群れの中で、最初に海に飛び込むペンギンのことを The first penguin と呼ぶのだそうだ。天敵がいるかもしれない目の前の海へ、果敢に自ら飛び込む勇気ある1匹、そんなニュアンスである。
ファーストペンギンは、この数年しばしば耳にするようになった表現だが、日本でこれがポピュラーになったのは、2015年のNHK朝ドラ・あさが来た の中で、主人公である明治時代の女性実業家が、時代を切り拓く者のようなニュアンスで、ペンギンに例えられたかららしい。
昨年・2021年に当時の首相・菅 義偉が、人気アニメ・鬼滅の刃 にあやかろうとして、国会で「全集中の呼吸で答弁させていただく」なんて発言してひんしゅくを買った。このファーストペンギンについても、東京都知事になって間もない小池百合子が、それを講演で持ち出すなどしていた。おじさんおばさんが乗っかり始めたら流行は既に終わりかけている、なんてことがよく言われる。政治家らのこの手の話はおじさんおばさんに向けた発信だからそれでよいのかもしれない、とも思うものの、露骨で安易な人気取りでみっともないとも思う。
だが、調べてみると、所謂ファーストペンギンは、天敵がいるかもしれない目の前の海へ、果敢に自らの意思で飛び込む勇気ある1匹、でもないようで、たまたま海の近くにいた個体が、安全確認の生贄として他のペンギンたちに押されて飛び込まざるを得ない状況に追い込まれるだけ、なんて話もある。
ファーストペンギンが勇気ある1匹なのか、周りによってたかって落とされただけの生贄なのかはさておき、飛び込んだ最初の1匹に異変が起きなければ、その周辺はとりあえず安全であることが証明される。最初の1匹が飛び込んで泳ぐことで、ここは飛び込んでも安全、という前例が出来るわけだ。そうやって示された前例に沿って他の個体が次々と飛び込んでいく。ペンギンは海の中で食料を調達するので、海に潜らないわけにはいかず、しかし群れ全体が襲われるリスクを減らす為に、そんな前例づくりをやっているようである。
今日の投稿のテーマは前例である。
れいわ新選組の衆院予算委質問、認められず 与党「例がない」と反対 山本太郎氏「非常に残念」:東京新聞 TOKYO Web
2/18の予算委で、首相に直接ただしたいというれいわ新選組の意向を踏まえ、立憲民主党が、割り当てられた質疑時間の一部をれいわの大石 晃子の質疑にあてることを理事会で提案したが、自公ら与党は「首相が出席し、テレビ中継される予算委で、委員以外の議員が質疑した例がない」と反対したそうだ。立憲の質疑時間をれいわへ譲るというだけのことなのに、れいわの大石 晃子が質問に立つのは自公にとって相当都合が悪いようである。
前例がないから反対?自公はよくそんなことが言えたものだ。戦後これまで全ての内閣が「日本国憲法では、集団的自衛権は容認されていない」という見解を示してきたのに、2014年にそれを閣議決定という手法で一方的に強引に覆したのは誰か。前例がないから出来ない、ということであれば、勝手な憲法解釈変更だって出来ない筈である。
また、自民党議員や支持者らは、外国では結構頻発に憲法を改定しているのに、日本はこれまで一度も日本国憲法を変えていない、それはおかしい。だから憲法改正が必要だ、のようなことを言う。しかし、前例がないから出来ないのであれば、今まで変えたことがないのだから憲法改正も出来ない、ということになる。現在自民政府が前のめりになっている敵基地攻撃能力の保持なんてのも同様で、これまでそんなものは一切認められていないのだから、前例のないことは出来ないなら、敵基地攻撃能力の保持を検討するなんてあり得ない、ことになる。
でも自公与党は、そんなことは一切言わない。つまり前例がないから出来ないなんて言うのは矛盾・詭弁でしかない。
でも日本の有権者は、そんな詭弁屋の集まりを与党に選んでしまうのである。毎度毎度のことではあるが、日本がバブル崩壊から30年間没落の一途を辿っていること、2010年代以降それに拍車がかかっているのは、そんな政治を選んでいるのだから当然でしかない。
トップ画像は、penguins standing on rock formation photo – Free Animal Image on Unsplash を使用した。