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勤勉至上主義の弊害

 とある知り合いの結婚式で、新郎の上司が挨拶の中で「○○君は、毎日始業時間の1時間前には出社する勤勉な青年で…」みたいなことを言っていて、それに強烈な違和感を覚えた。始業時刻よりも1時間前に出社しているから勤勉?いや、出社していてもボーっとしているだけなら、遅刻するよりはいいだろうが、決してそれは勤勉とは言えないのではないか。


 始業時刻よりも自発的に早く出社して、自分のスキルを磨くためにその時間を使っているなら、それは勤勉と言える。しかし、朝早く来ることが勤勉なのではなく、自分のスキルを磨くことに時間を使うことが勤勉であり、褒めるべきは朝早く来ることではない。終業後に同じ様な時間を設けていても同様に勤勉だ。朝早く来るから勤勉なのではない。しかし日本では、世間一般的に「朝早く来れば勤勉」みたいな風潮が未だにある。

 「長時間働けば勤勉」のような風潮も根強いし、パソコンに向かっていると仕事をしているように見られる、メモをこまめに取っていれば仕事をしているように見られるが、同じことをスマートフォンでしていても「遊んでいる」と言われるケースがしばしばある。それは労働に限らず、学生の勉強でも同じで、未だに机に向かって紙とペンでやるのが崇高であるとし、ソファに座ってパソコンやタブレット端末などで学習することを毛嫌いする風潮もまだまだある。

 労働にしろ勉学にしろ、本来は求められるのは結果であり、同じ結果が得られるのなら、どんな方法で結果を得てもいいし、その結果を得るのにかかる時間は短い方がいいはずだ。それが合理性というものだろう。しかし未だに、如何に効率の悪い方法に耐えて結果を出したか、みたいなことを重視する・評価する傾向が根強く残っている。

テレワーク 働きぶりの“見える化” 導入広がる 新型コロナ | NHKニュース

 この記事によれば、テレワーク、つまり自宅等での勤務に関しても、社員の勤務時間や勤務状況を管理するシステムの導入をする企業が増えているらしい。どんなシステムなのか、記事に書かれている例では、

  • パソコンのデスクトップ上に「着席」「退席」ボタンを設け、テレワークを行う社員が業務の開始時と終了時にそれぞれクリックすると、自動で勤務時間を記録
  • 昼食など休憩も、そのつど「退席」「着席」のボタンをクリックさせ、休憩時間も1秒単位で記録
  • 記録された内容はシステム上で管理され、会社や上司が、部下が今働いているのかどうか、月の勤務時間などを確認できる
  • 社員が「着席」のボタンを押して仕事をしている間、パソコンの画面がランダムに撮影され、上司に送信される仕組みもあり、いつ画面が撮影されるか社員には分からない

つまり、テレワークですら日本的な勤勉さを尺度にした評価をしようというのだ。馬鹿馬鹿しいばかりでなく、常に監視される恐怖すら覚える。そんなシステムを導入する企業では絶対に働きたくない。
 このシステムを導入しているらしい企業の管理職は「働きすぎている人はいないかというのも確認できるのが非常に便利」なんて言っているが、監視する側の偽善的な話にしか聞こえない。「働きすぎている人はいないか」を確認するのに、着席中に従業員を隠し撮りする必要なんてどこにあるのか。


 前述したように、本来は仕事の評価は結果を重視すべきだ。勿論結果だけが全てと言うつもりはない。結果だけが全てで、結果が実らなかった場合のリターンがゼロ、というのは、完全に自分の裁量で仕事をしているような場合を除いて、決して好ましいものではない。しかし、それでも結果よりも勤務態度や人間関係重視で評価が下されるのは決して妥当とは言えない
 それは勉学に例えれば分かりやすい。テストで100点を取れるなら、勉強する時間が1分だが1週間だろうが、どちらでも評価は概ね同じでなくてはならないし、勉強方法だって机に向かって紙とペンでやろうが、ソファでくつろぎつつパソコンやスマホを使おうが、どちらでも評価は同じにしなくてはいけない。前者に関しては、短い勉強時間で100点を取った方の効率の良さが、寧ろ評価されるべきなのだが、何故か日本では1週間かけて勉強した方が「努力をした」という評価になりがちだ。つまり効率の悪い方が評価されることもしばしばだ。

 同じ状況が労働現場にもある。兎に角長時間働くことが勤勉であると重視され、長時間働くことは効率の悪さでもあるのに、短時間で効率よく済ますとサボっていると言われてしまうこともよくある。短時間で効率よく済ませると同じ賃金で更なる労働をさせられるのなら、多くの人は効率など追い求めずにのらりくらり、ダラダラと時間をかけて仕事した方がいい、と考えるようになるだろう。それは労働者/企業の双方にとって不幸である。そんな非効率を生み出す状況が日本にはある。


 日本では「勤勉」は美徳とされているが、勤勉とは「仕事や勉強などに、一生懸命に励むこと。また、そのさま」であり(勤勉とは - コトバンク)、結果には関係ないことだ。結果よりも勤勉かどうかを重視することは非効率を生む。勤勉さも評価の対象にすべきであるが、勤勉さを過剰に評価することは、決して好ましいとは言えない。


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