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対策とは最悪の状況を招かないようにするもの

 数年前から、第二世代GT-Rと呼ばれる90年代につくられた日産 スカイラインGT-Rの中古価格が高騰している。1989年から2002年までの間販売されていた第二世代GT-RにはR32/R33/R34型の3種類がある。1989-1994年に生産されたR32型は、2005年頃には100万円以下も珍しくなかったのだが、現在はどの型も安くとも200万以上で、程度がよければ1000万円を超える価格がつく。


 最終型の生産終了から数えても既に15年以上が経過しており、市場に出回る個体数が少なくなって希少性が出てきたことも価格高騰の理由だろうが、価格高騰の一番の理由は米国の所謂25年ルールだ。
 日本は左側通行で基本的に右ハンドル車が使用される国だが、左ハンドル車でナンバーを取得することも可能だ。しかし右側通行の米国では原則として左ハンドル車しか登録することができない。つまり基本的には、日本専売モデルで右ハンドル仕様しか生産していなかった第二世代GT-Rを公道で走らせることができない。たとえ独自に左ハンドル仕様に改造したとしても、その他にもクリアしなければならない安全基準や排ガス基準などがあり、実質的は、どうやっても日本専売モデルをアメリカの公道を走らせることができない仕組みになっている。
 しかし所謂25年ルールという規定があり、生産後25年を経過した自動車はクラシックカー、つまり文化的な遺産として扱われ、前段の規制の例外となる。つまり生産から25年を経過すると、右ハンドル仕様の日本専売モデルを登録して公道で走行させられるようになる。これによって2010年頃から、2014年に1989年に生産されたR32型GT-Rに25年ルール適用されることを見越して仕入れる、国内外のブローカーや業者などが増え、第二世代GT-Rの価格高騰が始まった。
 現在は1995年生産モデルまでがその対象となっているし、それ以降のモデルも既に先物買いで高騰している。またカナダでは25年ではなく15年でクラシックカーの対象となる為、2005年生産モデルまでが既に登録可能であり、カナダで登録して米国で使用するような人もいる。

 実は価格が高騰しているのは第二世代GT-Rに限らない。GT-Rのライバルだったトヨタ スープラやホンダ NSX、マツダ RX-7なども同様に価格が高騰している。というか90年代のスポーツカーは全般的に価格が上がっている。

アメリカの25年ルールで貴重な日本車が海外流出! 2020年、価格高騰が予想されるクルマ3選 AUTO MESSE WEB

 それらのモデルも生産から時間が経ち、市場に残っている数が減ってきたことも価格上昇の理由だろうが、スープラもNSXもRX-7も、そしてこの記事に出てくるホンダ インテグラも三菱 ランサーエボリューションも、GT-Rとは違い米国でも販売されていたモデルで、25年経たないと米国で乗れないクルマではないが、これらのモデルの価格上昇の理由もやはり25年ルールなのだ。
 なぜ米国でも販売されていたのに日本仕様車に需要があるのかと言うと、まずは右ハンドルを求める人の存在がある。日本に正式導入される外国車の殆どに右ハンドルが設定されるようになった、というか寧ろ右ハンドル仕様だけが日本で販売されるモデルの方が多い状況だが、日本でも未だに外国車=左ハンドルという認識を持つ人が多く、左ハンドル車は色々と不便なのにもかかわらず、外国車を買うなら左ハンドル車、という人も決して少なくない。米国にも同様に、映画やマンガやアニメの影響で日本車への憧れを持ち、日本車を買うなら正規輸入/米国生産モデルではなく、日本仕様の右ハンドルモデルがいいという人が少なからず存在しており、米国で正規販売されていたモデルでも右ハンドル仕様の需要がある。
 もう一つの理由は日本の中古車の程度のよさだ。米国には、州によっても異なるが、日本の様な厳しい車検制度はない。日本の車検制度は世界的にも厳しく、日本の中古車はその車検制度で2年毎にしっかりと整備されてきた個体であり、同年式車でも日本国外で使用されていた個体よりも程度がよい、というのは米国のみならず世界の常識になっている。

 そんな理由から、日本国内専売モデルかどうかにかかわらず日本の中古車は国外での需要も高く、日本国内専売モデルはその珍しさも手伝って更に需要が高まっている状況なのだ。昨今は90年代前半に生産されたマツダ AZ-1/ホンダ ビート/スズキ カプチーノなどの軽スポーツカーや、軽トラックや軽バン、またダイハツやスズキの人気が高い東南-南アジアでは、ミラなどのクラシカルバージョンの人気も上がっている。フランスのクワドリシクルや韓国のキョンチャ(軽車)など日本以外にも軽自動車文化はあるが、660cc規格は日本の独自のものだ。東南アジアなどでは日本の軽自動車がそのまま販売されるケースもあったが、日本のような軽自動車文化が発展した国は世界的にも珍しく、そのほとんどが日本専売モデルである為に中古軽自動車もまた、国外での人気が上がりつつあるのだ。

 日本の車検制度では、1995年までは10年目まで2年毎だった車検が10年目以降は1年毎になる為、車歴10年以上の車が敬遠され廃車にされ潰されるケースが多かった。現在は10年目以降も2年毎車検だが、車齢が13年を超えると税金が高くなるので、やはり車齢の高い車は敬遠される傾向にある。そんな意味では日本の制度は1台の車に長く乗ることをよしとしておらず、エコではなく時代に即していない面もある。
 しかし故障や、故障や不具合によって起きる事故を防ぐ、という観点で言えば、2年毎に厳密な検査が必要になる日本の制度は、転ばぬ先の杖としてとても有能だとも言えるだろう。制度が日本を走る車の全体的な程度を底上げしていることは、国外からの評価を見ても明らかだ。

 つまり日本の車検制度は、事故の発生や出先での急な故障といった最悪の状態を防ぐのにとても有効な対策だ、と言えるだろう。対策とは最悪の状況を招かないようにする為のものであり、最悪の状況を招いてから行うのは、厳密には対策ではない。そんな観点で言えば、現日本政府や一部自治体のコロナ対策は、果たして「対策」と言えるだろうか。

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 今日のようなこれまでで最悪の状況に陥るまで何もせず、何もせずに「勝負の3週間」なんて言っていたのだから、現日本政府と一部自治体は対策を怠っている、というか対策をしてこなかった、そして今もしていない、と言っても過言ではないだろう。

 トップ画像は、You searched for slave market - Artvee を加工した。

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