2011年(東日本大震災の被災3県・岩手/宮城/福島は2012年)に地上アナログ放送が停波するまで、1952年に発売された日本初の家庭用テレビでも一応番組を見ることは出来た。つまり、最長でおよそ60年間、画質等を度外視したら機器を使うことができた。
2011年の地上アナログ放送停波は2001年の電波法改正で決まったことなので、アナログ放送停波には決定から10年の猶予があった。なぜ10年もの猶予が必要だったのか。例えば猶予が1年しかなかったら、停波決定前日にアナログテレビを買った人は、そのテレビをたった1年しか使えないことになる。勿論デジタルチューナーを買い足すなどの延命方法はあるが、単体でたった1年しか使えないことが分かっていたら、そんなテレビを買わなかっただろう。そのような不公平や混乱を避ける為に猶予期間が必要だったんだろうし、電化製品の賞味期限のようなものも勘案し、できるだけ無駄に廃棄される機器を出さない選択を消費者ができるようにする、という意味もあっただろう。
2008年までアナログ放送用のチューナーしか持たない機器が製造され、その後しばらく販売もされたが、2001年以降にアナログチューナーしか持たない機器を買った人は、2011年以降は単体では放送を見ることができなくなるのを承知の上で購入していたことになる。
今日のトップ画像は、自分の手元にある、先月・2020年2月の初旬に2012年に発売されたApple TVの画面に表示されたものである。2020年3月から、Apple TV(第3世代)は、単体ではYouTubeを鑑賞することが出来なくなる、という内容だ。
来月から古いApple TVでYouTubeアプリが使えなくなるそうです | ギズモード・ジャパン
Apple TVは決してYoutube専用機ではないので、Youtubeが見られなくなっても機器として全く機能しなくなるわけではないし、説明にもあるように、iPhoneやiPadを使ってAirPlayを経由すれば、テレビ画面でYoutubeを鑑賞することは引き続き可能だ。だがそれは、アナログテレビで2011年以降もテレビ放送を見るのには、デジタルチューナーが別途必要になったのと似ている。
アナログテレビは、主要な機能であるテレビ放送を受信出来なくなることが決まってから、実際に受信出来なくなるまでの猶予として10年もの期間があったが、Apple TV(第3世代)で、主要な機能であるYoutube鑑賞ができなくなることに関して、消費者に与えられた猶予はたった1ヶ月しかなかった。例えば、2010年以前、長く見積もっても2013-2014年頃までは、Youtubeの鑑賞はテレビ放送の鑑賞と同じような種類のものとは言えなかったかもしれない。しかし、現在Youtubeは日本で6500万人が使用するメディアとなっており、テレビ放送と肩を並べるような映像メディアとなりつつある。
Apple TV以前に、自分が持っているソニーのテレビは単体でYoutube鑑賞が出来る機種だった。しかし2015年に対応が打ち切られた('12年以前のテレビなどでYouTubeアプリ対応が4月20日終了。ソニーのTVやウォークマンも - AV Watch)。それ以降はテレビ単体ではYoutubeを鑑賞することができなくなり、テレビ画面でYoutubeを鑑賞するのにApple TVを使用してきた。
テレビだけで鑑賞できるなら、手元に必要なリモコンはテレビのリモコン1つだけ。しかしApple TVで鑑賞する場合、テレビとApple TVのリモコン2つが必要になる。それだけでも利便性はかなり下がるので、Youtubeをよく見る人且つ裕福な人なら、テレビごと買い替えるのだろう。その場合、実質的にはまだ使えるテレビが、企業がサポートを打ち切った所為で1台廃棄されることにもなりかねない。
Apple TV単体でYoutube鑑賞ができなくなり、iOS端末からAirPlay経由での再生する場合でも、iOS端末とApple TVはAirPlayで連動するので、iOS端末を操作すればよいだけでApple TVのリモコンは必要ない。だから状況はこれまでと変わらないかも?と思ったが、数日間その方法で利用してみたところ、結構頻繁にAirPlayの連携が上手くいかないことがあり、それなりのストレスになる。動画と動画の間で連携ミスが生じるなら、それ程ストレスでもなさそうだが、動画の途中に挿入されるCM動画に切り替わる際に連携ミスが生じることが多く、ギリギリ実用に耐える程度のレベルだ。これでは、サポートが打ち切られたことが、まだ使えるApple TVの廃棄を増やす要因になる。
そもそもApple TV(第3世代)自体、まだ発売から10年も経ってないのに、主要な機能が使えなくなるのは腑に落ちない。テレビの場合はあくまでテレビ受信機器だったが、Apple TVは明らかにネット配信閲覧用の機器だ。そんなにも早々に機器を切り捨てるとは、アップルや、Youtubeとその母体であるGoogleは、サステナビリティ/持続可能性について一体どんなスタンスなのだろうか。
前述のGizmodeの記事を読む限り、今回の措置はAppleではなくYoutubeによるもののようだが、Appleも似たようなもので、アップルはMacでもiPhoneでもiPadでも、買い替えを促す為か、かなり早い段階で従来機器のサポートを打切り、最新OSに対応しなくなる。OSが更新されないと、アプリの利用も限られることになる。今自分の手元で稼働している一番古いiPad、2012年発売の第4世代では、もうTVerもGyaoも見ることが出来なくなった。早々にOS更新を打ち切るアップルや、TVer(民放各社)やGyao(Yahoo!)などようなアプリでの古いOSのサポートを止める企業・業界は、発売から10年にも満たない機器を無効化に近づけていること、つまり廃棄物を増やすことに加担していることをどのように考えているだろうか。
発売から10年にも満たない機器のサポートを怠り切り捨てる企業が、サステナビリティ/持続可能性の重視を謳っていることには、かなり大きな欺瞞を感じる。そのような看板が掛かっていても、看板を掲げているだけで実態は異なる、というケースもザラなのではないか。自民政権の女性活躍・働き方改革と同様に。