人を狂わせるものは沢山ある。例えば地位は人を狂わせる。相応の地位についたことによっておごり高ぶる人の例は、大小合わせて多く枚挙に暇がない。金も人を狂わせる。大金を手にした人の中には、金で何でも買える、手に入れることができると勘違いしてしまう人が少なくない。場合によっては、金こそが全てであるかのように、稼げない者は人ではないと言わんばかりの姿勢を恥ずかしげもなく示す者もいる。
人脈もまた人を狂わせる。よく「○○さん知ってますよ」と自慢げに言ってくる者がいる。そもそもその繋がりが髪の毛のようにか細いことも多いが、仮に有力な人と人脈があったとしても、それはその人の力であって、知り合いである者の力ではない。このタイプは、俗に言う「虎の威を借りる狐」というやつだ。
なぜ人は、このような勘違いを頻繁に引き起こしてしまうのか。かく言う自分も、そのようなことが全く身に覚えがないわけではない。中学2年生になって、部活で初めての後輩が出来た時は、少なからず先輩風を吹かせた。クルマが好きなので、新しい車(と言っても中古車)を手に入れて、それなりに見栄えするようにいじると、「人の注目を集めている!」のようなよくわからない優越感を覚えたりする。実際は多分殆ど誰も気に留めてもいないだろうに。
つまり、人は何かしらステイタス性のあるものを手に入れることによって勘違いを引き起こしやすい生き物、だ。
「偉い」とはどんな意味か。漠然としたイメージはあるものの、改めて考えると、うまく説明できない自分がいた。偉いとは - コトバンク には、
- 社会的地位や身分などが高い
- 人間として、普通より立派で優れている
- 程度がはなはだしい、ひどい
- 予想外である、ひどく困ったさま
- 苦しい、つらい、しんどい
が「偉い」の意味として掲載されている。こうやって並べられてみると、偉いの最も根本的な意味は「普通ではない」「甚だしい」なんだろうと感じる。素晴らしいというニュアンスでも、酷いというニュアンスにも、つまりポジティブにもネガティブにも「普通ではない」ということを示すのに使われるところが大変興味深い。
よく「偉いと勘違いする」という表現も耳にする。この場合の偉いは、概ね「人間として優れている」であり、自分のことを優れていると勘違いする、という意味で使われる。勘違いする原因は、冒頭で示したようなことにある場合が殆どだ。
「徹底的に干す」「脅しておいて」平井大臣、幹部に指示:朝日新聞デジタル
平井氏は4月上旬にあった内閣官房IT総合戦略室のオンライン会議で、減額交渉に関連して、「NECには(五輪後も)死んでも発注しない」「今回の五輪でぐちぐち言ったら完全に干す」「どこか象徴的に干すところをつくらないとなめられる」などと発言。さらに、NEC会長の名をあげ、幹部職員に「脅しておいて」と求めていた。
ブラック企業 - Wikipedia によれば、この表現は2001年に2ちゃんねるの就職活動板で生まれた言葉だそうだ。当時、就職してはいけない企業ランキングが盛り上がっていたそうで、法政大学就職課内で用いられていた、離職率が高く学生には勧められない企業のリストの画像が、関係者によってアップロードされるということがあったそうだ。そのブラックリストと、当該スレッド参加者が独自で作成したランキングには多くの共通点があり、その頃からブラックリスト企業を略して「ブラック企業」と呼ばれ始めたそうだ。
この説が概ね正しければ、パワハラ横行・労基法違反などを厭わない企業を意味するブラック企業という言葉が生まれ、日本で問題視され始めてからもう20年が経つ。にもかかわらず、こんな恫喝を平気でやる政治家が大臣になっている。こんな恫喝による無理強いを企業がされたら、そこで働く社員にしわ寄せが起きるのは当然だし、その下請けが無理な金額で仕事を負わされ、その社員や孫請けにも当然悪影響が波及するだろう。つまりブラック企業のトリクルダウンが起きるわけだ。
平井は、昨今現政権下で癒着業者への高額発注と、そこから不当な中抜き事案が頻繁起きていることを危惧し、高圧的な予算減額をやったのかもしれない。しかし、どちらも共に不適切な行為だ。不適切というよりも違法な行為の恐れも強い。兎に角その背景がどうあれ、施主の都合によって、仕事の途中で一方的に予算を減額されたらたまったものではない。しかもこのケースでは、施主は政府なのだ。
平井大臣“脅しておいた方がいい”発言で釈明 「不適当な表現」|TBS NEWS
(平井が「脅しておいた方がいい」「徹底的に干すからね」と支持した幹部は)10年来、私が一緒に仕事をしてきた仲間でございますので、非常にラフな表現になったなとは思います。表現はやはり不適当だなと思いますが、今後気をつけていきたいと思います
これは、当該報道を受けて平井が会見で示した釈明である。釈明とは「自分の立場・事情などを説明して理解を求めること」であるが、こんな態度で到底理解などできるわけがない。映像を見ても、自分がしたことを恥じている様子も、悪い事をした、不適切なことを言った、という態度には全く見えない。
平井は間違いなく、国会議員になったこと、大臣になったことで、自分を偉いと勘違いしている輩の一人だ。この種のタイプは平井だけでなく、現政権、自民党幹部には山ほどいる。
そのような政権を許している国、そのような党を与党に選ぶ国が、どうなっているのかは、今の社会を見れば一目瞭然なのだが、与党政治家や官僚、メディア関係者には、裸の王様の側近たちのように、指摘もせずに従属するタイプが多いし、日本の国民も裸の王様の治める国の市民のように、見て見ぬふりする者が圧倒的多数だ。童話では子供だけが王様が裸であることを指摘したが、まさに今の日本もそんな状況で、積極的に批判や指摘する者が少数派である。
トップ画像には、The emperor's new clothes by Richard Halls - Artvee を使用した。