カメライフは、1994年に発売された電気グルーヴ 5枚目のシングル曲だ。同年発売のアルバム・DRAGON からのシングルカット曲だが、同アルバムからは電気グルーヴ史上最も多い3曲がシングルカットされていて、カメライフも他2曲同様にテレビ番組のテーマ曲にもなったが、虹 や ポポ に比べると曲としての知名度は高いとは言えない。
カメライフには曲名通りの「カメの暮らしをしてみたーい」という歌詞がある。亀は動きが遅いものの代名詞としてよく用いられるが、カメライフには「がんばるがんばるなんてやめちゃえ」という歌詞が象徴するように、せかせかせずにのんびりダラダラ生きようぜ、のようなことを歌っている。この曲のカメはのんびりの象徴だ。この曲には「ガッチリハンドルつかめ」「どんぶり勘定されちゃダメダメ」「とんでもない!と断れ」という歌詞もあり、のんびりダラダラしていてもカモられる側にはなったらダメ、養分にされるな、ゆるゆるでも引き締めるべきは引き締めよ、というニュアンスも含まれている。
1994年は一般的にはバブル崩壊後だが、経済界・投資の世界におけるバブル崩壊は1991年でも、その余韻はまだまだあった時期だ。バブル期には、栄養ドリンク・リゲインのCMが「24時間戦えますか?」とやっていたような、そんな風潮があって、そんな雰囲気に対するアンチテーゼが電気グルーヴのカメライフだったのかもしれない。
【CM 1989-91】三共 Regain 30秒×7 - YouTube
バブルは1991年に崩壊したとされるが、その影響が実社会に反映され始めるのはそれから数年後だ。就職氷河期が始まるのは1993年卒からだし、バブル後倒産が増え始めたのは1995年からで、第一次ピークは4大証券会社の一つだった山一証券倒産翌年の1998年、最大のピークは2001年だ。1990年代の物価はバブル景気の頃とそんなに変わらず、日本がデフレになっていくのは1998年代以降だ。
会社をこかした経営者などには急激な変化もあったんだろうが、多くの人にとっては変化はいきなり起きるのではなく、カメの歩みのようにゆっくりと徐々に進む。感覚的には、いつのまにか変わっていた、のような感覚で、いきなり生活が劇的に変わったわけじゃない。
テレビを持たない人がテレビを買えば、今まで全くテレビを見られなかったのに見られるようになる、という劇的な変化が起きる。しかし、今フルHDテレビを持っている人がそれを4Kテレビに買い替えたとしても、BS4K放送を見られるようにはなるが、テレビを初めて買ったの人程の劇的な変化は起きない。BS4K放送ばかりを見るわけじゃないだろうし、人によっては、もしくは使い方によっては、買い替えによる違いを実感できないかもしれない。
たとえば今の日本で自衛隊によるクーデターが起きれば、社会に劇的な変化が起きるかもしれない。しかし、もし自民党から現在の野党への政権交代が起きたとしても、それで劇的な変化は社会に起きない。それはトランプ後のバイデン政権を見ても明らかだ。外交面だけを見ても、様々な条約などから脱退したトランプアメリカの孤立志向は終わったが、アフガンでは結局匙を投げたし、パレスチナ問題に関するイスラエル寄りの姿勢にもそれ程変化はない。
勿論、これから徐々に変化は進んでいくんだろうが、政権交代が起きても急激な変化が訪れるわけではない、ということはアメリカの例からもよく分かる。民主主義は手間と時間がかかるものだ。期待し過ぎてはいけない。
しかし劇的な変化が起きないことは、政治なんて誰がやっても同じ、という話とは全く異なる。変化はゆっくりでも確実に起きる。このブログを書き始めたのは2017年だが、当時は、同性愛に関する記事などへのコメント欄で、
- 同性愛は自然の摂理に反する
- 同性愛は気持ち悪い
- 同性愛は色狂い
- 同性愛は病気
- 同性愛者は性的に倒錯している
のような投稿が頻繁に目についた。それを象徴する事件だったのが、自民党の国会議員である杉田 水脈の「同性愛は生産性がない」であり、その主張が行われたのは2018年のことである(2018年7/23の投稿)。
それから3年が経って、今もそんなことを言っている愚者はまだいるが、それでも、ネット上で堂々とその種の差別をやる者、偏見を平然とまき散らす者は確実に減った。今ではほとんど目につかないレベルだ。それは、SNS運営などが対処した結果でもあるだろうが、酒の席での与太話でもそんなことを言う者は確実に減っていて、減っている理由は社会全般の認識が変化したからだろう。その種の偏見を撒き散らすのはイカれた人のやること、恥ずかしいこと、という認識が一般化してきたから、冗談交じりにでもその種のことを言う人が減ったんだろう。
セクハラだって同じで、昔は主にセクハラの被害者となる女性があまり声をあげなかったから、大半の女性が嫌がることを平然と言う・やる人が少なくなかったが、多くの人が「それはおかしいよね」と声を上げた結果、劇的にではなく徐々にではあるが確実に社会全般の状況は変わった。社会の状況は概ね劇的に変化しないが、カメ歩みのようにゆっくりとではあっても確実に変化していく。千里の道も一歩から、だ。
民主主義は、電気グルーヴのとは別の意味でカメライフだ。カメの歩みのようにゆっくりとしか変化していかないが、しかし意思表示をしなければ、ゆっくりとした変化すら訪れない。政治家にどんぶり勘定されないように、有権者がハンドルをガッチリと掴まないといけない。
トップ画像には、電気グルーヴ - カメライフ のシングルCDジャケットと、メイオラニア カメ 爬虫類 - Pixabayの無料写真 を使用した。