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個別の事案についてはお答えを差し控えます

 このトップ画像のようなことを子どもが言い出したら、大抵の大人は「屁理屈をこねるんじゃない」のようなことを言うだろう。子どもに「こんな時間までお前はどこにいたのか」と個別の事案について問いただしているのに、子どもが「個別の事案について答えることは控える」なんて言ったら、そうなるのは当然だ。


 約10年前、「個別の事案についてはお答えを差し控えます」という発言で民主党政権の大臣が批判を浴びた。2010年11/14、当時法務大臣だった柳田 稔は、地元後援会で挨拶した際に次のように発言した。

法務大臣とはいいですね。2つ覚えておけばいいんですから。「個別の事案についてはお答えを差し控えます」これがいいんです。分からなかったらこれを言う。 で、あとは「法と証拠に基づいて適切にやっております」

 この発言について国会で問いただされた柳田は「仲間内の話」、つまり冗談だったという釈明をしたが、2010年9月に起きた尖閣諸島中国漁船衝突事件に関する答弁などにて、「個別の事案についてはお答えを差し控えます」は16回、「法と証拠に基づいて適切にやっております」は17回、実際に国会での答弁で使っていた。

 余談だが、この件で柳田を問いただしたのは、安倍政権で法務大臣に任命されるも、選挙における買収が明るみ出て1週間で大臣を辞任し、買収事件で立件され、有罪・懲役3年の実刑が確定している河井 克行だった。


東京入管で暴行、腰骨損傷 収容の米国人男性が国提訴へ | 共同通信

 これは、共同通信が掲載した、東京出入国在留管理局に収容されていたハイチ系米国人男性が、職員から腰を蹴られるなどの暴行を受けて腰骨損傷の重傷を負い、歩行に支障が出ていると訴えている、という内容の記事である。男性が職員から暴行を受けたのは2020年6月だったそうだが、その時既に、現在も問題が解決していない、スリランカ出身のウィシュマ サンダマリが適切な医療を受けられずに名古屋出入国在留管理局で死亡した件が話題になっていた時期だ。

そんな事案が話題になっていたにもかかわらず、入管で不当な暴力が行われた恐れがあるという、なんとも恐ろしい話である。

 共同の記事にはこうある。

東京入管は「個別の事案については答えられない」としている。

個別の事案については答えられない、で回答を拒否できる、拒否することが妥当であるならば、世の中の全ての事象はそれぞれが個別の事案なので、どんな質問も回答拒否が可能になる。そんなバカげた話があるだろうか。
 だからこの投稿の冒頭で、子どもに「こんな時間までどこにいたのか」という個別の事案について問いただしているのに、子どもが「個別の事案については答えない」なんて言ったら、大抵の大人は「屁理屈をこねるんじゃない」のようなことを言うだろう。と書いたのだ。

 個別の事案だから答えなくて良い、が妥当であれば、たとえば、河井が選挙で買収をおこなった件も個別の事案であり、それについて政府や首相、官房長官をはじめ、誰もが一切答えなくてもよいことになる。河井が選挙において買収を行ったことも個別の事案だし、首相が河井を法務大臣に任命したことも個別の事案だ。法務大臣だった河井と官房長官が同じ内閣で閣僚であることも個別の事案である。個別の事案だから答えなくてよい、が妥当だとしたら、聞かれた側の都合でどんなことも答えなくてもよい、ということになってしまう


 入管は最早「個別の事案については答えられない」が口癖になってしまっている。11/17にも、ブラジル国籍の男性が、入管警備員から腕で首を絞められてけがを負ったとして、代理人の弁護士らがセンターに対して男性への謝罪と慰謝料の支払いを求めているということが明らかになったが、それを伝えるハフポストの記事「収容中のブラジル国籍の男性、入管警備員が首絞めてけが。謝罪と賠償求め申し入れ | ハフポスト」にも、

センターの担当者はハフポスト日本版の取材に対し、「個別の事案については回答を差し控える」として答えなかった。

とある。
 この傾向は入管にとどまらない。9月に起きた、富山県射水市のアパートでベトナム人男性が暴行され負傷した事件について、富山県警射水署は、殺人未遂容疑で逮捕したベトナム人技能実習生ら4人について、逮捕前の任意聴取が終わった後も令状がないまま24時間余り署内の取調室に留め置いていた、ということを伝える毎日新聞「富山・射水のベトナム人男性暴行 任意聴取後留め置き 県警、令状なく最長24時間 | 毎日新聞」にも、

県警は取材に「法と証拠に基づいて捜査している。個別の事案については回答を差し控える」、地検も「回答は差し控える」とした。

とある。
 こうなってしまうのはある意味で当然なのかもしれない。前々官房長官の菅から、前官房長官の加藤、そして現在の官房長官の松野も、みな都合の悪い質問が出ると「個別の事案についてはお答えを差し控えます」と言うのだから。国の中枢でそのようなデタラメが平然とまかり通っているのだから、その下で働く者らが同じ様なことを言い始めるのは、勿論全く不適切だが、ある意味で当然だ。
 この「個別の」という話で回答を避けるのは官房長官だけでなく、首相や大臣らにも同じような言説が見られる。そして、「個別の事案についてはお答えを差し控えます」というのは妥当でないと正さない各院議長や委員長、会見に臨むメディアらも、ハッキリ言って異様だ。


 自分の子どもに何か問いただした際に、子どもが「個別の事案についてはお答えを差し控えます」と返し、それに「屁理屈をこねるな」と応じたら、子どもが「政治家も役人も皆それで済ませている」と言ってくるかもしれない。そんな時に大人、親や教員は一体何と説明すればよいだろうか。
 「それは政治家や役人がおかしい」と言ったところで、「じゃあなんでそう言うことを言っている自民党がいつまでも政権を握っているの? 大人はみんなそれでいいと思っているということだろう」と言われてしまうだろう。中学生ならそのくらいのことは大多数が分かるし、小学生だって少し勘の良い子はそれくらい理解出来るものだ。



 トップ画像には、ちょうどいいイラスト の素材を使用した。

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