2000年代後半、本屋が減り始め、2010年代に入ると、次にCD屋が減り始め、そしてレンタル店も減り始めた。AmazonなどのWeb通販、電子書籍配信、iTunesやSpotifyなどの音楽配信、そしてHuluやNetflixなどのWeb配信が一般化した結果だった。15年前に比べて、恐らく自分の生活圏ではそれらは半分以下になっている。地域によっては壊滅したところもあるのではないか。
去年、「Blockbuster Video US store locations between 1986 and 2019」というツイート があった。ブロックバスターは、日本で言えば TSUTAYA
のような、米国におけるレンタルビデオチェーン店の代名詞だ。このツイートには、設立の翌年・1986年から2019年までの全米におけるブロックバスターの店舗展開の様子を描いたアニメーション、が添付されていた。
日本では民放地上波の充実もあって、CATVやCS放送などの有料チャンネル普及率は10-15%程度とそれほど高くないが、2010年頃の米国における有料チャンネル普及率はおよそ70%に近い数字だったそうだ。だが有料チャンネルも、Youtubeのコンテンツ充実、HuluやNetflixなどの定額サブスクリプションサービスの台頭によって、レンタルビデオ店と同様にその影響を受けている。2017年にNetflixが主要ケーブルテレビ局を契約数で上回った。
2010年頃から使われ始めたコードカットなる表現がある。日本とは異なり、米国で有料チャンネルと言えば衛生放送よりもCATVであり、そこには必ずケーブルが存在する。2010年以前、CATV加入は多くの人にとって生活必需な状態であったが、Web配信サービスが充実すると、CATVの契約を止めてWeb配信だけで済ませるという動きが出始めた。ネットを経由する配信だって回線ケーブルは存在するわけだが、CATVネットワークからテレビを切り離すという意味で、コードカットという表現が使われ始めた。
更にそれから10年、そもそもCATVを一度も契約したことがない世代も出始めた。それらについては、一度もCATVネットワークにテレビを接続したことがない、という意味で、コードカットではなくコードネバーと呼ばれている。
このコードカットに関する「アメリカで進むCATVの“コードカット”とストリーミング、そしてラーメンの話」という記事がある。記事には、放映権の関係でCATVと契約しないと見られないスポーツイベントの存在に触れている。2018年の記事なので、例としてリオオリンピック、平昌オリンピックなどが持ち出されている。
確かに、以前はそういうスポーツがいくつもあった。例えばMotoGPは、日本では日本テレビが放映権を持っていて、同局の有料チャンネルで放送されている為、視聴には契約が必要だった。MotoGP公式サイトと契約すれば、日本テレビと契約せずにWeb視聴することが可能だったが、日本語中継で見るには日本テレビの有料チャンネルを見られる契約が必要だった。しかし今は、日本テレビと提携しているHuluでも日本語中継が配信されている。
また、日本のスポーツ有料チャンネル・Jスポーツは、有料チャンネルの契約とは別にWeb配信の利用契約できるようになっている。以前は有料チャンネル契約者がWeb配信を利用できるような形態が多かったが、最近ではWeb配信だけでも契約できる局が増えた。
オリンピックに関しては、先日閉幕した東京オリンピックは、米国での放映権を持つNBCの視聴数がソウル五輪以降最低だったそうで、番組スポンサー企業との間で機会損失に関する責任問題にまで発展しているらしい。
NBCも、PeacockというWeb配信サービスを昨夏立ち上げたそうで、前述の最低視聴数は、それも含んだ数字だそうだ。オリンピックの視聴数低迷には様々な要因があるのだろうが、所謂テレビ離れ、それに伴うNBCの配信サービスの知名度の低さなどもその要因なのかもしれない。
2010年頃まで、自分は10年程度テレビを持たない生活をしていた。その頃は「テレビを見ない」とか「テレビ持ってない」と言うと、何?テレビ見ないのがカッコいいと思ってんの?www
という反応をよくされたものだ。単に必要性を感じなかったから持っていなかっただけなのだが、当時はまだみんなテレビを見るのが普通だったので、平気でそういうことを言っていた。
それからたった数年で、Youtubeは見るがテレビは殆ど見ないという人が10代を中心に増え、今ではその世代が20代に足を踏み入れた。テレビ見ないのがカッコいいと思ってんの?なんて言っているのは、オールドタイプな大人たちみたいな空気ができ始めた。ただ、若い世代でもテレビに出ている、テレビに出ることに憧れのある人達は、未だにそのようなことを言っている。自分の憧れの存在が否定された、と思うからそんな反応なのかも、もしくはテレビが見てもらえなくなると収入が減る人達が苦し紛れにそう言っているのかも、という感がある。
これは民放主体のWeb配信サービス・TVer の2020年のCMだ。
ねぇねぇ、こういう人いない?「私ってぇ、テレビ見なくてぇ」
それイケてると思ってる人な
「テレビとか見る暇ないしぃ」
でもTVerでは見てるんだよな
というやり取りを、俳優の伊藤沙莉と戸塚純貴にやらせている。このCMシリーズは他のバージョンもある。広告専門誌 ブレーンがそれを「伊藤沙莉と戸塚純貴がテレビにまつわる本音を語る「TVer」新CMの狙い #ブレーン | AdverTimes(アドタイ) by 宣伝会議」という記事にまとめていて、そこには
テレビに関心がないと言われるリアルな若者の気持ちを切り取った“テレビトーク”を展開。友人設定の2人がテレビに対して冷静に話す何気ない会話をリアルかつコミカルに描いている。
ともある。果たしてCMの描写、そしてブレーンのこの評価は実態に即しているのか。
右肩上がりのVODアプリ市場、上位アプリの性年代構成から見たそれぞれの特徴は?【2019年版】 – アプリ分析メディア・App Ape Lab
これは2019年6月の数字ではあるが、TVerは決して10代20代にウケているとは言えない。TVerのコンテンツは基本的に地上波用番組であり、地上波番組の多くが30代以上をターゲットにした番組づくりをしているのは明らかで、TVerの主な利用者がそれと同じ傾向になるのは必然だろう。
個人的には、CMが描いたのは、テレビに対するリアルな若者の気持ち、ではなく、30代以上のテレビ関係者がそうあって欲しいと考える願望、でしかないと考える。
自分は2010年頃、3D映像に対応したゲームをやりたくて、およそ10年ぶりに自宅へテレビを導入したことで、再び徐々にテレビを見るようになったが、2014年頃からテレビ報道の政権忖度傾向に疑問を感じ始め、そして2019年の6月頃日韓政府の対立が深まり、その影響かワイドショーだけでなく報道番組までが、自国政治家の不祥事よりも韓国政治家のスキャンダルに時間を割いたり、政府の過剰な嫌韓反応には沈黙したり、中には番組や演者が嫌韓を煽るような雰囲気に染まる様子も見られた為、まずはニュースや報道番組を全く見なくなった。その後、テレビ業界全般への印象悪化もあって、ドキュメンタリーや娯楽番組も含めて徐々にテレビをほぼ見なくなった。
ツイッターのタイムラインには、日本の報道、特にテレビへの違和、苦言、批判などがよく流れてくる。その種のツイートをしている人達は、まだどこかでテレビ業界に期待していて、だからテレビをチェックして苦言を呈しているんだろうが、個人的には、もう期待するだけ無駄で、ボイコットすべきフェーズになっていると思っている。ダメな政治家には投票しないのが一番効くのと同様に、テレビには見ないという対応が一番効くだろう。
勿論、自分が見なくても放送はなされ、それに影響される人は出るだろうから、批判することにも合理性はあるだろうし、批判するには放送を視聴する必要があることも理解はする。またNHKは強制的に受信料を徴収しているし、民放も公共の電波を独占的に使用したサービスであることを考えれば、見ないという選択が必ずしも最良とは言えないだろう。だが、言っても分からないなら実力行使するしかないのではないか。NHKなら受信料支払い拒否、民放なら視聴ボイコットなど。問題があると強く感じる番組でCMが流れている企業の製品やサービスを極力避けるというのも、意思表示方法の一つだろう。
例えばネット環境がないような状況であれば、テレビは情報ソースとしてボイコットし難いかもしれないが、そのような状況でもない限り、テレビを見ないという選択は決して難しくはないのではないか。
トップ画像には、black crt tv on brown wooden table photo – Free Fort wayne Image on Unsplash を使用した。