バイクロードレース・スプリントレースの世界選手権には、レース専用マシンを用いる MotoGPと市販車ベースマシンを用いるWSBKがある。トップ画像は2020年シーズンの開催地をまとめたものだ。例年はヨーロッパ以外も北南米/アジア地域を転戦するが、昨年はコロナ危機の影響で、感染拡大以前に開催された第1ラウンドを除く全てのレースがヨーロッパで行われた(2020年のMotoGP - Wikipedia / 2020年のスーパーバイク世界選手権 - Wikipedia)。
今年・2021年シーズンの予定は、どちらの選手権も昨年来の新型ウイルスの感染拡大状況に鑑み、前半シーズンはヨーロッパ諸国での開催を予定し、それ以外の地域での開催をシーズン後半に回している。しかし今年の前半に感染状況が好転しなければ、2021年シーズンもまた2020年シーズン同様にヨーロッパに限定した選手権になってしまうだろう。なぜそうなるのかと言えば、各国が感染拡大に繋がりかねない人の移動をかなり厳密に抑制しているからだ。
フランス政府は1/29、EU域外の国との不要不急の出入国を1/31から禁止すると発表した。世界を転戦するモータースポーツの世界選手権は、毎年1月のWRC(ラリー世界選手権)の第1ラウンド・モンテカルロ(フランス/モナコ)から始まる。今年は1/21-24に開催されたのだが、その際に、昨年イギリスのEU離脱が成立し、EU法の適用措置がなされていた移行期間も2020年12/31限りで終了したことと、フランス/EUの感染症対策の影響で、イギリス人ドライバーらや英国に本拠地を置くチームの現地入りが危ぶまれたが、関係者の尽力による特別な措置によって、なんとか開催に間に合ったと報じられていた。
昨年のモトGPやWSBKには日本人ライダーも参加していたが、では一体彼らはどうやってヨーロッパで行われる選手権に参加していたのかと言うと、シーズン中ずっと日本には戻らずにヨーロッパで過ごすことで参加することが出来たのだ。そもそも彼らの所属チームの多くはスペインかイタリアに本拠地を構えており、例年シーズン中の殆どをヨーロッパで過ごしているので、それ程大きな差はなかったのかもしれない。しかしイギリスにとっては昨年がEU離脱初年度、そして今年が完全離脱成立初年度だからラリーモンテカルロでの混乱が起きたのだろう。
WRCの第2戦も、長い歴史と伝統があり、シーズンで唯一のスノーラリーが行われるラリースウェーデンが予定されていたが、年が明ける以前の昨年12/16の時点で、同国の方針などの影響で中止が決まった。同じEU内でも国によって方針が違うので、2021年はラリースウェーデンの代替として、アークティック ラリー フィンランドがWRC2021のスケジュールには組み込まれている。
EU域内での国による対応の差は昨年のバイクロードレース世界選手権のカレンダーからも見て取れる。ドイツやイギリスでも例年レースが行われているのだが、昨年はMotoGP/WSBKともにレースが中止された。また、WSBKの開催国にそれが顕著だが、どちらの選手権も開催レースの半分以上がフランス/スペイン/ポルトガルに集中している。つまり2020年シーズンは、世界選手権と言いつつも、実態はヨーロッパ選手権どころではなくスペイン+隣国選手権な状態だった。この背景には、両選手権の運営を FIM:国際モーターサイクリズム連盟から委託されているドルナ社がスペインの会社であること、スペインが世界で最もバイクロードレースが盛んな国であること、そして極力人の移動を抑制した世界選手権開催を目指したからという理由もあるのだろう。
「フジロック、できないじゃなくて、どうやったらできるか考えて」なんていうミュージシャンがいたら、それこそ袋叩きに遭うんだろうけど、五輪アスリートはそういうこと堂々とテレビで言えるのね…
— のぶ (@nobuashi) January 23, 2021
というツイートが数日前に話題になっていた。確かにその通りだと思った。このツイートの前提には、日本テレビのこの報道がある。
体操・内村「東京五輪がなくなったら…」|日テレNEWS24
日本の国民の皆さんがオリンピックができないという思いが80%を超えている。できないじゃなくて、どうやったらできるかを皆さんで考えて、どうにかできるようにしてほしいと僕は思います
MotoGPやWSBKを楽しみにしている自分も、感染拡大を理由に2020年日本でのレース開催が中止されたことは残念でならない。しかし現状に鑑みれば、日本、というかヨーロッパ外でのレースが中止され、世界選手権と言いつつも西ヨーロッパ選手権な規模で開催されることも仕方のないことだと思う。そして運営や参加選手が見る側に「どうやったらできるか考えて」なんて言うのもかなり変だ。どうやったら出来るかは見る側が考えることか?いや、運営や参加選手、そして文化を維持促進する立場である自治体や国ではないのか。少なくとも、FIMやドルナはどうやったら出来るかを考えて、無観客での開催・開催地を限定して極力人の移動を減らしての開催などを選択した。
また、勿論全くEUや各国の支援がなかったわけではないだろうが、それらの国が感染症対策をした上でモータースポーツ開催を支援することはあっても、感染症対策よりもモータースポーツの開催を優先したという事実はないだろう。しかし今の日本はどうだろうか。もし日本政府が世界標準以上の感染症対策をしているなら、「できないと思わないで」という趣旨の発言にも多少は共感できたかもしれない。しかし実際はそうではないのだ。内村 航平は自分がオリンピックに出ることしか考えていない、と見えてしまっても仕方がないのではないか。オリンピックに協賛する大手メディアも同様に、何が何でもオリンピックをやることしか考えていない、と言われても仕方ないのではないか。
青学大・原晋監督が語る「心のワクチン」コロナ下の箱根駅伝と新発見 - 毎日新聞
さまざまな制約で閉塞感の漂う社会の中で、スポーツは人々に夢や希望を与え、『心のワクチン』になると思っています。何でも中止すればいいわけではなく、どうすれば大会を開催できるか考えていくべきです
これは毎日新聞が今日掲載した記事である。個人的に「心のワクチン」という表現はどうかと思う。確かに自分もMotoGPやWSBKの開幕を楽しみに待っている。しかしスポーツイベント開催が「心の支え」になることはあっても、ウイルス感染を直接的に防ぐワクチンにはなり得ない。スポーツイベントの開催を正当化したいが為に大袈裟な表現を用いることは逆に、スポーツ界全般に対する逆風を吹かせかねない。
今週末・1/30-31に、今や世界的なモータースポーツの1つになったドリフト競技を作った団体/選手権であるD1GPの、スケージュールの調整がつかずに2021年にずれ込んでしまった2020シーズン最終戦が、筑波サーキットで開催されている。
緊急事態宣言下で観客を入れた開催をしており、個人的には無観客開催にすべきだったと考えているが、選手やチーム、そして開催団体、更には開催サーキット、イベントに関わる自動車パーツメーカーや近隣の宿泊施設などには、恐らく充分な支援がなされておらず、人を入れないと運営や経営が成り立たない人がちが多く存在しているだろうから、観客を入れた開催を強く批判する気にもなれない。
そういう意味で言えば、スポーツイベント(勿論オリンピックを含む)開催は、関係者の生活を助ける側面もある。しかしそれでも感染を抑制したり防いだりする効果はないのだから、スポーツイベント開催は「心のワクチン」は言い過ぎだ。開催しないでも、若しくは無観客開催でも関係者が困窮しない為の充分な支援こそが、最も妥当な対策だろう。そういうことを要求もせずに「どうしたら開催できるか考えて」とか「心のワクチン」だとか言っていたら、スポーツ界のイメージを悪くするだけだ。
オリンピック候補レベルの選手なら、充分に検査も受けられるだろうし、万が一感染しても、自民党 石原のように優先的に治療を受けることができるだろう。そういう意味で言えば、彼らにとってスポーツイベント開催が心のワクチンになっていると言えるかもしれない。しかし一般市民には全く当てはまらない。
そんなことを言う人や、無関心を装っているのか、忖度しているのか沈黙する人が多いスポーツ界に対して、同じ様に人を集める活動であり、またスポーツイベント同様に誰かの心の支えになっているエンターテインメント界隈は、
#SaveOurSpace
新型コロナウイルス感染拡大防止のため営業停止を行う文化施設に対する 国による助成金を求めています。 また、この活動をきっかけに 文化施設だけでなく、飲食店、宿泊施設、その他娯楽施設や商業施設等、 あらゆるスペースに対しての補償が 行き渡ることを望んでいます。
と、存続を賭けて明確に助成を求めている。
日本のスポーツ界とエンターテインメント界、どちらの姿勢の方がまともかは、これを見れば一目瞭然なのではないだろうか。