バカをバカと呼ぶことは決して侮辱でも中傷でもない。それは概ね妥当な評価だ。しかしバカに当たるか否かの判断、バカの定義は難しく、言い換えれば、バカと呼んだことが侮辱・中傷に当たらないことを明確に示すことも難しい。だから節度ある人は、基本的に公に他人をバカ呼ばわりしない。李下に冠を正さず、とはそういうことだ。
政治家が関連業者から何かしらの利益供与を受けて便宜を図ることがあってはならない。賄賂を贈った者に有利に働く政策が、賄賂によって行われたのか、賄賂と関係なく行われたのか、後者ならそれ程問題ではないが、どちらであるかは判定がつきにくい。だから李下に冠を正さずで、便宜を図るか否かにかかわらず関連業者から利益供与を受けてはならないのは当然のこと、グレーな行為も避けるのが妥当だ。
その辺りの理屈については、賄賂 - Wikipedia にも書かれている。
3/10、週刊文春は、現職中の総務大臣、副大臣、退任後の総務大臣、副大臣、政務官に対して、NTTが接待を繰り返し行ってきたと報じた。この記事は、東北新社に努めていた、首相・菅の息子による総務官僚の接待が行われ、同社に便宜が図られていた件や、NTTが総務官僚を接待していた件の続報である。
内部文書入手 NTTが総務大臣、副大臣も接待していた | 文春オンライン
- 一人10万円超も NTTが山田前広報官と谷脇総務審議官に高額接待 | 文春オンライン
- 「ササニシキ送りますよ」菅首相長男の“接待攻勢”音声 | 文春オンライン
- 東北新社の虚偽報告決裁 接待受けた総務省官僚、山田真貴子氏ら関与:東京新聞 TOKYO Web
総務省は通信や放送に関する監督官庁であり、同分野の許認可に関して大きな権限を有している。前述の東京新聞の記事にあるように、総務省は、東北新社が2016年に行った衛星放送事業の申請に関して、外資比率が規制上限の20%未満とした虚偽の報告を見逃し、2017年に認可した。政府は3/12東北新社の放送認可を取り消す判断を行っている(東北新社の放送認定、取り消しへ 対象契約者数は700:朝日新聞デジタル)。
これは果たして単純な見落としだろうか。与党内からも「見落とすはずがない」「裏に何かないと、こんなことは絶対に起こらない」と指摘されている。にもかかわらず、未だに贈収賄問題、癒着問題、汚職、という表現を使っているメディアは殆どなく、未だに接待問題と矮小化しているとしか思えない表現を用いているメディアもある。
NTTによる接待に関しても同様で、汚職・癒着という表現を用いているメディアは、自分が見渡す限りは見当たらない。しかしそんなメディアよりも更に酷いのは、現役大臣時に接待を受けたとされる、野田 聖子と高市 早苗、そして現職の武田 良太だ。
NTTとの会食問題「岐阜県関係者の集まり」「記事に怒り心頭」 野田氏・高市両氏の見解要旨:東京新聞 TOKYO Web
この記事は、野田と高市の同事案に関する釈明、若しくは反論について書かれている。端的に言って、加計学園問題に関する安倍の説明と同じか、それよりも低レベルだ。しかも高市に関しては逆ギレまでしている。
記事にある野田の言い分をまとめると次のようになる。
- 2017年に立川敬二NTTドコモ元社長らから、2018年に村尾和俊NTT西日本社長らと会食
- 2017年の会食は岐阜県人会有志の懇談会で、立川氏もその1人
- 立川氏は当時は既に引退、支払いも個々人別々で県人会の話ばかりだった
- 2018年は、初当選以来友人として付き合っている村尾氏が、選挙区の岐阜の支店長が交代するたびに紹介していた会食の1つ
- 村尾氏は当時NTT西日本社長、仕事についてはほとんど話せず。社長が代金を支払っていた(今回の報道後返金)
- 共に総務省と全く関わらないプライベートな会合
2017年の会食は問題性があるか判断するのは難しいが、2018年については仕事の話をしていないかどうかは全く言い訳にしかならない。関係業者からの供応接待を禁じる国務大臣規範に違反していることは明白だ。
高市の言い分は次の内容である。
- 2019年と2020年に、澤田純NTT社長らと会食
- 大臣も副大臣も「通信事業の許認可に直接関わる」ことはないし「決裁」もしない
- 澤田氏らと会食したが、個人的関心のあったサイバーセキュリティーについて専門知識を聞いただけ
- 総務省関係団体や関係事業者と、会食を伴う意見交換は度々あったが、それも政務三役の仕事
- NTTに対しては、割り勘の会費を超えていたら約束違反なので、早急に単価を調べてもらい、差額が生じるのであれば支払う
- 週刊文春の記事には怒り心頭
2001年1月、当時の森内閣によって閣議決定され、2014年に安倍内閣によって改正された 国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範 - 内閣官房 には、次のように書かれている。
(6)関係業者との接触等
倫理の保持に万全を期するため、
- 関係業者との接触に当たっては、供応接待を受けること、職務に関連して贈物や便宜供与を受けること等であって国民の疑惑を招くような行為をしてはならない。
- また、未公開株式を譲り受けること、特定企業における講演会に出席して社会的常識を著しく超える講演料を得ることは行ってはならない。
供応(饗応)とは「酒や食事などでもてなすこと」で、接待とは「客をもてなすこと」である。この規範の供応接待が、"供応や接待"を意味するのか、"供応を伴う接待"を意味しているのかは定かでない。だが、その見返りを与えたか否かは関係なく、供応接待を受けてはいけないとしている。
自分の知らないところで相手が会費を多く支払っていれば、それだけで大臣規範違反が成立するし、そもそも関係事業者と飲食を共にすること自体がわきが甘いと言われる行為だ。会食した際の飲食代の総額を明確に確認していないことも同様に脇の甘さだ。相手が自分のことをハメようとして近づいていたら、接待を受けたという意図はなくとも責任問題に発展する。料金設定をどうにでも設定出来る、相手側が経営にかかわる店で会食するなど愚の骨頂だ。
例えば、たまたま誰か1人だけがNTT幹部と1,2回会食していただけなら、会食はしたが接待性はなかったという話にも信憑性を感じられそうだが、大臣や副大臣、政務官、そして総務官僚など20人以上が頻繁に会食を繰り返している状況では、全てが接待性のない会食とは到底思えない。そのような面から考えても、野田・高市ともに全く釈明にならない釈明でしかない。週刊文春の記事には怒り心頭などと言っている高市は更に悪い。
文春の記事には名前は上がっていないが、現職の総務大臣 武田 良太も酷かった。3/12の参院予算委員会で、就任後に澤田NTT社長らと会食したかを問われ「個別事案は答えを差し控える」という答弁を連発した。
武田総務相 NTT会食で答弁拒否を連発「答えを差し控える」:東京新聞 TOKYO Web
答えられないということは、やましいところがあるからとしか言えない。つまり会食をしたと言っているも同然だ。口の周りにクリームをべったりとつけながら「僕ケーキなんて食べてないよ!」と言う子供のようなものである。
武田は、2/16の衆院本会議で東北新社の接待によって「放送行政がゆがめられたことは全くない」と明言したが、2/22には「ゆがめられた事実は確認されていない」と軌道修正、2/24には「(放送行政の)実際の意思決定がどう行われたか、行政をゆがめられるといった疑いを招くことがなかったかを改めて確認する」と、発言の内容をどんどん後退させている(総務相「行政ゆがみの有無、改めて確認する」 接待問題:朝日新聞デジタル)。
また、武田は接待問題の検証委員会について、副大臣 新谷 正義をトップとする方針を示していたが、新谷の秘書がNTTと会食した事実を認め撤回し、全員を第三者とする意向を表明した。だが方針変更と会食事実発覚は無関係だと強調している。
「狂人の真似だと言って大通りを走り回れば、それはもう(狂人の真似ではなく)狂人そのものだ。悪人の真似だと言って人を殺せば、真似ではなくもう悪人そのものである」という意味の、
狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり
という一節が徒然草の中にある。野田や高市は「会食はしたが接待ではなかった」と言い、武田は会食の事実があっただろうに認めようとしない。「癒着でないとて、関連業者と会食を繰り返せば、即ち癒着なり」だろう。
これで一体何を信用出来ると言うのだろうか。これでもまだ自民党政権を支持すると言っている人達は、どんな思考回路になっているのか理解に苦しむ。