政治家や報道機関が、何に触れないか、言っていなか、はかなり重要なことだ。 しかし、触れていないこと、言っていないことを理由にして曲解してはならない。直接的にはぐらかしたかどうか、触れること、言ったこととのバランスなどから、何故触れないのか、言わないのか、それはなぜかを考えなくてはならない。
しばしば「え?そんな重要なことが、なんで1つの報道機関でしか報じられていないの?」と感じることがある。1つではなく、ごく少数の、ということもあるし、複数の報道機関で扱われていても、扱いがあまりにも小さく矮小化が激しい、と思う場合もある。それらのケースはどれでも違和感を覚えるし、不気味さを感じたりもする。
そんなことが数日前にもまたあった。
朝鮮戦争の終戦宣言に難色 岸田政権、韓国の提案に | 共同通信
この記事は、韓国の文在寅大統領が9月に国連総会の一般討論演説で提案した朝鮮戦争の終戦宣言ついて、岸田政権が時期尚早として難色を示した、という内容だ。これは、日米韓が10月にワシントンで行った、岸田政権発足後初めての高官協議での話で、ちなみに米バイデン政権は明確な賛否を示さなかったそうだ。
この記事は、岸田政権が朝鮮戦争終戦に反対した理由を、
北朝鮮がミサイル実験を繰り返し、核兵器開発と日本人拉致問題で解決への道筋が見えない中、岸田政権は融和ムードだけが拡大することを警戒した
からだと伝えている。融和ムードになれば拉致問題解決が遠のく?そう言える根拠はどこにあるのか。ミサイル実験だって、休戦中とは言えど戦争が続いているから行われているのではないのか? いろいろと理解に苦しむ。自民政権としては、支持醸成に使えなくなるので外敵を減らしたくないんだろう。
そして何よりも日本は、日中戦争や太平洋戦争を教訓に、戦後制定した日本国憲法で明確に戦争の放棄を謳っている。日本は世界に誇る平和憲法を持つ国だ。紛争の解決手段としての武力行使、威嚇、そして戦争を永久に放棄し、防衛の範囲を逸脱する武力(戦力)の保持もしないと宣言している。その国が、休戦中ではあるが隣国で継続中の戦争の終結宣言に対して難色を示すなんてのは、憲法を無視、優しく言っても軽視していると言わざるをえない。
そんな、憲法を尊重しなくてはならない最たる存在の政府が憲法の精神を無視した、という重大な話であるにも関わらず、これについて報じているのはこの共同の記事だけだ。この記事が出てから4日が経つが、地方紙によるこの共同記事の転載記事や、スポーツ紙やWebメディアによる、この記事へのSNS上での反応を取り上げた所謂コピペ記事は見つかるが、共同以外の大手メディアがこの件を取材し記事化していないのはとても不気味だ。
もし共同の記事が誤報であるなら、政府や与党からデマだとか不正確な記事だとかの指摘が出てきているだろうが、そのような指摘も一切見当たらないので、この共同記事が誤報である恐れは限りなく低い。にもかかわらず、他の大手メディアは記事化していないのだ。日本の大手メディアは、戦争反対をその大きな柱としている憲法を持つ日本の政府が、隣国の戦争終結に反対してもなんとも思わないのだろうか。報じる必要のない些細なことと思っているのだろうか。
朝日新聞は、11/6-7に行った世論調査結果に関する次の記事を11/7の夜に報じたが、
自民過半数「よかった」47%「よくなかった」34% 朝日世論調査:朝日新聞デジタル
前段で指摘したように、朝日新聞は岸田政権が朝鮮戦争の終結宣言に反対したことを記事化していない。そのような政府や与党への支持/不支持の判断に関わるような重大なことを記事にせずに、自民党が過半数を大きく超える議席を獲得したことはよかったか、などと聞いているのである。馬鹿も休み休みにしろとしか思えない。
毎度同じ結論ではあるが、日本は政治だけでなく報道も狂っている、という思いはどんどん深まるばかりだ。
トップ画像には、File:あたらしい憲法のはなし 戦争放棄.png - Wikimedia Commons を使用した。