不都合な事実を隠す為に歪曲した表現を用いること、例えば経済の衰退をマイナス”成長”のように表現することや、大量解雇をリストラ(再構築)と表現したりすることを、英語では double-speak とか speak with double と言うそうだが、それは日本語の二枚舌とは微妙にニュアンスが異なる。日本語の二枚舌とは、矛盾したことを言うこと、嘘を吐くことを意味する。
英語でdouble-tonguedと検索してみても、一部日本語の二枚舌と似た説明・用法も見つかるが(double-tongued - Wiktionary)、それ程一般的な表現ではないのか、結果はあまり芳しくなかった。もしかしたら日本語か別の言語の二枚舌という表現を英語化したのが double-tongued だからそんな結果なのかもしれない。
二枚舌と似た商業用語に二重価格表示がある(二重価格表示 - Wikipedia)。例えば1000円の価値の腕時計を売る際に、「通常価格5万円のところ特価1000円」のように価格表示し、高価なものが安価に手に入るイメージを過剰に消費者へ与え購買意欲を掻き立てる販売手法だ。以前テレビで、一人暮らしの老人宅へ無料診断と称して上がり込み、「柱がグラグラでこのままだと数年後に数千万単位の改修が必要になる」と恐怖心を煽り、そこへ「自分が休日に会社を通さずに材料費だけでやってあげる、だけど材料費だけはどうしても必要で300万かかる」といい人を装ってもちかけ、実際はホームセンターで数万円分の資材を買って目に入る部分だけ工事をしたように見せかけて、金をだまし取るリフォーム詐欺を紹介していたが、この詐欺の手法にも、通常価格として法外な価格を提示することで割安感を演出するという二重価格が用いられている。
昨今日本でも一部の大手小売り店やWeb通販サイトなどが、「ブラックフライデー」という米国の年末セールの呼称を用い始めた。日本で年末セールと言えば以前は12月に入ってからだった。それは冬のボーナス支給が12/10前後であることが多い為で、それを狙ってセールを行っていたからだろう。ブラックフライデーはアメリカの感謝祭、つまり11月最終週の週末を狙ったセールで、日本の年末セールよりも時期的に少し早い。ブラックフライデーという言葉は最近は日本でもしばしば耳にするが、個人的には、まだまだ一般的には定着したとは言えないと考えている。
中国では、Web通販最大手のアリババが、11/11を1のぞろ目に因んで「独身の日」としてセールを行うことが定着し、アリババのみならずWeb通販を中心に1年で最も消費が高まる日になっている。つまり中国ではブラックフライデーよりも更に早く年末セールがスタートすると言ってもよさそうだ。
ブラックフライデー、やりません。IKEAもボイコット。その理由は? | ハフポスト
この記事は、大量消費/大量廃棄に疑問を呈するなどの意図を持って、幾つかの企業が「ブラックフライデーやりません」をしたという内容だ。記事ではイケアの他にいくつかのファッションブランドの例が取り上げられていて、アメリカのスニーカーブランド・Allbirds(オールバーズ)は、ブラックフライデーに値下げをするのではなく、逆に全ての商品に1ドル上乗せし、その上乗せ分をスウェーデンの気候活動家・グレタ トゥーンベリさんが設立した気候変動運動・Fridays For Future
に全額寄付するキャンペーンを行ったそうだ。
環境問題に配慮したそのような動きはとても興味深いが、自分が注目したいのはそこではなく、70%OFFで商品を販売しても成り立つ商売は果たして誠実なのか?ということだ。勿論、売れ行きが予想に反して伸びなかった商品を赤字覚悟で投げ売りする、というケースもあるのだろうが、それを毎シーズン行っても潰れない企業というのは少し変ではないだろうか。
学生時代に自分はスポーツ店でバイトをしていたことがあるのだが、そのスポーツ店では多くの商品を6掛け、つまり希望小売価格の6割で仕入れていた。勿論商品やメーカーによっも掛け率は異なるし、仕入れ量などにより仕入れる側の店によっても異なるだろう。しかし毎年11月や6月頃になると、問屋やメーカーがセール用商材向けの小売店向け即売会を行い、そこでは型落ちや型落ち寸前の商品が2-3掛けで売られていた。それは不定期ではなく毎年少なくとも2回、年によってはそれ以上の回数があることもあった。
アパレルでバイトをしていた友人と、そのような商品の仕入れ価格・掛け率について話していたら、その友人は「え?6掛けじゃ70%OFFセールできないじゃん!」と言うのである。希望小売価格の60%で商品を仕入れて70%引きで売れば赤字になるので、当然70%OFFセールなど滅多なことがなければ出来ない。友人曰く、アパレル業界ではシーズン初頭に希望小売価格で販売を始め、セールが始まると20-30%OFFで販売し、シーズン終盤になっても売れ残った商品は50-70%でOFFにして処分するそうだ。それを毎シーズン繰り返している。勿論そうじゃないブランドもあるんだろうが、確かにファッションビルに店を構えているようなブランドの多くはそんな傾向にある。
毎シーズン50%-70%OFFで商品を売っても店が潰れないということは、つまり50-70%OFFにしても赤字にならない、薄いかもしれないが利益が出る希望小売価格の設定がされている、言い換えればセール価格前提で希望小売価格が設定されているということである。
70%OFFというセール価格でも赤字にならないことを前提とした希望小売価格の設定をするようなブランドや企業は果たして誠実だろうか。自分には到底そう思えない。70%OFFでも赤字にならない、最終的には70%OFFで売ることが前提になっているということは、その希望小売価格は二重価格表示と言えるのではないだろうか。二重価格表示は景品表示法で禁止された行為である。