母親が好きだったので、幼い頃家ではよく井上 陽水のレコードがかかっていた。井上 陽水は特徴的な歌唱も多く、氷の世界のサビ・「こ・お・り・の・せ・か・ヒィー!!」などは子供心にも印象的で、弟と真似して歌っていた記憶がある。
感謝知らずの女のサビも、氷の世界に負けず劣らず特徴的だった。「だけどあなたは感謝知らずー、感謝知らずのおォォォんンンンンなァァァァァー!」のコブシをきかせた歌い方も、みんなのうたやアニメの主題歌ばかりの耳にはとても新鮮で、こちらも良く真似ていた。
井上陽水/感謝知らずの女 (1972年) - YouTube
この曲のことを思い出したのは、ミラノ在住デザイナー 小野 洋のnote・「後戻りできなくなった日|ono hiroshi|note」よんだからだった。
そこには、2021年で東日本大震災から10年ということに因んで、当時を思い出す記述があり、 イタリアにおける震災や原発事故への反応も書かれていた。そして、イタリアでも被災地支援募金イベントが行われ、当時インテルにいた長友選手、カターニャにいた森本選手、イタリアセーリエAに在籍していたバレーの狩野 舞子選手なども支援を募っていたとある。
当時日本に支援金や支援物資、災害派遣などをしてくれたのはイタリアだけじゃない。世界中の国や地域が、災害に苦しむ日本を助けようと、様々な支援をしてくれた。
しかし日本はと言えば、原発事故を起こしたにもかかわらず、ほとぼりもまだ冷めないうちからどんどん原発再稼働に傾いていった。放射能に汚染される地下水がどんどん増え、その処理もままならず、原子炉内に溶け落ちた放射能物質のゴミ・燃料デブリの除去の目途も立たない内から、オリンピック招致にかこつけて、首相が「原発事故の状況はアンダーコントロールである(制御下にある)」と、世界に向けて嘘まで吐いて。
原発事故を起こしたからと言って、その国はもう二度と原発を使ってはいけないということはないし、チェルノブイリ原発事故に次ぐ重大な原発事故だった福島原発事故によって、世界中で反原発の機運が高まってはいるものの、福島原発事故から10年、世界中で稼働する原発はやや増えている状況だ(福島事故から10年 世界の原発は微増:東京新聞 TOKYO Web)。だから10年前に日本を支援してくれた国や地域、人々全てが、日本の原発再稼働方針に落胆しているとは言えないかもしれない。
しかしもしそうだったとしても、今もまだ燃料デブリ除去作業が始まってもいないのに、2013年の時点で早々に日本の首相が「アンダーコントロール」という盛大な嘘を吐いたことは、支援してくれた人達を「日本は恩知らずだ」と落胆させるには充分な要因だっただろう。
更に2021年になって、再び東北地方で大きな地震が起きたことによって、事故を起こした原発の事業者である東電が、事故原発に設置されていた地震計の故障を放置していたことが発覚したり、同じく東電が再稼働を目論む柏崎刈羽原発で、テロ対策の為に設置していたはずの侵入者検知の装置の大半が、故障した状態で放置されたことが発覚するといった事案が相次いでいる。果たして東電、というか日本は、原発を管理運営する資質があると言えるだろうか。
このようなことも、10年前に日本を支援してくれた国や地域の人達に、「日本は恩知らずだ」と感じさせるのに充分過ぎる話だ。かなり大雑把な話だが、交通事故を起こして食うに困ると言う知り合いを助ける為に生活費を貸してあげたのに、その知人が整備をせぬまま闇車検で通した車に乗っていたら、あなたはどう思うだろう。自分ならもうその知人が困っても二度と助けてやらないと心に決める。そこまででなくても、少なくとも落胆しないはずがない。東電や日本がやっているのはそういうことだ。
今の日本の現状を見たら、世界中の決して少なくない人が、
Japanese are such an ungrateful persons!
(日本人は本当に感謝を知らない人達だ!)と思うことだろう。