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至極当然な話が有難いお話になる理由

 作家で僧侶の瀬戸内 寂聴が11/9に亡くなった。99歳だった。親しみやすい説法でも人気を集めた彼女の影響力は強く、様々なメディアがこれを報じ、彼女の逝去に際して複数の特集記事、過去の記事の際掲載などが行われた。

瀬戸内寂聴さん、焼け跡残る東京で「自分がばかだった」…ロングインタビュー「青春は恋と革命よ」:東京新聞 TOKYO Web

 昨夜の DOMMUNE もその一つで、2013年に幕張メッセで開催したイベント・FREEDOMMUNE 0 <ZERO> ONE THOUSAND 2013 で披露した説法、およそ1時間にわたるその全編を配信していた。配信は2回予定されていて、昨夜はその1回目、2回目は11/30の23:30頃から行われる。ちなみに、DOMMUNE の配信は予定に対して基本的に押しで進行する為、場合によっては0:00頃からの配信になる場合もあるかもしれない。

「瀬戸内寂聴 法話全長編」2013.07.13土@幕張メッセ - DOMMUNE

 昨夜の配信で、改めて彼女のこの時の説法を聞いて思ったのは、寂聴は一切何もスゴイことは言っていない、ということだった。彼女が説法の中で語っていたのは、

  • どんなに長生きしても、内容が濃くなければつまらない
  • 若さは有限なのでしたいことは全部やれ
  • 若さは情熱にあふれている
  • 若さは恋と革命
  • 失恋を怖がらずに本気の恋愛をしろ
  • 恋愛をするにも革命をするにも情熱がいる
  • 親の言うことよりも、自分のやりたいことを優先しろ
  • 人は幸せになる為に生まれてくる
  • 幸せになることは人権、幸せになることは人間の権利
  • 幸せとはご飯が食べられて、戦争もなく平和で、家族が皆健康、そんなこと
  • 自分の家だけが幸せでも、隣人が幸せでなければ幸せではない
  • 自分以外の人の幸せを想え
  • 日本の未来は政治家ではなく、一人一人が背負っている
  • 戦争のない未来を作れ
  • 人間に天災を防ぐ力はないから謙虚にならなければならない
  • 原発事故は天災ではなく人災
  • 原発を作らなければ、使わなければ事故は起きない
  • 天災は防げなくても人災は防ぐことができる
  • 原発は人を幸せにしない
  • 原発はいらないと言え
  • 行儀がよいことは常に素晴らしいとは言えない
  • 嫌なことは嫌と言う それは人間の権利
  • 税金を払いっぱなしではつまらない、言いたいことは言おう
  • 自分の愛する人、家族の為に、戦争は嫌だと言うべきだ

などだった。これらの話に一切目新しさはなかった。スゴさも感じなかった。なぜなら、彼女は至極当然なことをただただ確認するかのように話しているだけだったからだ。しかし、だから全く有難みがない、なんて全然思わなかった。と言うよりも寧ろ、あらためてこの話を聞くことができてよかったと思った。
 なぜこのような当然の話を聞いて、あらためて聞いてよかったと思うのか、この当然の話が有難いお話になってしまうのか。それは、彼女が言っていることのいくつか、いや大半がまだ現実になっていないからだ。つまり、社会が歪んでいるからこそ当然の話が有難いお話になってしまうのだ。

 個人的に印象に残ったのは、「自分の家だけが幸せでも、隣人が幸せでなければ幸せではない、自分以外の人の幸せを想え」という話だ。今社会には、今だけ自分だけ、が溢れている。所謂 自己責任論というやつだ。○○は甘え、なんて言い方で弱者を切り捨てようとする人や話が、大腕を振って歩いている。瀬戸内 寂聴はそれに対して「自己責任論なんてクソだ!そんなもんに惑わされるな!」と言っているように見えた。
 そしてもう一つ印象的だったのは、彼女は予定時間を30分も残して話を終わらせようとしたが、司会の五所 純子に促されて壇上に戻った後、「こんなことを言うと怒られるかもしれないけど」と少しためらいつつも、

今の日本には、昭和16年のような空気が流れていて、軍靴の音がする。だから皆さん、戦争は始めないでください

という趣旨のことを言っていたことだ。
 自分は当時まだそれ程深刻には考えていなかったが、その翌年・2014年には安倍政権が、これまでどの政権も日本国憲法では認められていないとしてきたそれまでの前例を覆し、集団的自衛権は認められていると一方的な解釈変更を行った。そしてそれに基づいて所謂 安保法案を成立させ、武器輸出禁止三原則も防衛装備移転三原則に変更して骨抜きにした。その後は空母を欲しがり、防衛費を増大させ、更に現在は敵基地攻撃の名で先制攻撃を正当化しようとしている。ハッキリ言って当時の自分は考えが甘かった。彼女は大正生まれで、戦争を物心ついた後に経験した世代だ。だから戦争の気配にとても敏感だったんだろう。
 更に言えば、寂聴がこの発言を「怒られるかも」とためらったということは、当時彼女に「そんなことを言うもんじゃない」のようなことを言っている人達がいた、ということだろう。それこそが言論の自由を損なう行為であり、自民政権下で日本が戦争できる国になろうとしていることと同じくらい、いやそれ以上に深刻なことだと感じた。


 11/30の配信で彼女の説法の全編を是非目の当たりにして欲しい。DOMMUNE は基本的にアーカイブを残さないが、彼女の説法に関しては数日後に開放する可能性もあるかもしれない、なんて思ったりもする。しかしそれは現時点では不確定である為、11/30の配信を見られない人、11/30以降にこれを読んで見逃した人の為に、スペースシャワーで放送された説法のダイジェストを紹介しておく。

瀬戸内寂聴 - 説法 @ FREEDOMMUNE 0<ZERO> ONE THOUSAND 2013 - YouTube


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