自身で暴力的な行為に及ぶか、嫌がらせを行うかは別として、他人が苦痛を受けたり、不快な状況になることを認識することで快楽を得る性質を持ち合わせている人は決して少なくない。でなければイジメやセクハラ/パワハラなどが社会問題になるようなことはないだろうし、「他人の不幸は蜜の味」という言い回しが存在することもないだろう。
性格の良し悪しで言えば、そのような性質を持つ人は決して性格が良いとは言えないものの、程度の差はあれど、好感が持てない人の失敗や不幸を「いい気味だ」と思うことは、少なからず誰にでもある。そんなことは一切思わないという聖人君主のような人はそうそういない。
その程度なら特に問題はないのだが、自ら他人に暴力を振るうことで欲望を満たし、他人に対する優越感を得る為に嫌がらせをやるような人もいる。物理的・精神的暴力によって相手を支配することに快楽を感じる人も間違いなくいて、いじめ/虐待/差別などの原動力にはそのような要素があることがほとんどだ。
この頃アメリカではアジア人に対する暴力事件が増えているそうだ。
- いきなり顔を横一直線に切られ……急増するアジア系アメリカ人への暴力 - BBCニュース
- 76歳アジア系女性、男に突然殴られる ⇒ 棒で反撃、病院送りに(サンフランシスコ) | ハフポスト
- 「全てのアジア人殺す」米でアジア系女性ら8人殺害|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト
アメリカでは昨年、警察官による不当な暴力で黒人男性が死亡した事件をきっかけに、BLM・黒人に対する不当な扱いへの不満が爆発したばかりだ(ジョージ・フロイドの死 - Wikipedia)。それから1年も経たない内に今度はアジア人が標的になる事件が多発しているという。
白人至上主義者たちにとっては、白人or非白人という認識しかなく、以前からアジア人も黒人同様に差別を受ける側の存在だったが、昨年から続くコロナ危機と、差別を厭わない大統領トランプが、新型コロナウイルスを中国ウイルスと呼んでいたことが、昨今のアジア人嫌悪の大きな要因になっていると言われている。
馬鹿な日本人がSNSで「差別を受けるのは中国人や韓国人だから、日本人と分かるように旭日旗グッズを身につけよう」なんて言っているのを見て、日本人なら差別されないという幻想を抱いているのは世間知らずも甚だしいという感しかなかったし、そもそもその考え方は自分を名誉白人だと思っていなければ出てこない発想で、中国人や韓国人を見下しているからできる発想だろう。
神奈川新聞は昨日、在日コリアンに対するヘイトデモやヘイトスピーチの様子が記録されたDVDが、相模原市内の集合住宅のポストに複数投函されていた、という内容の記事を掲載した。
相模原・集合住宅のポストにヘイトDVD 管理組合が通報 | カナロコ by 神奈川新聞
昨年ナイキが、いじめや差別に悩む10代のアスリートたちを描いたWeb動画を公開した際、「日本には差別は少ないのにナイキは日本を貶すな!」と憤っていた人達がいたが、在日コリアンへの差別事案は頻繁に報じられる。報道される事案がその全てではなく氷山の一角でしかない。恐らくその手の主張をしている人達は、「差別ではなく区別だ」のような詭弁を使ってそんな認識を正当化しているのだろうが、そんなのはまったく容認できない。
相模原市では今、ヘイトスピーチに罰則規定を設けた「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」と同等以上の反差別条例制定に向けた動きがある。
- 「ヘイト」規制、各地では 相模原市も制定目指す:東京新聞 TOKYO Web
- ヘイトに罰則条例、相模原市も制定へ 21年度にも:朝日新聞デジタル
- 境界を越えて拡がるヘイト ―相模原市ヘイト規制条例に向けて | Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)
この件に関する動きや報道がある度に、 #それはダメだわ相模原 というハッシュタグを用いて条例に反対する人達が出てくる。ヘイトスピーチ禁止条例は市民を分断するとか、ヘイトスピーチの禁止は日本人に対する差別だとか、非論理的な主張によって、ヘイトスピーチ禁止をさせたくない人達だ。
なぜそんなにもヘイトスピーチを禁止されたくないのか。言い換えればヘイトスピーチを正当化したいのか。そもそもヘイトスピーチとは、
人種、出身国、民族、宗教、性的指向、性別、容姿、健康(障害)、といった、自分から主体的に変えることが困難な事柄に基づいて、属する個人または集団に対して攻撃、脅迫、侮辱する発言や言動
である(ヘイトスピーチ - Wikipedia)。そんなことは、そもそも日本では憲法で基本的人権を認めており、基本的人権には人種・性別・身分などによって差別されないことが含まれているので、ヘイトスピーチは法律や条例で禁止するまでもなくしてはならないのだが、表現の自由を大義名分に差別的な主張をやる人が後を絶たない為、そのような法や条例が必要になってしまう。
例えば、相模原市で制定されようとしている条例のヘイトスピーチの定義に問題がある、のような話ならまだ分かるのだが、条例に反対している人達が言うのは「ヘイトスピーチ禁止条例はいらない」であり、つまり、ヘイトスピーチDVDを投函するようなこと、というかヘイトスピーチそのものをしたい・やりたいと言っていると言っても過言ではない。
逆に言えば、今回報じられたヘイトスピーチDVD投函事件によって、条例の必要性が裏付けられたとも言えそうだ。
例えば、在日コリアンに誰か身内を殺されたとか、黒人に酷い暴力を受けたとか、アジア人に大金を盗まれたなどならまだ分かるが、差別をする人達の大半にはそんな経験があるとは思えない。何が差別主義者をそうさせるのか。ただただ快楽の為に、自分の欲望を満たす為に他人を傷つける人が確実にいる。
トップ画像は、Photo by Mika Baumeister on Unsplash を加工して使用した。