1980年代は、第2次世界大戦後に始まった米ソ冷戦の末期だった。その頃は既にソビエト連邦は経済的に疲弊しており、1960年代のような一触即発な雰囲気はなかった。1989年に東ドイツがベルリンの壁の開放を宣言し、冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊した。これに続いて起きたルーマニア革命を皮切りに、東欧諸国で共産党政権が次々に倒れた。
旧ソビエト国内だったバルト三国やモルドバ・ラトビア・グルジア(現ジョージア)・アルメニアでも独立要求が高まり、最終的に、1991年12月にソビエト連邦は崩壊した。
トップ画像地図の、緑系で示された国や地域が旧ソビエト国内で、西ヨーロッパとの間にある名称が示されている国が共産圏で、所謂東側陣営だった国である。ソビエト連邦は、連邦の名の通り、幾つかの共和国の集合体である。アメリカが、国に準ずるような自治機能を持つ州の集合体であるのと似ている。
日本のような中央集権国家しか知らないと、なかなか分かりにくいかもしれないが、ソビエト連邦崩壊によって分離した国の中にも幾つかの自治共和国がある場合がある。現在のロシア連邦の中には、47の州、州とほぼ同等の9つの州、モスクワ/サンクトペテルブルグの2つの連邦市などの他に、21の共和国がある。
このところ、ロシア軍がウクライナに侵攻しそうな気配がある、という話が頻繁に聞こえる。
「国際秩序への脅威」「米欧が挑発している」 ウクライナ情勢巡りアメリカとロシアが国連安保理で応酬:東京新聞 TOKYO Web
この件に関して、日本で芸能活動をしている関西育ちのロシア人2人組・ピロシキ―ズが、思いを述べる動画をYoutubeで公開していた。
ロシア人がウクライナ軍事侵攻について思うこと。 - YouTube
この動画を見て、まず最初に思ったことは、2人がロシア人であるからか「ロシアがウクライナに侵攻したらうれしいですか?」みたいなことを、無頓着に聞く日本人がいる、というヤバさへの落胆だった。戦争が絡むことについて「うれしいですか?」なんて聞くアホがいるということが非常におろそしい。想像力があまりにも欠如している。
動画の中で小原 ブラスが説明しているように、今ロシアによるウクライナへの侵攻の懸念が高まっている状況になっている背景には、様々なことが絡んでいる。直接的には2014年のロシアによるクリミア併合から始まった今の状況ではあるが、それが全ての発端というわけではない。
前述したように、ウクライナは、1991年のソビエト連邦崩壊と共に、ロシア内に残らずに自主独立を果たした国の1つだ。ウクライナにも24の州の他に、2つの特別市と1つの共和国があった。そのウクライナ内のクリミア半島にあった共和国・クリミア自治共和国(とセヴァストポリ特別市)をロシアが併合したのが2014年の出来事である。
現在クリミア半島はロシアが実行支配している状態だが、国際的には併合は認められていない。またクリミア半島だけでなく、ウクライナ東部のドネツィク州やルハーンシク州の一部も親ロシア派が多く、現在ウクライナ中央政府の力が及んでいない地域とされている。
ピロシキ―ズの動画でも触れられているが、クリミア半島と前述のウクライナ東部2地域にはロシア系住民が多く、ロシアはその保護を大義名分にクリミア半島の併合を行った。しかし現在のロシア系住民が多い状況は、スターリンが土着のクリミアタタール人を中央アジアへ強制移住させた結果であり、本来クリミア半島はクリミアタタール人の住む土地だった。
見てから3日経っても、この動画のことが頭から離れず、寝る前とかトイレとか風呂とか、ぼーっとしそうになる際に何度も頭の中で反芻していた。そんな風に反芻していたら、なんだかアフリカの問題と似ている気がしてきた。
アフリカには多様な民族が存在するが、15世紀から20世紀に欠けて欧州諸国に侵略・植民地化されて、欧州諸国の都合で勝手に国境をひかれた。その結果、1つの民族が別の国に分断されたり、本来別の国になるべき異なる民族性が1つの国にされたりしたことで、今も問題が絶えない。たとえばルワンダの大虐殺もそんな背景があって、フツとツチ族の争いが発展して悲劇が起きた。
そして同種の問題はアラブやペルシャ圏、コーカサスなどにも複数ある。イスラエルと周辺国の紛争・中東戦争も、英仏などが勝手に引いた国境や勝手に決めた取り決めがことの発端だし、クルド人が国を持てない状況で各国で迫害されているのも同様だ。また、ウクライナと同様に旧ソビエト国内だったジョージア(旧グルジア)にも、ウクライナのクリミア問題と同種の問題がある。ジョージア国内の自治共和国であるアブハジアと南オセチアは、ウクライナにおけるクリミアや東部2地域と同じような状況が2008年以降続いている。
日本にもアイヌや琉球など大和民族とは異なる民族性もあるが、大抵の人は日本=単一民族国家と思っていて、そのような民族的な対立・問題への認識が希薄だ。戦争が絡むことについて、その国の人に「うれしいですか?」なんて聞くのはもってのほかだし、そんなバカなことを言わないように、もっと色んなことに目を向けないといけない。