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メディア関係者こそメディアの異様な状況を指摘・批判すべきだ

 大阪の通天閣には、大きな日立製作所の広告がある。大きなロゴが塔の上から下へ向けて掲げられている。現在の通天閣は1957年に再建された2代目で、再建翌年の1958年からずっと日立製作所の広告が掲出されているそうだ。

 その通天閣の大きな広告部分を、新型ウイルス対策のワクチンを打つなという、と示唆する文言に置き換えた合成写真が出回ったそうで、通天閣の公式SNSアカウントが。画像は偽物である、と11/4に正式に投稿した。

 これをいくつかのメディアが取り上げて記事化していたが、このようなSNSのフェイク画像については批判的に取り上げるのに、なぜ在阪メディア、特に在阪テレビ局が、大阪では新型ウイルスの影響が世界的に見てもトップレベルで深刻だったことはあまり取り上げずに、維新の府知事を毎日のように出演させ、都合のよいことばかり喋らせていることを、殆どどこも指摘もしないし取り上げて懸念を示すことすらしないのか、という疑問が、この件を目にしてすぐに頭に浮かんだ。
 因みに、大阪の隣・和歌山県は新型ウイルスへの対応が機能し、日本の中では対応が上手くいった地域だ。つまり、地理的な要因で大阪の状況が悪かったのではなく、首長や自治体の対応が悪かった為に深刻な影響が出た恐れが高い。

通天閣に「射っちゃダメ」 デマ画像拡散に怒り - 産経ニュース

 新型ウイルス危機下では都道府県によって対応にかなりの差が出た。大阪や、オリンピックを強行した東京、菅のお膝元であり自民党が強く、自民党と懇意な知事の神奈川などは、軒並み対応が杜撰だった。


 しかしそれでも、未だに大阪で維新は強い。10/31が投開票日だった第49回衆議院選挙で、維新は候補者を立てた大阪の15の小選挙区全てで当選を果たした全国的にも比例で自民・立憲民主に次ぐ3番目に多い票を獲得し、選挙前は11だった議席を41に増やした。
 テレビタレントとして名を売った弁護士が党を創設して政界に進出し、過激な発言で注目を集めたことや、党の代表や幹部である前府知事・現府知事が毎日のように在阪テレビ局の番組に出演していることなどから、維新はポピュリズム政党と言われてきた。
 イギリスの大手新聞・ガーディアンは、先の衆院選での維新の躍進をこのように取り上げている。

Japan election: rightwing populists sweep vote in Osaka | Japan | The Guardian

見出しは「日本の選挙:大阪で右派ポピュリストが票を独占」である。記事冒頭には、

candidates from a tiny local party seized one seat after another in Japan’s general election, turning an economically vital region into a citadel of rightwing populism.
日本の総選挙では、地方の小さな政党の候補者が次々と議席を獲得し、経済的に重要な地域が右翼ポピュリズムの中心地となった。

と書かれている。また、

Despite triggering panic-buying of iodine gargle solution last year after wrongly claiming it was effective against coronavirus, the 44-year-old Yoshimura – whom one party colleague described as a “pop idol” – won praise for his leadership and communication skills during the height of the pandemic.
44歳の吉村氏は、昨年、ヨウ素うがい薬はコロナウイルス感染防止に効果があると誤って主張し、パニック買いを引き起こしたにもかかわらず、ある党の同僚が「ポップアイドル」と表現したように、パンデミックの最中には、そのリーダーシップとコミュニケーション能力が高く評価された。

とも書かれており、その人気の異様さを示唆している。

 このような”維新はポピュリズム政党である”という評価に一石を投じる記事を、BuzzFeed Japanが掲載したようで、その記事に基づいた、元神戸新聞記者で現在はフリーライターの松本 創によるこんなツイートがタイムラインに流れてきた。

 松本は、在阪テレビ局の維新の取り上げ方にも問題はあるが、大阪での維新の圧倒的な人気は「メディアの偏向」だけでは、もはや説明できない。維新の人気は「地力」があるからだ。だから首長もずっと維新だし、大阪の地方議会でも勢力を保っている、と主張しているようだ。
 松本のこの見解には賛同しかねる。確かにメディアへの露出だけで維新が躍進したわけではないだろうし、現状の異様な人気はメディアの偏向だけでは説明できない、という話も理解はできる。メディアだけに責任を求めるのもよくない、というのも分かる。しかし果たして、それを地力、つまり実態を伴った本物の力とでも言うのはどうだろうか。この短い主張では、松本が何を意図して地力という表現を使ったのかは明確でないが、その表情に違和感を覚えた。

 たとえばこんな話がある。とある老人がリフォーム詐欺で大切な老後の資金を巻き上げられた。しかし、周囲が、杜撰な工事に不当に高額な価格を要求する詐欺的な行為が行われた、とその老人に忠告し、然るべき措置を取ろう、と薦めても、その老人は怒りもせず「あの人は私の話をよく聞いてくれた、だから多少高い料金をとられても構わない」と、寧ろ詐欺師を擁護した、という話だ。自分には、維新を支持する有権者がこれと同じ様な状態なのでは?と感じられる。
 つまり、詐欺的なリフォーム会社が維新で、在阪テレビはその営業マンのようなものだと考える。有権者が既存の政治に辟易していたところに、維新が現れ、メディアがもてはやすことで名が知れた、ということは概ね間違いではないだろう。つまり、現状の異様な人気をメディアの偏向だけでは説明できないとしても、その異様な人気を得たきっかけや、人気を維持している理由は、間違いなく在阪テレビの偏向にもある。座ったパチンコ台が出なくても、一度座ったことで固執してしまう人は決して少なくない。また被害者が詐欺師を有難がるケースもしばしば耳にする。周りが「それは詐欺だ」と指摘せず逆に高評価したら、そんな風になる恐れは格段に上がる
 2016年の大統領選でトランプが当選出来た背景ととても状況が似通っている。米有権者の間に既存の政治に対する閉塞感が蔓延していたところに、トランプという過激なことを言う男が現れて注目を集め、そして既存メディアが面白おかしく取り上げ、新興メディアなどによるフェイクニュースが猛威を振るったことで、過激で差別的で極端なトランプが大統領に選ばれてしまった。そして4年後にトランプの異様さに気づいた人の方が多数派になっても、一部の人達は未だにトランプに熱を上げている。

 もし、前半でとりあげた通天閣のフェイク画像への指摘と同じくらいに、大手メディアが在阪テレビの異様な状況を指摘して批判しているのなら、「メディア「だけ」に帰責していても、現実は見えないし、何も変わらない」という松本の指摘も理解はできる。だが、現実にはそんな状況はない。つまり、まずは在阪テレビの異様さへの批判と指摘が必要な状況であり、松本の主張は順序がおかしい主張に思えてならない。


 松本が前提にしているBuzzFeed Japanの記事にも妥当とは言えない点が幾つかある。

維新の躍進は予想通り? 「ポピュリズム」という評価は的外れ? 大阪で自民党が全敗した理由

 記事は、関西学院大学教授の善教 将大が、維新現象は本当に「ポピュリズム」か、と問う内容で、記事の趣旨は維新の人気はポピュリズムによるものではない、維新はポピュリズム政党とは言えない、という方向だ。
 善教は、維新は大阪府と大阪市の二重行政、2つの行政機関が考え方の異なる地方自治を行うことの矛盾を指摘することで人気を拡大した、としているが、しかし
所謂大阪都構想、大阪市廃止に関する住民投票は2度も否決された。維新が二重行政の指摘で人気を拡大したなら、少なくとも2度目は可決されたはずだ。2度も否定された政策が大阪における維新の絶大な人気の理由というのは奇妙だ。

 また、中央の自民政権の新型ウイルス対応の不備を理由に自民党への拒否感の高まりを理由に、それで先日の衆院選で維新が絶大な人気を獲得した、とも言っているが、それでは、役に立たない雨合羽を大量に集めた松井の失態や、ガーディアンも取り上げたポピドンヨードデマを撒いた吉村の失態があるのに、そして世界的にトップレベルの死者を出している実態があるのに、なぜ府政/市政与党の維新が人気を獲得したか、の説明がつかない。自民政権の新型ウイルス対応の失敗が維新が人気を集めた理由なら、自民政権同様に大阪における対応に失敗した維新が人気を得ているのはおかしい。もしそれが理由なら、維新ではなく立憲民主や共産が躍進しているはずだ。
 
善教は「維新支持はポピュリズム政治の帰結だという結論には十分な根拠がない」と言っているが、善教の「維新現象は本当にポピュリズムか」という主張にも十分な根拠があるようには到底思えない。そのようなことから考えても、ポピュリズムに頼り、維新はよくやっているという印象をメディア経由で醸しているから、マイナスがマイナスになっていない、と考えるのが妥当なのではないか。


 松本の見解に賛同しかねる理由には、このBuzzFeed Japanの記事を「反維新の人こそ冷静に読むべき善教将大氏の分析」と肯定的に紹介しているところにもある。松本がメディア出身の人間でなければ、メディアにだけ責任を求めるのは適当ではない、という話も少しは説得力があっただろう。だが、彼はメディア側の人間なのだし、まずはメディアの異様な状況を指摘してからでないと、その主張には説得力が感じられない。


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