それ以前からあった表現ではあるが、イスラミックステートの台頭と共に、イスラム教原理主義という表現を耳にする機会が増えた。イスラミックステートの衰退と共に、現在はそんなに多く耳にすることはないが、今もイスラム教過激派と同様の意味でしばしば用いられる表現である。
原理主義とは何か。これまで詳しく考えたことはなかったが、改めて考えてみると、例えばイスラム教原理主義で言えば、イスラム教の教え、つまりコーランに書かれていることは全て正しく疑いようのないことであるとし、それを原理・根本的な価値基準・判断基準として捉える考え方/生き方、のようなことであると解釈していた。
この解釈は概ね正しかった。しかし調べてみると、そもそも原理主義とはキリスト教用語であり、聖書を絶対的な根本原理と捉え、科学的な新事実でも聖書の内容に反するなら認めない考え方、宗教観のことで、○○原理主義と○○を付けずに単に原理主義と言えば、それはキリスト教原理主義を指す。
因みに、”自然の摂理” の摂理も、元はキリスト教用語であり、キリスト教における神の意思、恩恵を指す言葉である。
原理主義の厄介なところは、原理・根本とすることが無条件に絶対的に正しいという前提に立ち、それに反するものは一切認めない排他的な性質である。聖書やコーランなどに関して、それらには様々な解釈が可能な部分も少なくないが、ある解釈だけを是とし、それ以外の解釈を認めない妄信・狂信的な側面を持ち合わせることもある。イスラミックステートはまさにその典型的な例だ。イスラミックステートと程過激ではないにせよ、キリスト教原理主義にも似た側面を持つ人々がいて、派閥がある。キリスト教根本主義やトランプ支持者が多かった米国の福音派などがそれに該当する。
1980年代頃から、宗教とは無関係の市場原理主義という表現が一般的に用いられ始め、原理主義は宗教用語にとどまらない使われ方をするようになった。市場原理主義とは、低福祉低負担・自己責任を重視、所謂小さな政府を是とする考え方である。自由放任主義的な思想であり、ネオリベラリズムの方の新自由主義と重なる部分が多い。市場原理主義という表現が一般的になって以降、○○を絶対的な是とする考え方・姿勢を○○原理主義と表現するようになったのかもしれない。
今日のトップ画像には資本原理主義という言葉をあしらって、行き過ぎた資本主義、金儲け第一主義を表現した。1965年のアジアアフリカ会議にて、パキスタンのブット外相が、「日本人はエコノミックアニマルのようだ」と日本人の経済活動を評し、自分達の経済上の利潤追求を第一にアジア諸国へ進出する日本人・日本企業を牽制したそうだが、それはまさに資本原理主義であり、=エコノミックアニマル ということだろう。恐らく、戦後たった20年足らずの時期だったので、当時の日本の経済的国外進出は、戦争時の東南アジア圏への進出の再来と捉えられていたことだろう。
資本主義経済の国の企業は、どこも利潤の追求を第一に考えるものだが、それでも、ある程度の規模に成長した企業には、利潤追求以外の役割が求められ、欧米諸国には積極的に社会問題解消に取り組む企業も少なくない。
しかし一方で日本企業はどうだろうか。日本企業は環境問題へは比較的積極的なように見えるものの、一方で、イデオロギーが絡んだり、人権問題など人種や性別などの間で対立の起きやすい社会問題に対しては消極的に見える。直近で言えば、昨年・2020年10月にテニス選手の大坂 なおみが #BLM・黒人に対する人種差別への連帯を示した際に、彼女のスポンサーである日本企業の大半は、我関せずの姿勢を示した。大坂の主張に明確な賛同を示したのはヨネックスだけだった。
大坂なおみが語った「スポンサー企業失う恐怖」 企業側はどう答えた?【14社調査】 | ハフポスト
スウェーデンの H&M や、アメリカのナイキなどが、強制労働によって生産されている懸念があるとして、新疆ウイグル自治区産の綿花を使用しないと宣言したのに反して、アシックスは、新疆ウイグル自治区を含めた中国国内から引き続き原材料を購入する方針と、台湾は中国の一部分とする一つの中国原則への支持、「中国の主権と領土を断固として守り、中国に対する一切の中傷やデマに反対する」という声明を3月に表明した。
「中国に対する一切の中傷とデマに反対する」アシックス中国法人、新疆ウイグル自治区めぐる問題で声明 | ハフポスト
このアシックスの表明には多くの注目と批判が集まった。当初アシックスの広報担当者は、声明は日本の本社の了解を得て出されたもので、撤回の予定はないとしていたが、批判を受けてSNSへ投稿した声明を削除し、しかも削除後は「中国法人が許可を得ず出した」と説明を一転させている。
アシックスに関しては、2019年に育休を取得しようとした男性に対して不当な処遇を科したとする裁判も起こされている。自社社員に対する人権意識すら低いのだから、社外の人権問題など当然関心は低く、金儲け第一主義・資本原理主義の会社なんだろう、というイメージを抱かざるを得ないし、現在は一応和解が成立しているようだが、社内に人権問題を抱えている企業が社外の人権問題に取り組んだとしても、説得力は著しく低い。
- アシックス、ウイグル問題めぐる声明を削除。「中国法人が了解得ず出した」当初の説明から一転 | ハフポスト
- アシックス「パタハラ」裁判、男性の育児休業めぐり社員が訴え 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
- 【直撃】今も午後3時に退社、パタハラでアシックスを訴えた男性のその後 | Business Insider Japan
- アシックスのパタハラ訴訟が和解。労組「男性育休の考え方は変わってきている」 | Business Insider Japan
このような傾向は決してアシックスに限らない。日本の多くの企業が、労働環境に関する問題、労働力の不当な搾取の問題を抱えており、しかし2010年代中盤以降、日本の大企業の内部留保は過去最大になっており、つまり日本企業の大部分は、人権<利潤追求 という状態である。
ハフポストが、新疆綿不使用を宣言したH&Mの中国における2021年第二四半期の売り上げが、前年比で28%減となったと報じている。
「新疆綿は使わない」と声明→中国で不買運動を受けたH&M、売り上げ28%減。「報いを受けた」中国メディア | ハフポスト
資本主義であっても、資本原理主義であってはならない。お金儲けも大事だが、お金儲け以外にも大事なことはある。ということを、日本企業はもっと意識すべきではないのか。売り上げ減からヘイト本に手を染めた出版社は、一時的な延命は出来てもイメージ悪化によって、ヘイト本以外の売り上げも減らしたのではないか。それと同じで、目先の金儲けばかりに傾倒し、社会問題に目を向けず他人事で知らぬ存ぜぬの企業は、その内そっぽを向かれてしまうだろう。
オリンピックスポンサーに名を連ねる企業が、感染症拡大のリスクから目を背けて、開催強行を批判も指摘もしない状況は、まさに資本原理主義と言うべき姿勢だし、東京でのオリンピック開催やオリンピックへの出場という夢を優先すべき是として、開催強行のリスクから目を背けて無視する選手やOBらも、スポーツ・オリンピック原理主義と言わざるを得ない。