今日のトップ画像は、坂本 龍馬が海援隊を率いて太平洋を渡り、米国ロサンゼルスに着いた記念に撮られた写真だ。勿論嘘である。ハリウッドサインが設置されたのは1923年で、坂本 龍馬はそれよりも50年以上前の1867年に暗殺されている。そもそも、坂本 龍馬が海を渡って米国へ行った、という事実もない。
パソコンが普及する以前も、写真や印刷物を切り抜いて張り付けるというコラージュ的な手法で、元画像を作成し、それを写真に撮るとかコピーするなどの方法で、合成することが出来た。トップ画像のような鮮明とは言い難い白黒写真であれば、そんなに難しいことでもなかった。だが、パソコンが普及してPhotoshopのような画像加工ソフトが一般的になると、合成写真をつくるハードルは一気に下がった。因みに、英語では合成写真、合成された、ということを
photoshoped と言う。最早、photoshop は合成するという動詞にもなっている。
Windows95によってパソコンの一般家庭への普及が始まった。インターネットの普及も同時に始まったが、当時の回線速度は56-64kbps程度が一般的で、画像1枚表示するのにもそれなりの時間がかかった。Win98の頃になると徐々に、CATVやADSLなどの所謂ブロードバンドの普及が始まり、ネット上にある画像をストレスなく閲覧できるようになった。時を同じくして流行ったのが、ヌードグラビア等にアイドルなど女性有名人の顔を合成した、所謂アイコラだ。
アイコラに限らず、いくつかの写真等を合成して、実際にはないものをあたかも存在するように表現する行為は、パソコンと画像編集ソフトの普及でとても一般的になった。それに伴って、写真で指名する嬢を決める風俗などでも、所謂パネルマジックが当たり前になった。誰が見ても合成していることが丸わかりな、修正する方が損なのでは?と感じるような下手な写真修正もある一方で、実際の嬢を見て初めて「写真詐欺だ!」と気付くような、上手い写真修正もあって、当時はまさに玉石混交だった。
上手い修正と言えば、グラビア業界でも写真の修正は行われていたようで、2008年頃に商業グラビアに関する修正を指示したものとされる画像が流出するという事案が発生して話題になった。多分流出した時期よりも前からそのようなことが一般的になされていたんだろうし、女性を美しく見せる修正に限らず、食品等の広告でも美味しそうに見せる為の演出や修正・合成はなされていたし、既に画像編集をやっていた自分は、それ程驚くようなことでもない、と個人的には思っていたが、当時は画像に写っていた女性アイドルのブログに避難が殺到したようである。
つまり、その頃までは、写真を加工して実物よりも美しく見せようとする行為は、人を騙す行為のように認識され、嫌悪される対象だった。しかし、それから10年も経たないうちに、誰もがカジュアルに写真修正や画像加工をやるようになった。
2000年代後半、プリクラ機で、目を大きくしたり肌を白くしたり、しわを目立たなくしたりする画像加工レベルの修正機能が流行り、2010年頃からスマートフォンが普及し始め、従来の携帯電話よりもカメラの機能が各段にアップし、気軽に画像を加工・修正できるスマートフォンアプリも多く登場したことによって、所謂”自撮り画像を盛る”行為が一般的になっていった。2010年代中盤までは、風俗店の下手くそな修正写真よりもレベルの低い写真が多かったが、この数年は、アプリの更なる機能向上やユーザーがナチュラルな加工を好むようになったことで、一般的な画像合成のレベルが底上げされた感もある。
また、そのような写真修正的な合成だけでなく、トップ画像のようなコラージュ的な合成も身近なものになった。以前は対象を手動でトリミングしなくてはならなかったが、今では人物などを自動で認識して切り抜いてくれる機能がある。また、完全ではないものの、写真の中に写っているものを自動で消す機能の精度も上がっている。
つまり最早、画像はそれだけで決定的な証拠になり得ない状況になっている。
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更に、2010年代中盤以降、遂に画像だけでなく動画も簡単に合成ができるようになった。当初は気軽なものではなかったが、パソコンやスマートフォンの処理能力とソフトウェアの機能の向上によって、今では、イリーガルなアダルトサイトでアイコラの動画版が複数確認できるような状況になっている。つまり、最早画像だけでなく動画も、それだけで決定的な証拠にはなり得ない。
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なぜこんなことを書いたのかと言えば、この記事を読んだからだ。
平井大臣、文春報道に抗議 音声データの公開も検討|TBS NEWS
東京五輪のアプリ事業費削減に関連し、デジタル改革担当大臣の平井 卓也が、内閣官房IT総合戦略室の会議で幹部らに対して、請負先のNECを「完全に干す」「脅しておいた方がいい」などと指示したと、朝日新聞が6/11に報じた。平井はこれを認めたものの、その責任をどのように取るのかは示されていない。
- 「徹底的に干す」「脅しておいて」平井大臣、幹部に指示:朝日新聞デジタル
- 「ラフな表現になった」 平井大臣、「脅し」発言を陳謝:朝日新聞デジタル
- 「徹底的に干す」「脅しておいて」発言の“ワニ大臣”平井卓也デジタル担当相 弟が社長を務める四国新聞が報じた見出しは…? | 文春オンライン
大臣が私企業に脅しをかけた、かけようとしたことは明白であり、少なくとも本人は辞任すべき事件であり、個人的には、首相の任命責任も加味すれば、総辞職が妥当な事件だと考える。国家権力が一般に不当な圧力を加えるなどあってはならない。平井は間違いなくそれをやったのだ。
その件の続報、
【新音声入手】親密企業の参入を指示 平井卓也デジタル相に官製談合防止法違反の疑い | 文春オンライン
という記事を、週刊文春が6/16に掲載した。記事によれば、NECへの脅しを支持した平井が、同じ会議の場で、デジタル庁が発注予定の事業に、自身と近い関係にあるベンチャー企業を参加させるよう求める発言をしていた、とのことで、動画にはその音声とされるものが含まれている。
前述のTBSの記事は、その記事に対する平井の反論を取り上げたものであり、平井は、
(文春の記事の内容は)意図的に誤解を与えようとするものと考えておりまして、昨日、出版社には訂正または記事の全体の削除の抗議をさせていただきました。異例中の異例ですけど、(オリジナル音声の)公開も検討をする
会議の中で自分は企業名を言っていない
不鮮明な部分を意図的に文章で補っているように思える
と反論している。平井の会見を受けて週刊文春は「本件は、税金が投じられ、最も公平公正に行われるべき国の事業に関わる疑惑であり、一連の音声を聞けば平井大臣が親しい関係者をデジタル庁の事業に参加させるよう指示していることはご理解いただけるものと考えています。記事の訂正や削除に応じることはできません」と平井の主張を受け入れない姿勢だ。
前述のディープフェイクの記事を見てもらえればわかるように、今では実際には喋っていないことを、あたかもそう言っているかのように見える動画を、ソフトウェアで合成することも決して難しくはない。動画でも出来るのだから、音声なんてもっと簡単だ。つまり、文春の明瞭とは言い難い音声も、全く意味はないとは言わないが、それだけで決定的な証拠にはならないし、平井が後から出してくるという、オリジナルと称する音声も同様だ。
但し付け加えれば、声の主は、ソフトウェアで音声を合成する必要もなく、自分の声を後から足すだけで、容易に内容を改竄できる環境にある。平井がそれをやるかどうかは別として。
個人的に引っかかるのは、平井の「会議の中で自分は企業名を言っていない」という弁明である。これまで不祥事を起こした現自民党政権の大臣・閣僚らが、軒並み当初指摘を受けた行為を、嘘や詭弁によって否定してきたこと、自民党政権下で、関係者と懇意の業者がことごとく優遇され、その選定の過程や選定理由が不明なケースが多いこと、平井は直前にNECを脅すように指示していることなどを勘案すると、「企業名は言っていない」が概ね事実だとしても、当該企業を優遇するように暗に指示・示唆したのは事実なのではないか、という気がしてならない。