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文化を守ることは、経済的優位性を保つことでもある

 昨夜の DOMMUNE は、TBSラジオのアフター6ジャンクションとの連動企画だった。アフター6ジャンクションは、平日の18:00-21:00に放送しており、基本的に平日の19:00-24:00に配信している DOMMUNE とは裏番組の関係にある。アフター6ジャンクションは、カルチャーキュレーション番組とも銘打っており、内容の点でも2つの番組はライバルのような関係だ。

 DOMMUNE がDJ Mix配信メディアでもあり、そしてアフター6ジャンクションのラジオパーソナリティーが、日本を代表するヒップホップグループ・ライムスターの宇多丸であること、彼がラッパーとしてだけでなく、申し訳ないと というイベントでDJとしても活動していたことなどによって、この日の両番組は 申し訳ないと をフィーチャーした。

 申し訳ないと は、2013年までレギュラー開催されていた、J-POP DJイベントの草分け的存在である。いま振り返ると、レギュラーDJ/準レギュラーDJ/ゲスト出演アーティストにはそうそうたるメンバーが名を連ねていたイベントだった。

 DOMMUNE とアフター6ジャンクションの連動企画では、DOMMUNE で行われた DJ Mix が一部TBSラジオでも放送され、また両方の番組のトークパートでは、申し訳ないと とは何だったのか、のようなテーマが語られた。


 面白かったのは、アフター6ジャンクションが民放ラジオ番組というフォーマットで、割合キッチリと段取りを踏まえていたのに対して、DOMMUNE側はいつもの通りの緩さだったことだ。但し時間的連動のあった部分では、当然 DOMMUNE もいつものような緩さではなく、TBSラジオの都合に合わせたふるまいを見せていた。
 また、それぞれのトークパートを聞いていて、DOMMUNE とアフター6ジャンクションの客層の違いと言うか、見据えたターゲットの違いというか、それに対するスタンスの違いのようなものも見えた。民放ラジオ番組という立場上、音楽ファンやDJカルチャーにそんなに興味がない人にも、一応分かりやすく説明を補足するというスタンスのアフター6ジャンクションと、DJカルチャーの基本的な部分の説明は省き、それは既に共通認識がなされているもの、のようなスタンスで話を進める DOMMUNE という違いがよく分かった。

 そんな風に思いながら、アフター6ジャンクションの 申し訳ないと に関するトークパートを聞いていて、未だに一般大衆向けには、DJは何をしているか、から説明が必要なんだな、と再確認させられた。日本におけるDJカルチャーが始まって既に少なくとも30年以上が経過し、今ではアニメソング DJイベントのような、日本の独自性のあるDJカルチャーも生まれているのに。
 DJ と言うと、まだまだ一般的にはレコードをこすってスクラッチ音を出す人、のようなイメージがありそうだが、本来DJとはディスクジョッキー、つまりかけるレコードを選ぶ人であり、スクラッチをしないDJの方が寧ろ多い。DJがやっていることは、2台のレコードプレイヤー、またはCDプレイヤー・デジタルオーディオプレーヤーで曲をかけ、ある曲から次の曲へ違和感なく曲を転換させていく作業だ。2つの曲をスムーズにつなぐのに必要なのが、大抵2台のプレイヤーの真ん中に置かれるミキサーであり、DJ はDJプレイ中の多くの時間DJミキサーを触っている。
 DJカルチャーに興味のある人、音楽をそれなりにたしなむ人にとってはごく当たり前のことなのだが、そうではない人の、DJが何をしているのか、の認知は今も全然進んでいないと言っても過言ではない。


 昨日のアフター6ジャンクションを聞いていて更に思った。もうそろそろ、音楽の授業でDJとは、ということを教えてもいいんじゃないか? と。クールジャパンとか言っているんだし。というのも、DJカルチャーが生まれたのはアメリカだが、DJカルチャー黎明期から、現場ではずっとテクニクスのターンテーブルが使われてきた。そして1990年代にパイオニアがCDJと現在最もスタンダードなDJミキサーと言ってもよいDJMシリーズをリリースしており、つまり、勿論他国ブランドのDJ機器もあるものの、現場で最も使われているDJ製品は、今も昔もそのほとんどが日本のブランドの製品だからだ。
 このような状況にあるのだから、DJカルチャーは日本発祥ではないが、日本の文化と言っても過言ではないのではないか。にもかかわらず、未だに日本人の多くが、DJが何をしているのか、をよく知らない状況なのだ。知らない人が多いなら教える、どこで?学校で。それが文化を守る為に必要なことではないのか。

 20世紀後半、つまり第二次世界大戦後は主にロックの時代だった。でも未だに音楽の授業ではロックについてもそんなに教えていない。だったら、それよりも若いダンスミュージックやDJカルチャーが取り上げられていないのは当然なのかもしれない。
 でも、ロックバンドが何をやっているか、は日本人の大半が既に知っている。ギターやベースやドラムが演奏し、その曲にボーカルが歌を乗せる、というロックバンドの構造を大抵の人が知っている。しかしそれがヒップホップだろうとハウスやテクノのような狭義のダンスミュージックだろうと、、DJに関しては、何をやっているのか、を多くの人が知らない状況にある。黎明期から数えたら既に文化の歴史は50年近いのに。


 1990年代日本のブランドが世界を席巻していた家電/AV機器は、最早韓国/中国に追い抜かれてしまった。カメラもプロユースのレンズ交換式以外は、中国製に取って代わられてしまっている。自動車はまだ日本ブランドも世界的にシェアを持っているが、EVへの移行を契機に縮小に向かいそうな兆候がある。バイクは未だに日本ブランドが世界を席巻している状況だが、日本では若い人たちがバイクに目を向けておらず、少子化も深刻だ。一方で東南アジアやインドのブランドが徐々に台頭し始めている。今のうちにDJカルチャーの促進をしていかなければ、DJ機器における日本ブランドの優位性も、いつまで続くかは分からない

 文化を守ることは、ある意味で経済的優位性を保つことでもある。貧すれば鈍すると言うが、鈍するから貧するとも言えるだろう。


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