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はりぼてJapan

 コロナ危機で世界中のクラブが営業できない状態になり、その影響で毎週末、いや、個人的な配信を含めたら毎日のようにDJミックスがライブ配信されるようになった。自宅にはプロジェクターがあり、ワイヤレスイヤホンをつければ、自分の部屋がクラブのような環境になる。


 だいたい毎週末そうやって自宅クラビングを楽しんでいるのだが、つい先日「あれ?このDJが使っているDJ機材はパイオニアでもDenonでもないな」と思った。他にもDJ機器をリリースしているメーカーはあるし、個人配信だとそれらが使用されることもしばしばだが、プロ系の現場では、ミキサーは他のメーカーが使われることもそれなりにあるが、音楽プレイヤーに関しては、アナログターンテーブルはテクニクス、CDJ(若しくはCDが入らないデジタルプレイヤー)はパイオニアかデノン製とだいたい相場が決まっている。
 「どこのプレイヤーとミキサーを使ったDJセットなんだろう…」と考えながら、そのDJプレイを聞いていたのだが、なんとその映像は実際にDJ本人がプレイしているのではなく、GTAオンラインのアバターを使ったCGだった。クラブのDJブースはそもそも暗いし、昨今のゲームは恐ろしく解像度が高い。そして動きも自然である。GTAとDJ機器メーカーがタイアップして、実際の機材を再現したDJ用機材セットがゲームでも用いられていたら、それがGTAオンラインの映像だとは、多分最後まで気付かなかっただろう。
 DJブースの前で踊る客も再現されていて、その動きも殆ど違和感はなかった。クラブに行かない人には分かり難いかもしれないが、一般的イメージのウェーイ!系クラブを、ストイックに音楽を楽しみたい派はナンパ箱などと呼ぶ。パラパラなんかをやってた系のクラブがそれだ。多分ウェーイ!系のクラブを再現しようとしたら、CGで自然に表現するのは大変かもだが、純粋に音楽を楽しむ系のクラブでは、大抵みんな体を揺らす程度(か、+アルファくらい)にしか動かないので、CGで再現するのもそんなに難しくはなさそうだ。


 そこに実際にはないものを再現、と言えば、映画などもその類である。例えば、歌舞伎町が舞台の映画「新宿スワン」には、歌舞伎町という設定の屋外シーンも当然多い。本当は実際に歌舞伎町で撮影したいんだろうが、実際の歌舞伎町は平日休日関係なく夜も人が多く、撮影は困難で、同作品では主に静岡県浜松市・浜松駅付近で、歌舞伎町を再現して撮影していた。

浜松の人気ロケ地をアピール:中日新聞しずおかWeb

 新宿スワンでは専用セットを組んだわけではなく、実際にある街を歌舞伎町っぽく装飾していたが、撮影の為に再現された大掛かりなセットが日本にも存在する。有名なのは、渋谷スクランブル交差点を再現した 足利スクランブルシティスタジオ だ。

この施設は、CGでの合成を前提に渋谷スクランブル交差点の地面に近い部分だけを再現して、足利市五十部町の競馬場跡地に、当初は2019年7月から12月まで限定の施設としてつくられたものだったようだが、今も現存し使用されている。

 日本語に「はりぼて」という表現がある。本来は、竹や木などで組んだ枠、または粘土で作った型に紙などを張りつけ成形する造形技法でつくられる、張り子と同じ意味で(張り子 - Wikipedia)、だるまや赤べこ、犬張子などの民芸品のことを指す。張り子の中は空になっていて、外観の印象よりも質量が軽いことから、見た目のハッタリが効いているものなどを指して「はりぼて」とも言う。場合によっては揶揄のニュアンスが込められることもある。映画などの撮影セットはどんなに見た目が精巧でも、素材が薄いベニヤだったりと耐久性や防火性はそれ程重視されず、それよりもコストの安さを重視されることが多いため、撮影セットもしばしば「はりぼて」と呼ばれる。
 前述の足利市の撮影施設は常設で、決してコストの安さだけを重視したものではないだろうが、それでも、地下街や駅の入り口は実際の機能を果たしておらず、そんな視点で見れば「よくできたはりぼて」と言えるかもしれない。


 昨日からとうとう聖火リレーが始まった。フランスの新聞・リベラシオンとラジオ・フランスの特派員で、日本人の配偶者を持つ西村 プペ カリンはその取材で福島を訪れ、次のようにツイートしている。

双葉町は事故原発の立地自治体で、未だ町の大半が帰還困難区域のままだ。

避難指示区域の状況 - ふくしま復興ステーション - 福島県ホームページ

つまり、町の復興なんてこれっぽっちも進んでいないのが実状なのに、整備したほんの一部分だけを聖火リレーで回り、そこだけを見せるのは、はりぼての復興アピールでしかないのではないか。しかもそれは双葉町のリレーに限ったことではなく、福島の他の地域でのリレーでも同じだろう。
 彼女は、取材で実状を撮影した動画を公開している。

10 ans après, dans les villes sacrifiées près de la centrale Fukushima Daiichi - YouTube

タイトルを日本語にすると「10年後、福島第一原発の周辺で犠牲になった町では」だ。この映像にあるような、復興が進んでいない現状を、整備した場所だけを聖火リレーのルートにすることで覆い隠しているのが、組織委や政府が「復興五輪」と称して招致した2020東京オリンピックの現実だ。


 テリー伊藤が1993年に書いた「お笑い北朝鮮」の中に、元山空港で木製のミグ戦闘機のはりぼてを見たという話がある。軍事力を少しでも多くアピールする為の軍事衛星対策だったんだろう。北朝鮮については、平壌ばかり近代化しているが、農村は今も前近代的な状態だ、という話がしばしば報じられる。ロシア帝国の軍人 グリゴリー ポチョムキンが、皇帝エカチェリーナ2世の行幸のために作ったとされる偽物の村に因んで、そのようなハッタリを効かせる為に作られた見せかけだけの施設のことを、ポチョムキン村と呼ぶ(ポチョムキン村 - Wikipedia)。
 テリー伊藤は、東京オリンピック・聖火リレーを見て、果たして「お笑い日本」という本を書くだろうか。本ではなくとも過去に自分が書いた著作に因んで、その種の話をメディアでするだろうか。勿論それをするのはテリー伊藤ではなくてもいい。メディア関係者が誰かそんな指摘をするだろうか。

 日本はハリボテだ、ポチョムキン村だ

と誰も指摘しない。若しくはできない。そんなのが復興五輪、いや日本全般の現状である。


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