものかと、いくつかのメディアを見てみたところ、
【詳報】1万7千票差、再びNO 松井氏「私の力不足」 [大阪都構想]:朝日新聞デジタル
が一番マシだった。ここで扱う数字はどれもこの記事によるものだ。
朝日新聞の記事のスクリーンショットからも分かるように、昨夜大勢が判明してからメディアは、反対69万3000(50.6%)に対して賛成67万6000(49.4%)と、かなり僅差で辛くも反対が上回ったという印象を強調している。大阪市の公式サイトが賛成表/反対票の総数しか掲載していないのも、そのような印象を強調する為としか思えない。
投票結果の全貌を把握するには、当日有権者数と投票率を加味することが不可欠なのに、大阪市は結果にそれを載せていないし、朝日新聞の記事も、一応投票率は掲載しているものの、大きく示されたグラフにその要素は反映されていない。そしてその傾向は朝日新聞に限らずどのメディアでも同様だ。
まず数字で必要な情報を示すと、
- 有権者数 220万5730
- 賛成 67万5829
- 反対 69万2996
- 棄権 83万1119
- 無効 6486
となる。有権者数/賛成票/反対票は公表された実数で、棄権は有権者数に対する投票率62.35%から割り出した。朝日新聞の記事の確定結果には「無効票は除く」とあるので、有権者数から賛成/反対/棄権の和を引けば、無効票の数が分かる。棄権と無効票の数はあくまでも概算ではあるが、実態と大きく乖離することはないだろう。
つまり、メディアでは次のグラフの印象が強調されているが、
有効票又は投票総数ではなく有権者数を分母にしたのが次のグラフであり、そのように捉えなければ実態を見誤る恐れがある。
最初のグラフも明確な誤りや嘘ではないが、2つのグラフが示す印象は明らかに大きく異なり、棄権した人の数を含めない前者は実態に即しているとは言い難い。何故棄権した人の数を軽視してはいけないのかは、次のように説明することが出来る。
実演販売の講釈を聞いて、言っていることが本当か分からないと感じた人はどうするだろうか。スルーして立ち去るだけだ。講釈に賛同した人は商品を買うし、講釈は妥当でないと思った人とよく分からないと感じた人は商品を買わない。幾つかの解釈が可能だろうが、講釈に賛同して商品を買った人は賛成派、講釈は妥当でないと思った人は反対派、そして講釈が本当かどうかよく分からないと感じた人は反対派とスルー、つまり概ね棄権に分かれるのではないだろうか。勿論、賛成だけど面倒くさいから投票に行かなかったという人も、棄権の中にはいるだろうが、棄権した人の大半はよく分からないからスルーした人と捉えるのが妥当だろう。
実演販売に例えれば、棄権した人というのは概ね、よく分からないから商品を買わなかった人である。よく分からないから、つまり評判通りの商品か分からないから買わなかった人を無視して、実演販売の講釈の上手さや商品の良さは語れないだろう。つまり投票を棄権した人を度外視した発表や報道は実態の一部しか表せていないと言わざるを得ない。だから大阪市の発表や現在のメディア報道の傾向は恣意的だと強く感じる。
そんなことを勘案してこの種の住民投票や国民投票制度の在り方を考えてみると、投票総数の過半数の賛成で事案が可決されるのは決して妥当とは言い難い。その制度だと、今回の大阪の投票では反対派が上回ったので棄権は反対と同義になったが、もし賛成が上回れば棄権は賛成と同義になる。
商品説明がよく分からないからスルーした人が、商品を高評価した人の一部と捉えられてしまう場合のある制度は果たして合理的だろうか。自分には全くそう思えない。だからこの種の住民投票や国民投票制度は、投票総数の過半数の賛成で事案が可決される仕組みでなく、有権者の過半数の賛成がなくてはならないという仕組みにするのが妥当だと考える。
更に言えば、現状を変更するのに、賛成が0.1%でも上回れば可決、なんてのも不適当で、凡そ五分五分の結果が出るということは、有権者の半数が反対しているとも言える状況であり、そんな風に賛否の割れる制度は生煮えと言っても過言ではない。つまり、少なくとも有権者の6割以上の賛成がなければ、事案についての説明が充分になされ、そして住民によって肯定されたとは言い難い。投票総数の過半数の賛成で事案が可決される制度だと、
極端に言えば、こんな状況でも事案が成立してしまいかねない。このような大半が「よく分からない」と思っている状況でも事案が成立してしまう制度は妥当だろうか。だから、
現状変更に関する住民投票/国民投票での可決条件は、投票総数の過半数ではなく有権者数の最低6割以上の賛成
にすべきだと考える。