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のぞき魔の今昔

 トップ画像は、映画バックトゥザフューチャーの1シーンだ。詳細は省くが、マイケル J フォックス演じる主人公・マーティの父・ジョージが、この映画のヒロインで、後にマーティの母となるロレインの着替えを覗いているシーンである。添えてあるのは、本来はここにいなかったはずなのに、デロリアンで1955年にタイムトラベルしてきたことで、ここに偶然居合わせてしまったマーティのセリフだ。

 ピーピングトムとは、のぞき魔を意味する。Wikipediaによれば、領民に対して情けぶかいゴダイヴァ夫人が、理不尽な夫に難癖をつけられて素裸で長髪をなびかせ馬に乗って町内を横断する羽目になり、町人は夫人に恩義を感じて目をそむけ野次馬を差し控えたのだが、ただ一人、トムという男が盗み見たため、以来、ピーピング・トムといえば覗き見をする人間の代名詞となったのだそうだ。

 ピーピングトムでバックトゥザフューチャーと共に思い出すのが、米米CLUBの曲、その名も Peeping Tom だ。マイケル ジャクソンのスリラー的でもあるサビのダンスが印象深い。ちなみにピーピングトムというタイトルで歌詞にも出てくるものの、歌詞の内容にもMVの印象にも、のぞき魔的なニュアンスはほとんど感じられない。

米米CLUB「Peeping Tom」(1991) - YouTube


 昔はのぞきと言えば、節穴からだとかどこかに潜んでだとか、肉眼で、というのが当然だった。2004年に、早稲田大学教授がエスカレーターで女子高校のスカートの中を手鏡でのぞこうとして現行犯逮捕されたという事件があった。ただ、それ以前の2000年には、田代まさしが東横線の駅で女性の下着を盗撮しようとして捕まっている。携帯電話のカメラ搭載が一般化し始めたのは、”写メール”というコピーと共にシャープが2001年に売り出したJ-SH04が最初だったから、田代の2000年の盗撮は、ビデオカムか写真撮影用カメラを使ったんだろう。ただ、90年代、もしかしたらそれ以前から、盗撮写真をバンバン掲載するエロ本なんてのはあったから、田代の行為が先進的?だったかと言えばそうでもなかった。

 J-SH04の登場以降、携帯電話へのカメラ搭載は物凄い勢いで進んだ。当初は30万画素レベルの、初期のプリクラみたいな写真しか撮れないカメラだったが、00年代後半にはコンパクトデジカメとはあまり変わらない性能になり、動画撮影も可能になった。10年代に入ってスマートフォンが普及し始めると、携帯電話が搭載するカメラ性能は更に向上し、今では家庭用ビデオカムやコンパクトデジカメをほぼ完全に駆逐してしまった。最早スマートフォンで写真や動画を撮影するのが当然であり、明確に撮影を趣味として、より高品質で自由度の高い撮影環境を求める者がレンズ交換式カメラを買う、という状況になっている。
 また2007年に登場したGoProを筆頭としたアクションカムの台頭も目覚ましい。当初は撮影性能はほどほどで、防水性やコンパクトさなどをウリにしていたが、世代を追うごとに撮影性能も進化し、今では望遠機能以外は10年代前半のビデオカム性能を完全に凌駕している。
 つまり、カメラの手軽さと小型化は、この20年で目覚ましい進化を遂げ、その結果、のぞき魔は肉眼ではなくカメラを使うケースがかなり増えたと言えるのではないだろうか。


 更に、小型のPCと言っても過言ではないスマートフォンが普及したことによって、使用者に見つからないように、バックグラウンドで動作し続けるストーカーアプリなるものも登場している。悪意を持った誰かがこっそりインストールするとか、普通のアプリに偽装したものを自らインストールするとか、そんなアプリが自分のスマートフォンにインストールされてしまえば、スマートフォンのカメラやマイクを通じて盗撮/盗聴されるだけでなく、位置情報を悪用したストーキングや、Web閲覧履歴、メッセンジャーアプリなどを監視して個人情報を収集されるなんてこともやられてしまうリスクが生じている。

 そんなことも決して他人事ではないという状況や、せめて盗撮リスクだけでも減らそうということから、PCやスマホに内蔵されているカメラに関して、使わないときは物理的に蓋をする、という対策を行う人も少なくない。盗撮防止用のシール、回転/スライド式のカメラカバーなんてのも沢山売られている。
 そんな背景から、最近はメーカー側も、カメラやマイクが動作していることを示すランプを搭載したり、カメラやマイクが使用されている時は画面にアイコンを表示する、なんてことなどをやっているのだが、この頃相次いでこんな記事が出ていて、結局そんなのも気休めに過ぎず、信用ならないな、という感しかない。

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 メーカー側はバグだと言っているが、故意に密かに仕込んでいたものが発見された為に、「バグでした、てへw」と言い張って誤魔化しているだけ、という恐れがないとは言い切れない。しかも、こう相次いで同じような事例が明らかになると、これはあくまでも氷山の一角であり、他のアプリや機種でも、同じ様なことが行われているのではないか、という疑念にかられてしまう。
 世の中ではSiriやアレクサを始めとした音声認識AIやスマートスピーカーなどが、最早当然のように使われているものの、ずっと自分のことを盗み聞きして個人情報を収集しているかもしれない、という疑念が拭えず、全く使う気にはなれない。勿論、スマートフォンを使っていたら、音声認識をOS上などでオフにしてそれらを使っていないつもりでも、実はバックグラウンドで同じことが行われている疑念はあるわけだが、それでも積極的に使う気にはなれない。できるだけ距離を置いていたい。


 アップルが2021年4月に忘れ物タグという名目で発売した AirTag は、更に個人情報収集リスクを高める諸刃の剣のようにも思う。どこかに置き忘れそうなものに仕込んでおいたり、クルマやバイクの盗難対策として使うなど、ポジティブな使用を想定して作られた製品なんだろうが、悪用対策が不十分で、知らない間に他人によって自分のクルマやバイクに仕込まれて盗難に悪用されたなんてケースもあるようだし、ストーキングツールとしても悪用されるケースも既に起きているようだ。

 アップルは、ひそかにAirTagを仕込まれることがないように、以前からiOSに検出機能を組み込んでいたが、世の中には iPhone よりも Android端末使用者の方が多く、全く悪用対策として不十分だった。そんな指摘を受けてか、2021年12月、AirTagの発売から半年以上も経って、アップルはやっとAndoroid向けのAirTag検出アプリを提供し始めた。

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 しかしこれも、決して充分な対応とは言い難い。AirTag悪用被害にあいたくないならアプリを入れろ、と言われても、そもそもアップルがそんなものを売らなければ、そんな検出アプリを導入してバックグラウンドで動かし続ける必要なんてないのだ。消費する電力は微々たるものだろうが、なぜ本来必要ないリソースを、恒常的にずっとAirTag検出の為に割き続けないといけないのか。
 また、スマートフォンを日常的に使用していない人はそもそも対策を講じることが出来ない、という問題もある。果たしてスマートフォンを使わない人はAirTag悪用被害の懸念に晒されても仕方ないのか。そんなはずがあるわけない。アップルは、AirTagを売りたいならば、全人類に1台ずつiPhone、若しくはAirTag検出ツールを配布すべきではないのか?という気さえしてくる。しかしそれでも、そんな本来持たなくてもいいものを常時携帯させられるのは御免だし、やっぱりAirTagのようなものを気軽に売るべきでない、という結論しか導き出せない。


 情報端末の普及と性能向上が進んだ所為で、ピーピングトムはのぞきをやりやすくなったとも言えるんだろうし、更には、利益最優先で大企業が公然とのぞきをやるような状況になったのぞきよりも悪質な行為を実質的に推進する立場になった、と言えるのではないだろうか。


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