南北戦争中の1862年、当時のアメリカ合衆国大統領・エイブラハム リンカーンが南部連合支配地域の奴隷たちの解放を命じた宣言を、奴隷解放宣言と呼ぶ。この宣言はあくまでもきっかけに過ぎなかったが、南北戦争後、犯罪を犯した者などを除く自発的ではない隷属を禁じたアメリカ合衆国憲法修正第13条を多くの州が批准し、奴隷解放運動が盛んになっていった。
ただし付け加えておくと、殆どの州は修正第13条を布告から1年以内に批准したが、布告された1865年に存在していた36州のうち、批准するのが最後になったミシシッピー州が、修正第13条を批准したのは布告から130年後の1995年だったそうである。
世界的には、1948年に国連で採択された世界人権宣言の第4条で「何人も、奴隷にされ、又は苦役に服する事はない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する」と定めている。
奴隷とは「人格としての権利と自由をもたず、主人の支配下で強制・無償労働を行い、また商品として売買、譲渡の対象とされる「もの言う道具」としての人間のこと」を指すのだそうで、現代、特に先進国では、あからさまな人身売買のような行為は殆ど行われていないものの、しかしそれでも、高額の借金を負わせるなどの方法で自由を奪ったり、事実上の人身売買行為などが今も根強く残っている。一説によると、現在も実質的に奴隷と認識すべき人が4000万人もいると言われている。
12/10、米南部6州で深刻な竜巻被害が発生した。発生した竜巻は合わせて約30で、その通り道となった街全体を破壊しながら移動し、100人を超える死者を出した。
米ケンタッキー州などで猛烈な竜巻 死者100人超か - BBCニュース
イリノイ州にある Amazon の倉庫も倒壊し、働いていた6人が死亡したそうだ。この被害によって、竜巻がよく発生する地域にあるにもかかわらず、倉庫の建屋は竜巻に弱い工法で建設されていた、従業員がシェルターではなくトイレに避難するよう指示されていた、従業員の倉庫内への携帯電話の持ち込みが禁止されており、従業員が自分の端末で気象情報を入手できない状況に置かれていた、Amazonの配送ドライバーは竜巻警報を理由に配達をやめたらクビになる可能性があると警告されていた、などの話が報じられている。
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この件から、奴隷解放宣言から160年経っても、アメリカ合衆国には未だに奴隷労働が残っていると思えた。Amazon で働いている人達は、人身売買によって連れてこられて強制的に働かされているのでははいが、少なくとも、人間としての名誉や権利・自由を認められていない状況、とは言えるのではないだろうか。
Amazon の倉庫における労働環境、配送ドライバーに課される過酷なノルマなどに関しては、その不適切さがこれまでも度々指摘されている。
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Amazon の労働問題は決して米国だけで指摘されているわけではない。日本でも、Amazon がその立場を利用して安い配送単価を強いた結果、配送業者が過酷な労働環境を強いられているという指摘はあるし、昨今、Amazonの配送品質の低さを指摘する声も少なくない。恐らく安い単価を強いた結果、請け負う業者が減り、質の悪い配送人に配送させざるを得ない状況なのだろう。
Amazon の労働環境が著しく低いことだけで、アメリカ合衆国には奴隷労働が残っている、と言えば、それは少し極端かもしれないが、イリノイ州の Amazon 倉庫同様に、敦巻による大きな被害を受けたケンタッキー州のろうそく工場でも、「竜巻警報を理由に帰宅したら解雇する」と従業員に告げられていたという証言があるそうだ。
このような、実質的な奴隷とも言えそうな劣悪な労働環境は、決してアメリカだけの問題ではなく、ブラック企業という言葉が生まれ、未だにサービス残業を強いる企業が少なくない日本の方が、寧ろ酷いかもしれない。それは強制労働ではないから奴隷ではない、と言う人もいそうだが、多くの労働現場がそのような状況にあり、まともな労働環境での労働を労働者が選択できる状況にないなら、生活/生存の為には望まなくてもそのような環境で働くしかない、ということであり、それは特定の人物や組織による強制労働ではなくても、社会全体で見れば実質的には不当な環境での労働が強いられていると言えるだろう。
およそ1%以下の人が世界の人口の半分が持つ資産の総額よりも多くの富を独占していること、そしてその富のかなり極端な偏在が固定化してしまっていることから考えると、現代社会は、資本主義の名を借りた、自由主義とは名ばかりの封建制、奴隷制と言えるのではないだろうか。奴隷制は言い過ぎだとしても、少なくとも実質的な農奴制とは言えるだろう。農奴は奴隷と区別して語られることも多いが、実質的には、縛りの程度が多少違うだけで、どちらも隷属と過酷な労働を強いられることには違いない。
トップ画像には、In giving freedom to the slave, honourable alike in what we give and what we preserve. Abraham Lincoln by Paul Peter Piech - Artvee を使用した。