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ロシアを反面教師として日本のプロパガンダについて考える

 ロシアがウクライナへ侵攻を始めて今日で4日が経過した。渋谷駅前では昨日・2/26、ロシアのウクライナ侵攻に対する抗議デモがあった。それに対して、駐日ロシア大使館のツイッターアカウントが次のような投稿をしている。

東京渋谷の反露集会の参加者へ 皆さん、 8年間に渡り、キエフの歴代の政権がドネツク共和国とルガンスク共和国の住民に対して戦争とジェノサイドをやっていた時に、皆さんが何処にいたでしょうか 何で反対しなかったのでしょうか。ウクライナ軍が犯した恐ろしさについて何も知らなかったのでしょうか
ロシアは国際社会に資料や情報など証拠を沢山提供しています。キエフ政権に反対したロシア人とウクライナ人なら罰を受けずに幾ら殺してもいいとでも思っているのでしょうか。 キエフ政権の嘘の宣伝に乗らないで下さい。

 まずウクライナ政府のことをキエフ政府と呼ぶところに、ロシアの思惑が如実に滲む。自分の目には、ウクライナはロシアの一部だと言っているようにも見える。また、国連など国際的にウクライナの現政府は間違いない同国において妥当に選ばれた政府と認識されているが、ロシアにとっては都合が悪く、ウクライナの現政府を同国の正当な政府と認めない、という態度も強く滲む。

 そして、ロシアはウクライナ東部2地域の独立を、国連などを無視して強引に承認し、それを保護する、同地域の平和を維持するという名目でウクライナへの侵攻を行っている。だが、同地域とはかなりの距離があるチェルノブイリ原発がロシア軍によって制圧されたという報道、ウクライナの首都キエフ周辺へもロシア軍が侵攻している、ミサイルによる攻撃が行われているという報道、またロシア軍が非人道的とされる兵器・クラスター弾による攻撃を行ったという報道もある。

 もしかしたら、これらの記事の中には実態とやや異なる情報も含まれているかもしれない。しかし、現在ウクライナでは国外メディア・記者も取材を行っている。北朝鮮のように厳しい情報統制が敷かれているという状況では決してないし、これらの報道が全てウクライナ政府によるでっちあげとは全く思えない
 しかし駐日ロシア大使館は、このような報道は全部ウクライナ政府のでっち上げである、と強く示唆するSNS投稿を日本でもやっている。これはまさに政治宣伝・プロパガンダの類だ。


 前段でも紹介した記事「チェルノブイリ制圧、ハイブリッド戦争…キーワードで読み解くウクライナ侵攻:東京新聞 TOKYO Web」には、

今回の侵攻では、ロシア軍による「ハイブリッド戦争」という言葉も聞こえてくる。黒井さん(軍事ジャーナリストの黒井文太郎)によると、厳密な定義はないが、軍事力に加え、それ以外の力を使う戦争を指す。現在注目されているのは、サイバー攻撃でネットを使えなくさせたり、うその情報を流したりする情報戦を交えるタイプだ。

とある。今回のロシアによるウクライナ侵攻に関しては、見出しや記事本文にもある、ハイブリッド戦争というワードがしばしば使われている。だが、物理的な武力による軍事行動に加えて、うその情報を流したりする情報戦を交える、ということであれば、ほぼ全ての戦争が当てはまるのではないか。
 たとえば、80年前に日本が犯した戦争でも、政府や軍に都合の悪い報道が検閲の対象となり、大半のメディアが戦意高揚に加担した。これも明らかに嘘の情報を流す行為だし、それは日本に限らず連合国側でも行われた。また、諜報活動の歴史は古く、近代以前も、戦争を有利に進める為に根も葉もない噂を流す、などの行為は当然のように行われてきた。


 この投稿の冒頭で紹介した渋谷での抗議デモは、NHKも記事化している。

渋谷でウクライナ人ら数百人が抗議デモ 新宿ではロシア人も | ウクライナ情勢 | NHKニュース

 しかしNHKは、こうやってロシアのウクライナ侵攻に対する抗議デモをとりあげる一方で、東京オリンピックの聖火リレーを配信した際に、オリンピックに反対する活動をしている人たちの近くを通過した前後の、「オリンピックに反対」などの音声、約30秒分を消して配信した。更には、昨年・2021年12月に放送した番組の中で、「五輪反対デモにはお金をもらった人が動員されていた」という捏造もやっている。

 NHKは東京オリンピック反対デモを一切報じなかった、という事実はないが、自分の知る限り、NHKが積極的に東京オリンピック反対デモを報じていた印象はないし、というよりも、むしろNHKは、聖火リレーや本大会を大々的に取り上げ放送する一方で、東京オリンピック反対デモ・反対する人たちを煙たがっていたとしか思えない。それは前述した事例から推察できる為、決して荒唐無稽なレッテル貼りとは言えないだろう。

 現在ロシアでは一部の市民らが逮捕覚悟で反戦デモを行っているが、当然のように報道は操作されている。もし日本でプーチンのような者が支配者となり、現在のロシアと同じ様なことを始め、一部の市民がそれに対する抗議デモを行った際に、果たしてNHKはそれを適切に報道するだろうか。東京オリンピック反対デモを煙たがっていたことから推測すれば、NHKは政府当局の側に立ち、報道しない、報道したとしてもすこぶる消極的、もしくは矮小化して伝えるのではないだろうか。
 なにせ、以前NHKの会長が「政府が右ということを左というわけにはいかない」とまで言っていたのだから。


 NHKアーカイブスで”プロパガンダ”で検索すると、2つの番組と1つの記事がヒットする。他にも、ヒットした番組のうち1つに収録しきれなかったであろう映像などもヒットするが、それはここでは割愛する。「悲劇を繰り返さないために【太平洋戦争特集】」という記事については、プロパガンダで検索するとヒットする2つの番組の紹介を含む記事なのでヒットしている。つまり、実質的には2つの番組がヒットする、ということである。
 1つ目は「NHKスペシャル 従軍作家たちの戦争」という2013年に放送された番組で、その紹介文は、

「麦と兵隊」で知られる作家・火野葦平の従軍手帳が解読され、日中戦争から太平洋戦争にかけての陸軍のメディア戦略が明らかになった。中国のプロパガンダに対抗し、火野を報道班に引き抜いた陸軍は、さらにペン部隊を組織。南方にも徴用作家を送り、占領地の宣撫(せんぶ)工作にあたらせた。火野はフィリピンで捕虜の再教育に尽力するが、インパール作戦で軍の方針に疑問を抱く。火野の従軍手帳を軸に、作家の戦争協力を描く。

であり、中国のプロパガンダに対抗し、という部分がヒットした理由である。しかし、番組紹介文は見ての通り、番組紹介動画にも、日本のプロパガンダという文言はない。

 2つ目は「NHKスペシャル 憎しみはこうして激化した~戦争とプロパガンダ~」という、2015年に放送された番組だ。この番組はタイトルにプロパガンダが含まれている為にヒットしている。ただし、番組の紹介文はこうだ。

米海兵隊が太平洋戦争の戦場で撮影した、約3000本、500時間のフィルム。当時制作されたプロパガンダ映画の元素材だ。米軍は「映像は兵器だ」として、戦意を高揚させる映像を大々的に流す一方、「不都合な映像」を検閲し排除していた。日米双方のプロパガンダで、憎しみはどのようにエスカレートしたのか。膨大なフィルムと極秘資料、そして元カメラマンらの証言から、戦争とプロパガンダが何をもたらすのかを明らかにする。

日米双方のプロパガンダという文言はあるが、番組紹介文では米国の戦争プロパガンダにしか言及していない。紹介動画も同じで、日米ともにー というナレーションはあるが、使われているのは米国による映像ばかりだ。

 この段の冒頭で説明を割愛した、プロパガンダで検索してヒットした当該番組に入らなかった動画は、この番組を補足するものであり、それらを見ても、この番組は決して米国のプロパガンダだけに注目したものではないことが分かる。しかし、番組紹介では、明らかに米国のプロパガンダばかり強調し、日本のプロパガンダへの言及は明らかに少ない。少ないと言うよりも、一応日米双方のプロパガンダとは言っているが、日本のプロパガンダには全く触れていないと言っても過言ではない。
 つまりこの点からも、NHKは現在の自民政府にとって不都合なことには触れたがらない、ということが分かる。


 ウクライナ侵攻を正当化しようとプロパガンダに勤しむロシア。しかしこれは他人事ではなく、既に日本でも、程度の差はあれど似たようなことが行われている。悪い芽は手遅れになる前に摘んでおく必要がある
 やはり、他人の振り見て我が振り直せ、である。ロシアの現在の振舞い・状況を確実に反面教師にしなければ、このままではやがて日本の政府やメディアも、今のロシアのようなことを始めかねない、ということだ。



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