外国人の中には、日本人=オタク、日本人は全員マンガやアニメ、ゲームなどの所謂オタク系文化が好きだと思っている人がいる。確かに日本人には幼い頃からマンガやアニメを見て育つ人が多く、1980年代以降生まれなら、ゲームも同様に幼い頃からやってきた人が多いだろう。
しかし、日本人が全員アニメやマンガ、ゲームを愛好しているかと言えば、そうとは限らない。アニメを見る/マンガは読むが所謂オタクと言える程熱心に愛好はしていないという人も多い。幼い頃は見ていた/読んでいたが、大人になってからは殆ど見ない/読まない、という人もいる。そして勿論、アニメやマンガは嫌いだ、という日本人だっている。
日本人にはオタクが多い、という表現なら、多いの定義、オタクと呼べるレベルの定義にもよるが、そのような傾向がある、という意味で決して間違いではない。しかし、日本人=オタク、というのは明らかに偏見だ。勿論、言葉のあや、傾向について強調した表現などとして、そのような言い回しを全般的に否定するものではないが、日本人はすべからくオタク趣味に興じている、ということはないので、日本人=オタク、というのは極端な認識であり偏見である。
しかしそのような偏見は、程度の差はあれど誰もが持っているものだ。例えば、日本人の多くはイタリア人=情熱的、イタリア人男性=色男、のようなイメージを持っているんだろうが、イタリア人にだって情熱的でない人もいれば、引っ込み思案で上手く女性に接することが出来ないイタリア人男性だっている。
興味深いことに、AFPが2010年にこんな記事を書いている。
イタリア男は昔ほどもてない?「めめしい」との意見も 調査結果 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
つまり、日本人の多くが持つ イタリア人=情熱的、イタリア人男性=色男、のようなイメージも偏見の類であり、もしかしたら、このイメージは、30年くらい前まで外国人が日本に対して抱いていた、日本人男性=侍か忍者、日本人女性=ゲイシャ、というレベルの幻想の恐れもあるのではないか。
日本人にはオタクが多い、という表現と、日本人=オタク、という表現の違いは明確に線引きできるようなものではなく、その間には認識のグラデーションがある。どこからが偏見・間違ったイメージで、どこからが、あくまでも傾向の話で偏見ではないのか、を一概に言うのは難しい。難しいと言うよりも一概に言うのは無理だ。しかしその間のどこからかは明らかに偏見の域に入る。
全ての偏見が悪いもので、偏見は全てなくさなければならない、という言い方をしたり、そのような前提に立って主張をする人もいるが、それはそれで極端だ。しばしばそれぞれの県民性のようなものが話題になるが、それは傾向の話と捉えれば決して不適切なものではない。しかし、○○県民はすべからく○○だ、のような極端な話になれば、それに当てはまらない○○県民が不利益を被ることもある。つまり偏見を一切持たない人なんていないし、偏見を全てなくすのも無理だし、大して問題にならない偏見と深刻な偏見を明確に分けることも難しい。
外国人が犯罪の容疑者として捕まるとメディアは、○○人の男を逮捕、とか、○○国籍の女を拘束、のような見出しで報じる。たとえばこんな風に。
他人名義のSIMカード悪用しスマホ詐取の疑い ベトナム人の男を逮捕 警察は販売店などに注意呼びかけ(関西テレビ) - Yahoo!ニュース
このような表現の根っこには、外国人=犯罪者、のような偏見があるんだろう。日本人が同じ容疑で逮捕された場合に、○○県民の男を逮捕、なんて書くか?絶対に書かない。なのになぜ日本人以外では○○人/○○国籍と書く必要があるのか。○○県民の男を逮捕、なんて書かないのに、○○人の男を逮捕、と書くということは、外国人=犯罪者という印象を煽る要素が確実にあるし、少なからず書き手にそのような偏見があるだろう。
日本人が逮捕された場合も住所は公表される、という人もいるだろうが、日本人の場合にそれが見出しになることはほぼない。外国籍の人が何かの容疑で逮捕された場合も、本文にそう書いてもそれは偏見ではないかもしれないが、日本人の場合出身や居住地が見出しになることは殆どないのだから、外国人の場合だけ見出しにするのは、外国人だから犯罪を犯す、のような認識に基づいている、そう強調したい意図があるんだろう。でなければそうはならない筈だ。
見出しは「他人名義のSIMカード悪用しスマホ詐取の疑いで男を逮捕 警察は販売店などに注意呼びかけ」でいいはずなのに、わざわざベトナム人と見出しに書いて強調するということは、警察なのか、関西テレビの記者なのかは定かではないが、ベトナム人に気をつけろ、外国人に気をつけろ、あいつらは悪さするぞ、という認識があるんだろう。そしてそれをYahooニュースも平気で転載する。日本人だって悪い奴はいるし同様のことをする者はいるのに、ベトナム人/外国人にだけそのような目を向けるのは、明らかに他者に深刻な不利益を与える種類の偏見だ。
同じことは、この記事にも言える。
宇垣美里の“漫画好き”にオタクが難癖「こっちに媚びてる」「すり寄るな!」(2021年11月29日)|BIGLOBEニュース
超がつく美人でナイスバディーで知名度抜群と、あらゆる要素を手にしているフリーアナの宇垣美里。こうした成功者が気に入らないのか、オタクが宇垣に言いがかりのようなバッシングを浴びせている。
「宇垣美里の“漫画好き”にオタクが難癖」「オタクが宇垣に言いがかりのようなバッシングを浴びせている」と、主語を「オタクが」とするのは、書き手にオタクに対する偏見があるというか、オタクへの偏見を煽るというか、オタクのイメージ悪化を狙ってるというか、そんな印象を強く受ける。
宇垣に難癖をつけているのは、ほんの一握りのオタクと呼べるのかどうかも分からない人達なのに、主語を「オタクが」とすれば、読み手の中には、世の中のオタクの大半がよってたかって宇垣を攻撃している、かのような印象を抱く者もいるのではないか。この見出し/記事は、少なくともそのような偏見を誘発する書き方で、そもそも書き手自体にオタクへの偏見がある気がしてならない。オタクを自認する者が、身内を戒める為に「オタク」という主語を使っている、のようなことであれば、そうとも言えないかもしれない。だが、記事には書き手の記名もなく書き手がどんな人物か、どんなスタンスで記事を書いているのかは見えない。だからそんな風に受け取るのも難しいし、そんな風に受け止める擁護するのは寧ろ不自然だ。
これは、まいじつ というWebメディアの記事を Biglobeニュース が転載した記事だ。こんな偏見塗れの記事を、大手携帯電話会社・AUなども属するKDDIグループ企業のニュースサイトが、なぜ平気で転載しているのか、という感しかない。 Biglobe ニュースだけでなく、@niftyニュース も同じ記事を転載している。
宇垣への攻撃的なSNS投稿などを非難する趣旨で書かれた記事だが、その記事がオタク全般に対して不利益を与えかねない攻撃的な内容になっていることが滑稽だし、しかもそれを大手通信会社のニュースサイトが平気で掲載している、という状況も深刻だ。
この記事、そしてその転載は、誰もが少なからず偏見を持っていると認識したうえで、ものごとを考えて主張すること、偏見によって他人に深刻な不利益を与えることがないように注意することを怠らないこと、が出来ていない典型的な例だ。
トップ画像には、anime character collage photo on black wooden shelf photo – Free Convention Image on Unsplash を使用した。