ノルウェーの画家・エドヴァルト ムンクは「Skrik / 叫び」の作者として知られるが、Melankoli(Melancholy / 憂鬱)と題した、若しくはそう呼ばれる複数の作品も残している。大きく分けて少なくとも4つの作品が存在し、同じ構図/似た構図のバリエーションも含めればかなりの数がある。ムンクは「説明し難い不安」を多く描いた画家だった(エドヴァルド・ムンク - Wikipedia)。
新型ウイルスの感染拡大が始まってからおよそ1年が過ぎた。世界各地で拡大したのは2月後半以降だし、日本の社会が概ねそれ以前とは異なる生活様式に変化し始めたのもその頃だった。ただ自分は、2月には既に人混みを極力避け初めていたので、極力人に会わない生活を初めてもう1年になろうとしている。自分は比較的孤独に耐えられるタイプではあるが、それでも、楽しみにしていたイベントがなくなったり、あっても参加する気になれなかったりと、それまで発散できていたストレスは溜まっている。
クラブ遊びなどは全くと言っていい程できていない。だが部屋にプロジェクターとワイヤレスヘッドホンがあり、今では毎週末様々なDJMIXの配信が行われるようになっていて、クラブに行かなくても自分の部屋で疑似体験が可能になっている。疲れたらいつでも座れるソファがあって、酔っ払い過ぎたらすぐにダイブできるベッドもある。勿論エントリーフィーもかからない。ある意味では、クラブにわざわざ出向く以上の環境があるとも言えるだろうが、やはり実際にクラブのスピーカーの前で大音量の音を浴びる体験とは別のものだ。なにより一人なのだ。一人にはメリットもあるが当然デメリットもある。
そんな生活を、別の選択肢もある中で選んでいるのと、他に選択肢がなくそれをしているとでも、情緒的には間違いなく違いがある。勿論、そんな環境すらないことのストレスを考えたら、幸運にもこれまでウイルスに感染せず生活出来ているのだから、そのことに感謝するべきかもしれない。しかし、収入は明らかに減ったし、ゼロにならないという保証は何もない。また、政府は明らかに素っ頓狂で、それもストレスが生まれる大きな原因になっている。タイミングによって勿論程度に差はあるものの、もう約1年も「憂鬱」な日々が続いている。
生活が充実している、少なくとも自分がそう感じられれば、思考は自然とポジティブになるが、ストレスを抱え憂鬱であればある程、思考はネガティブになりがちだ。例えば、
干物になっちゃった!? 伊東高生が描く「だまし絵壁画」登場 伊東マリンタウン:東京新聞 TOKYO Web
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、高校生の部活動自粛などもある中、少しでも活動や発表の場を増やし、高校生活のいい思い出になればと、道の駅側が伊東高校の美術部に制作を依頼。美術部員十五人が、道の駅内にある立ち寄り湯施設・シーサイドスパ棟の南側壁面に、延べ七日間かけて描いた。
という記事を読んで「いまそんなことやってる場合か?」とイライラしてしまう自分がいる。この「そんなことやってる場合か?」は明らかにこちらの勝手な言い分だ。
誰もが、今までとは異なるこのコロナ危機下の生活で、それぞれにストレスを溜めている。そのストレスを発散する方法は、この記事で紹介されているような、感染予防を適切に行った上での前向きな活動であるべきで、「そんなことやってる場合か?」と腐すことであってはならない。そのストレス発散方法は決して誰も幸せにしない。
AIKAさんというポルノ女優のこんなツイートがタイムラインに流れてきた。
コロナなのによくスノボ行けるね?違う違う違うよく小さい頃に外で元気良く遊びましょうて言われんかった?引きこもりより外で活発に動いてる方が免疫下がらんから風邪引きにくくなるからよ。自粛とか言って引きこもればこもるほど外出た時移りやすいよ🙃そもそもコロナは風邪だよ強めの咳止め飲んどき
— 💜🧚🏽♀️AIKA本物🧚🏽♀️💜 (@AIKA50) January 23, 2021
彼女のその次のツイートから推測するに、恐らくSNS投稿かWEB配信かで「スノーボードへ行く」と彼女が言ったのだろう。それを受けて「インフルエンサーなんだからスノボなんか行くな」若しくは「わざわざ公言しないで行け」のようなダイレクトメッセージがきたのだろう。
確かに旅行は感染拡大に繋がりかねない。しかし一方で、国による支援が全く充分でない中で、誰も旅行に行かなくなったらその業界の人達は食い扶持を失ってしまう。GOTOナンチャラのように政府のお抱え専門家が「旅行は感染を広げない」なんて言って、旅行を促進するなんてのは愚の骨頂だが、一方で「そんなことやってる場合か?」と他人を腐す所謂自粛警察もまた極端過ぎる。
例えば、宴会のようなことは控えるべきだが、牛丼屋のように1人で黙々と食事する外食は果たして問題があるだろうか。物流を下支えするサービスエリア等の食堂を規制するのは妥当か。それらをひとまとめにする対応は雑だ。勿論充分な支援を行った上で規制を行うなら話は別だが。それと同じで旅行も、公共交通機関を使って人が密集する場所に行くことと、自家用車を移動手段に人があまりいない場所に行くことは同じでない。前者だけを規制することは難しいから後者も含めて規制をかける、というなら話は分かるが、その場合も確実に観光業などへの充分な支援がなくてはならない。
そんな視点で考えれば、AIKAさんの言っていることの半分には共感する。自分はこの状況で旅行する気にはならないが、充分な対策を行った上で親しい者数人と自家用車で旅行することまで否定することはしない。しかし彼女の「コロナは風邪。咳止め飲んどけばいい」というのは全く共感できない。と言うよりも寧ろ、それでは「この状況でスノボなんか行くな」と言っている人達の言う通りになってしまう。
彼女が売り言葉に買い言葉でそんなことを言っているのか、根本的に認識に誤りがあるのかは定かでないが、「憂鬱」による負の連鎖がそこにあるとしか言えない。
昨年・2020年9月の時点で、市民の7割が新型コロナウイルスに感染する不安を感じている、という調査結果をNHKが報じていた(新型コロナに感染「不安感じる」70%超 NHK世論調査 | 新型コロナウイルス | NHKニュース)。現在よりもかなりマシな状況で既にそんな結果だったが、その後明らかに感染が拡大する中でも、当初より感染拡大に繋がりかねないという批判があった旅行や外食促進策を政府は止めなかった。 しかも現在計画しているのは支援の充実ではなく、規制や罰則の強化ばかりだ。5ヶ月前に70%だった不安は、間違いなく更に拡大しているだろう。
今多くの人の心にある「憂鬱」の原因は新型ウイルスだろうか。勿論それも原因の一つである。しかし、既に感染を抑え込んでいる国があることに鑑みれば、日本人の「憂鬱」の原因は、新型ウイルスではなく政府とその対応の酷さなのではないだろうか。