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ターゲット広告は差別的要素を帯びる場合がある

 ジョージ オーウェルの小説・1984に登場するビッグブラザーというキャラクターがいる。1984は1949年に書かれた。全体主義国家によって分割統治された近未来世界を描いたディストピアSF小説で、1984年は1949年から見た近未来として描かれている。マンガ・AKIRAや映画・バックトゥザフューチャーが、2010年代後半を1980年代から見た近未来として描いていたようなものだ。

 ビッグブラザーは全体主義国家・オセアニアの独裁者だ。街中にビッグブラザーのポスターが貼られていて、似顔絵とされるイラストと共に Big Brother is watching you というスローガンが書かれている設定だ。このスローガンは「ビッグブラザーがあなたを見守っている」とも解釈できるが、「ビッグブラザーがお前を監視している」とも解釈することができる
 この設定によってビッグブラザーは、過度に国民を管理しようとする政府や、監視を強めようとする政策に対する皮肉として、1984の作品外でも使われるようになり、弾圧や監視、恐怖政治などの象徴になっている。


 最近、初めて訪れるWebサイトでいちいち表示される、Cookie/クッキー使用同意を求めるポップアップ。以前はそんなものは全く見かけなかったが、EUで2018年5月に施行されたGDPR・EUにおける個人データ保護に関する法律で、Cookie利用に同意を求める要件が厳格化されたことがその背景にある。EU以外でも、世界的に個人情報保護に関する法改正の動きが進んでいて、日本でも2020年6月に改正個人情報保護法が成立し(施行は2022年から)、それへの事前対応が進んでいる状況だ。
 Cookieとはなにか。そもそもはWebサイトの利便性を高める仕組みで、たとえばショッピングサイトでカートに商品を入れると、使用しているWebブラウザにその旨のCookieが保存され、一度そのサイトを離れても再び訪れた際にカート内容が再現される、のように使われる。また、Cookieがログイン状態を維持することに利用されるケースもある。
 Cookieとは、どのWebサイトのどんなページを閲覧したのか、どのショッピングサイトでどんな商品を見たかなど、その人の閲覧履歴を把握できる個人情報を多分に含んでいるデータだ。ログイン情報などと組み合わせれば個人の特定もできてしまうだろう。昨日は、Cookieを盗むことによってYoutubeチャンネルを乗っとる手法がある、という記事をGigazineが掲載していた。

YouTuberのチャンネル乗っ取りを狙うCookie盗難マルウェアがロシアのハッカーによって使われている - GIGAZINE


 個人のインターネット上での行動を追跡することをトラッキングと呼ぶ。最近はそれに関する問題が注目されている。Cookie以外にもトラッキングの手法はある。たとえば、ブラウザーの閲覧履歴を参照する手段を用いたターゲット広告というものが存在している。Webページで見えないように大量のリンクを表示し、各リンクが訪問済みかをJavaScriptで調べることで閲覧者の嗜好を分析しそれに合った広告を表示するという手法だ。この手法は現在はブラウザによって対策されているが、Cookieだけがトラッキングの手法とは限らない、という例だ。Googleはターゲット広告に検索履歴を用いていて、それを嫌う人達の中には、利用履歴等を記録・保存しないことを運営方針としている検索エンジン・DuckDuckGo を使用する、という対策をしている人もいる。

 日本でも、ジャストシステムが2018年に行った調査によると、スマートフォン利用者の8割がWeb閲覧履歴に基づく広告配信を認知しており、4人に1人は「不快なのでやめてほしい」と回答している。また、トラッキングそのものに関するリスクを紹介する記事を、キャノンが運営するサイバーセキュリティ情報局というサイトが掲載している。

 これはまさに京都府警によるターゲット広告で、京都府内で盗撮が相次いでいるという理由で、「のぞき見」「小型カメラ」など、盗撮を思わせるワードをグーグルで検索した履歴のある、京都府内の18歳以上の男性だけを対象に、「盗撮は犯罪」「誰かが見てる」「厳しく罰せられます」というメッセージや、警察官に取り押さえられている人物のピクトグラムが表示される啓蒙広告をYoutubeで配信する、という話だ。

 率直に言って差別的だ。覗きや盗撮は勿論罰せられるべき、被害を未然に予防するべきだが、関連ワードを検索しただけで盗撮予備軍と見なされる、と言っても言い過ぎではないからだ。対象は男性だけというのもまずい。確かに性犯罪の大半は男性によるものだろうが、性犯罪を犯すのは男性だけとは限らない。啓蒙を行うなら、ターゲット広告など利用せずに、せめて京都府内の人全てを対象にすべきだ。
 たとえば、覗きに強い興味がある人でなくてもその種のアダルトビデオを見ることはあるだろう。そのような作品の閲覧履歴があっただけで、予備軍というレッテルを貼られるのは大抵の人にとって気分のよいものではない。小型カメラなんてのはもっと一般的で、コンパクトデジタルカメラは日本語に訳せば小型カメラだし、GoProなどの所謂アクションカメラだって小型カメラだ。小型カメラと検索したら盗撮予備軍と見なす?いくら何でも話が極端過ぎる

 記事には、

府内の盗撮検挙数は2020年で87件だったが、21年は9月末現在で既に112件に上る。前例のないペースで急増していることから、広告動画で盗撮防止を呼び掛けることにした。西田勝志課長は「広告を見た人は『(盗撮すると)捕まるんだ』と頭に入れておいてほしい。被害防止につながれば」と話した。

とあり、そこには意図的な差別心はなく、単に犯罪を減らしたいという思いがあるだけなんだろうが、差別というのは大抵無意識で行われるもので、意図があったかどうか、なんてのは多くの場合のおいて大した問題じゃない。少なくともこの場合においては、間違いなく意図的か否かは重要じゃない。


 この件は間違いなく、ターゲット広告は差別的要素を帯びる場合がある、ということを示す例である。



 トップ画像には、監視カメラ13 – イラストストック「時短だ」 を使用した。

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