混乱を避ける為という理由による公表すべき情報の隠蔽がしばしば行われるが、後で情報が明らかになると、隠蔽が行われたことによる強固な不信を生むことになる。つまり混乱を避ける為を理由にした隠蔽は結局混乱を生むことになる。それは結局のところ都合の悪いことを隠す為の口実に過ぎない。
混乱を避ける為という理由でなかろうが、隠蔽は不信を生む。たとえば、東京オリンピック組織委は、オリンピック/パラリンピック終了から1ヶ月も経った後に、選手・関係者のコロナ入院者数は当初発表の5倍だったと発表した。こんな杜撰な話がどこにあるだろう。
開催のかなり前から懸念が示されていたのに開催を強行し、期間中にこれまでで最悪の感染爆発と医療崩壊が起こった。それでも尚組織委や政府は「オリンピックは安全安心だった」と言い張り続けた。そして終了から1ヶ月も経った後に、選手・関係者のコロナ入院者数は当初発表の5倍だったと発表した。これに違和を覚えず、それでも組織委や政府を信頼するという人は、申し訳ないが阿呆である。
東日本大震災による原発事故ではメルトダウンが隠蔽された。そして当時官房長官だった枝野
幸男の「ただちに健康に影響を及ぼすものではありません」という発言には強烈な違和を覚えた。
枝野が言っていたのは、原発事故後、ほうれん草などから基準値を超える放射能の数値が測定されたが、その基準値越えは微細であり、一生ずっとその数値の食品を飲食し続けた場合には健康に影響が出る恐れはがあるが、数回口にするくらいなら”ただちに健康に影響を及ぼすものではない”という話だった。
設定された基準値は安全マージンをとっている数値であり、食品に設定される賞味期限と消費期限のどちらかに該当するかと言えば、期限切れ=お腹を壊す恐れがある、を意味する消費期限とは違い、期限切れは単に風味が落ちるだけで、少々期限を過ぎていても食べられる賞味期限に近い、というニュアンスで、枝野は”ただちに健康に影響を及ぼすものではない”と言っていた。
確かに当時はこれに対する過剰反応も起きた。しかし原発事故直後から、東電や政府が事故状況を過小に発表している懸念を多くの人が感じたから、不信感が過剰に募ったということもある。そして実際に東電と政府はメルトダウンを隠していた。数年後の調査の結果、東電が主体的に隠蔽した、ということになっているが、その調査は新潟県と東電によるものであり、政治と当事者らによる調査は信頼に値するか?という疑問も残る。
当時の菅政権が主体的に隠蔽に関わっていなかったのが事実だとしても、東電の恣意的発表をそのまま国民に伝えたことには違いない。そしてそれ以後の民主党政権も、原発再稼働を推進するその後の自民党政権も、隠蔽疑惑について積極的な調査をしてこなかった。だから数年後まで東電は隠蔽を認めなかった。つまり主体的に隠蔽に関わっていなかったとしても、民主党政権も自民党政権も原発に関しては結局同じ穴の狢としか思えない。
この”ただちに健康に影響を及ぼすものではない”のような説明は、新型ウイルスに関しても行われた。厚労省は新型ウイルスの感染が中国武漢で確認され始めたころ、「ヒト-ヒト感染の明らかな証拠はない。また、医療従事者における感染例も確認されていない」と発表した。
同じころに一部の専門家もそれを声高にアピールしていたものの、たった2週間で人から人へも感染する、という話に変わった。
人から人への感染の証拠はない確認されていない、は決して嘘ではない。しかし、多くの人が、ほらやっぱり感染するんじゃないか、と思ったことだろう。混乱を避ける為のような理由だったんだろうが、人から人へ感染する懸念もあるが、という注釈を厚労省や専門家らがしなかったことや、それをそのまま伝えたメディアに、不信感を覚えた人は少なくなかったのではないだろうか。
欠陥があると噂されているクルマがあったとして、しかし販売店が、欠陥は確認されていません、と言うので、それを信じて買ったのに、納車から数週間で、やっぱり欠陥がありました、と言われたら、そのメーカーの車を次も買おうとは思わないのではないか。
厚労省は今も同じ様なことをしている。このQ&Aの回答の冒頭には、
新型コロナワクチンの接種が原因で多くの方が亡くなっているというのは本当ですか。|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省
「ワクチンを接種した後に亡くなった」ということは、「ワクチンが原因で亡くなった」ということではありません
とある。これは、嘘とは言えないがやはり不正確である。このページの回答の本文には「人はワクチンの接種とは関係なく突然命を落とすことがあるため、ワクチン接種後の死亡事例が出た時は、ワクチン接種との因果関係を調査することが大切です」とあり、その通りで、ここまで含めればそれ程不正確とは言えない。だが、この記事に関する厚労省のツイ―トは、
「ワクチン接種との因果関係を調査することが大切です」ではなく「現時点で、新型コロナワクチンの接種が原因で多くの方が亡くなったということはありません」と強調している。
日本では、新型ウイルスの新規感染者数と重症者数、それによる死亡者数が発表されているが、しばしば、変死扱いとされた人のうちの結構な人数が新型ウイルスに感染していた、という話が後から出てくる。つまり新型ウイルスによる死亡者はしっかりと把握されておらず、過小な数字が公表されている懸念は拭えない。そもそも広範で積極的な検査も未だに行われておらず、新規感染者数だって正確性に懸念がある。
また、ワクチン接種が始まってだいぶ経ってから、モデルナ製ワクチンは心臓の筋肉などに炎症が起きる懸念がある為、10-20代男性に対して、ファイザー製ワクチンを推奨する、という話が出てきた。
そして前述のように”現時点では”という話は簡単に覆される懸念がある、ということを直近だけでも何度か経験し、安全安心に終えたとしていたオリンピックについて、終わってから1カ月も経って「選手・関係者のコロナ入院者数は当初発表の5倍だった」なんて言い始める国の政府の言うことを、誰が鵜呑みに出来るだろうか。
37.5度以上の熱が4日続くまでは家で待機、という対応を保健所などがしていたのに、その期間に死亡する者が出て、その責任を問われた厚労大臣が、国民が勝手に誤解した、と言い放つ、なんてこともあった。
厚労省は、「ワクチンを接種した後に亡くなった」ということは、「ワクチンが原因で亡くなった」ということではありません、ではなく、ワクチンを接種した後に亡くなった」ということは、必ずしも「ワクチンが原因で亡くなった」とは限りません、とすべきである。何故なら、前者には、ワクチン接種後に亡くなった人がいたとしても、その原因はワクチンとは全く無関係、というニュアンスが漂うからだ。もし厚労省がそれを意図していなかったとしても、そう誤認させる恐れがあり、これを不正確と言わないわけにはいかない。
自分もワクチン陰謀論は馬鹿げいていると思う。ワクチンを打つことができる人は積極的に接種した方がいいとも思う。しかし、混乱を避ける、などを大義名分にしたり、現時点では、直ちに○○ない、などと逃げ道を作たりして、正確とは言い難い情報を発信することは、結局混乱や不信を招きかねない。招きかねないと言うよりも、既にそれで厚労省や現政府は混乱や不信を招いている。