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広がる焼け野原と、別世界

 新型コロナウイルスに感染し自宅療養中だった妊娠8か月の30代妊婦が、出血があったために救急車を呼んだものの受け入れ先が見つからず、そのまま自宅で出産し、赤ちゃんが亡くなった。こんなニュースを今朝NHKが報じた。

コロナ感染の妊婦 搬送先見つからず自宅で早産 赤ちゃん死亡|NHK 首都圏のニュース

 政府やオリンピックパラリンピック関係者ら、強行開催派の面々は、日本における現在の新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大はオリンピック開催とは無関係、というスタンスを依然として変えず、パラリンピックも予定通り強行しようとしている。しかし一方で政府は、感染拡大防止の為に、不要不急の外出、帰省などを控えろと言っている。オリンピックでは、世界中から万単位の人が日本に集まり、またお祭りムードの中で活発に活動し、更には関係者から数百人単位の感染が確認された。これを無関係だなんて、あまりにも馬鹿げているとしか言いようがない。

 オリンピックやパラリンピック開催が感染拡大を引き起こす恐れがあるので、オリンピック・パラリンピックの開催は止めるべきだ、という指摘は、少なくとも半年以上前からされていたのに、強行開催派は都合の悪い要素を無視し、情緒的な話を軸にして開催を強行した。そしていざオリンピックが始まると、殆どのメディアがお祭り騒ぎを助長し、選手にも浮かれた様子しかなかった。その一方で開催都市である都やその周辺の県を中心に、1日あたりの新規感染者や重症者が急増した。オリンピック開催前まで日本における1日あたりの新規感染者数は1万人を超えることがなかったが、瞬く間に1万人を突破し、今では2万5000人に届こうかという勢いだ。
 1万人が2万人になるのは本当にあっという間だった。しかも、いまも日本では積極的な検査が行われず、状況が深刻な都は濃厚接触者の定義が狭く、更には感染経路の追跡もしなくなったそうで、自治体によっても状況は異なるだろうが、少なくとも1都3県で発表される数字はほぼ間違いなく氷山の一角でしかない。それは、他国の新規感染者の検査数における割合と比べても明白である。

 オリンピックを強行し、パラリンピックも強行しようとしていることの影響によって、現在の感染爆発が起きていることはあまりにも明白である。その影響で診療が必要なのに受けられない人が多数いて、政府や都は自宅療養と呼ぶが、診療/治療が必要なのに受けられない自宅放置は既に都だけでも2万人を超えている。そして連日、自宅放置された人の死亡事例が報じられていて、遂には受け入れ先が見つからずに乳児が死亡する事案まで起きた。
 これはハッキリ言って政治の失策による間接的な殺人にも等しい。だがその人たちを殺したのは、間違った政治をやった政府や都、その為政者たちだけじゃない。温かく見守れだの、スポーツ選手にはどうすることもできないだのと言って、狂気のスポーツ大会開催を容認した選手たち、そうは言わなくても、浮かれて呑気にその狂気のスポーツ大会に参加した選手たち、そのお祭り騒ぎをこれでもかと盛り上げた、テレビなど各種メディアも共犯だ。更に言えば、反対もせず一緒になって盛り上げた一般市民だって同罪だ。もっと言えば、そんなクソみたいな政治家を為政者に選んでしまった有権者も同罪だ。

 他人事な感覚が人を殺す、ということを、全ての人がよく考えた方がいい。犠牲になるのが自分だったら、自分の家族だったら、友人だったら、誰だって他人事ではいられないはずだ。しかし日本人の大半は他人事なのである。だからこんなことになっている。



 妊婦の搬送先が見つからず、乳児が死亡したという件を目の当たりにして、こうも思った。

 昨年・2020年11月、熊本のみかん農家で働いていた21歳のベトナム人技能実習生が、妊娠がバレたら帰国させられることを恐れ、誰にも妊娠を打ち明けることが出来ずに、当然病院にも行けず、部屋でたった1人で双子の赤ちゃんを産んだ。死産だった。ベトナム人の技能実習生は、来日する為の費用を借金として背負っていて、途中で強制帰国させられると大変なことになる。この件で当該ベトナム人女性は死体遺棄の容疑で逮捕・勾留された。

 このような望まない妊娠による新生児遺棄や死産に伴う死体遺棄事件は、技能実習生だけがその当事者なわけではない。日本人の若い女性、特に未成年者がその当事者になることもしばしばで、寧ろそちらの方が多い。少し古い数字ではあるが、2013年から2016年の4年間で58人もの子が遺棄され、その内10人が死亡している。大半は、妊娠を家族などに打ち明けられず、孤立したまま出産し、遺棄に至ったケースだ。

 2017年以降もその種の事件は起きていて、その度に母親が逮捕されたと報じられる。妊娠は女性だけでできるものではないのに、その種の事件で罪に問われるのは大抵女性だけだ。そうした傾向への異論も出始めていて、なぜ父親は罪に問われないの?という問題提起も近年は目に付くようになった。

 また、高校生が妊娠すると自主退学に追い込もうとする学校の対応や、思いがけず妊娠してしまった若い女性に対する社会的な支援の少なさなど、社会全体で孤立出産に女性を追い込んでしまっているという指摘もある。

 そんなことを勘案すると、若い女性の思いがけない妊娠に対する社会全般の理解の低さ、支援のなさ、責任を女性だけに押し付ける風潮などは、診療が必要なのに受けられない人が、感染拡大によって数万単位で生じているのに、それでも尚パラリンピックを強行しようとする政治の下では、当然そうなっている、立場の弱い者に責任が押し付けられる、犠牲にされるのも当然という感しかないし、あれだけ浮かれてオリンピックに興じた選手やメディア関係者が、この状況を深刻に受け止めず、過ちを認めようともしないのだから、そりゃ診療が受けられずに死亡する乳児が出てしまうのも当然だな、としか思えない。


 今頭に浮かぶのは、日本、少なくとも1都3県では、新型コロナウイルスが猛威をふるい焼け野原が広がり続けているのに、オリンピックやパラリンピック、そして為政者たちは別世界にいる、ということで、それを表現したのが、今日のトップ画像に用いたコラージュである。


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