公園やショッピングモールで似顔絵を描いているのを見かけたことはないだろうか。トップ画像のような絵が作例としてたくさん飾ってあって、1500-2000円くらいで、10-20分くらいで描いてくれるサービスをやっている。似顔絵でなくカリカチュアと謳っていることも多い。
トップ画像は、大抵の人はそれが現アメリカ大統領・ジョー バイデンをデフォルメした似顔絵だと分かるだろう。とてもよく特徴を捉えていて、しわや鼻など特徴的なパーツを大きく誇張して描いている。
絵とは、基本的に見たものの特徴を捉えて、それを作者がフィルタリングし誇張を加えて表現するものだ。写実的と言われる絵であっても、色調や陰影の付け方など、何かしらの演出が加わる。竜や見知らぬ星などのような現実に存在しない創作もあるが、そのような想像上の被写体も、確実に何かしら既存のものを参考にして描かれる。例えば竜を構成するのは鳥の様な手足や爬虫類のような鱗だし、見知らぬ星の様子も、火星や月面、または密林をアレンジして表現されることが多い。
絵に限らず写真でだって特徴的な場面を切り出すという演出がなされることがある。たとえば前首相 菅のこの写真がいい例だ。
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この写真の菅は、一般的な菅のイメージとは明らかに異なる表情をしている。最早変顔と言ってもいいレベルだ。この写真は、菅が困惑している様子を表現する為に、敢えて一般的なイメージと異なる表情をした瞬間を切り抜いた、とも言えるのではないか。つまり、これは写真ではあるがデフォルメが加えられた表現と言えるだろう。
冒頭で触れた似顔絵屋について検索していて、テレビ東京のこんな記事が目に付いた。
4人の似顔絵師がその技を競う番組の紹介ページで、有名人を描いた似顔絵が幾つか紹介されている。
番組紹介記事の本分には「愛と毒にあふれた似顔絵の達人たちが一同に集結したのは」「クォーターファイナルは「毒絵で描く!有名人 似顔絵勝負」」なんて文言もあって、モデルとなった高田 延彦が完成した似顔絵を見て「あんた失礼だよ!」と言っている場面のスクリーンショットも掲載されている。
これはテレビ番組なので、台本なのか番組の意図を汲んだ高田の忖度なのかは分からないが、高田の反応も恐らく筋書き通りなんだろう。しかし、アンガールズの絵は、失礼だ、侮辱している、と言われる恐れが少なくなさそうな表現だし、北大路 欣也のデザインスケッチも、場合によっては不快感を示される恐れはあるだろう。
デーモン小暮とひょっこりはんの似顔絵は概ねそんな懸念はなさそうだが、デーモン小暮が若い頃だったら、悪魔のイメージで売っているのにかわいらしく描いてくれるな、と言っていたかもしれない。つまり極端に言えば、どんなタイプの似顔絵やデフォルメであっても、全く被写体に不快感を示される要素などないなんて言いきれない。
少し前にこんなこともあった。
- SNSに風刺画や「枕営業」…伊藤詩織さん中傷の漫画家ら提訴:東京新聞 TOKYO Web
- 【動画】伊藤詩織さんネット中傷 漫画家のはすみとしこさんら3人に賠償命令 東京地裁:東京新聞 TOKYO Web
元TBS記者の山口 敬之から性暴行を受けた伊藤 詩織が、ツイッターで悪質な書き込みやイラスト投稿で名誉を傷つけられたとして、漫画家のはすみ としこらを訴え、東京地裁は名誉棄損を認めて損害賠償の支払いを命じた。「はすみ 枕営業」などで検索すれば、複数の当該画像がすぐに分かる。
これについて、はすみは「風刺画はフィクションで実際の人物や団体と関係ない」としていたが、裁判官は「合意での性交後に『レイプ』と虚偽を述べる人物との印象を読者に与え、社会的評価を著しく低下させた」とし「『枕営業』の表現は、社会通念上の限度を超えた侮辱行為だ」と名誉毀損を認めた。
なぜこのような似顔絵などについてここで紹介したのかと言うと、昨日、政治家などをデフォルメした風刺漫画を描いている漫画家が「身体的特徴をからかわないのが私のポリシー」だと言っていたからだ。そんなこと言って大丈夫なのか?と思ったので、「桜井よしこの顔のシワを強調してデフォルメしたり、加計学園理事長の頭を尖らせて描いたりしていることは大丈夫なんですか?」「身体的特徴をからかってはいないけれど、竹中平蔵をダニとして描いたり、維新の主要な政治家をヤクザのように描いたりしているけど、それは大丈夫なんですか?」と聞いてみたら、それは私の感覚で私のマンガを描いているだけだから、それが大丈夫な理由は説明なんて出来ない、という返答が戻ってきたので愕然とした。
自分は何もそのような風刺はよくないと言っているのではない。寧ろどんどんやって欲しいくらいだ。ただし、たとえば今日のトップ画像に使ったバイデンの似顔絵だって、多くの人はそんな風に思わないだろうが、彼の身体的特徴をからかっていない、とは言い切れない。政治家などをデフォルメして風刺するマンガを描いているのに「身体的特徴をからかわないのが私のポリシー」なんて言うのは、矛盾が生じるから控えたほうがいい、と言っているのだ。
勿論、どこからが風刺でどこからが中傷かなどの明確な線引きなどないので、その判断は自分自身の感覚で構わないと思うし、身体的特徴を誇張した表現がその一線を超えないようにすると心掛けることは大切だろうが、「身体的特徴をからかわないのが私のポリシー」なんてのは、実在の人物をデフォルメして描くことを生業にしている人の言うべきセリフじゃない。
この漫画家は、橋下 徹の菅 直人に対する「ヒトラーに例えるのは国際的にご法度」や、自分達は批判どころか他党の中傷だって平気でやるのに、維新・馬場が菅 直人に対して「ツイッターで我が党を批判するな」と言ったことや、津田塾大学教授の萱野 稔人がフジテレビに出演して「ヒトラー例えは海外ではヘイトスピーチ」と言ったが、それが嘘である複数の事例を示されて批判受けると、「憎悪を煽るような侮辱は問題だという、広いヘイトスピーチの考え」などと言い出す盛大な論点ずらしをしていることなども、当然真っ向から批判している。
しかし、前述のような話では、維新の面々やその擁護者がやっているそのようなことと大差ないと思えてならない。
以前にも、あるメディアがあることないことを面白おかしく書きたてた所為で、とある有名人が深刻な不利益を被っている、と主張していた人物が、自分が行ったその記事を書いたライターへのインタビューに関して、事実と正反対のことをネット配信で言ったにもかかわらず、自分のその、ミスなのか故意なのかは分からないが、その間違いについては、ツイッターで一言「失礼しました!」とツイ―トしただけで済ませていたのを見てゲンナリしたことがある。
維新や自民の関係者、その支持者らだけでなく、真っ当なことを言っているように見える人でも、突然「私がルール」のようなことを言い出したり、自分にだけ甘い基準を適用する人は結構いる。そのような人や、そのような振舞いを目の当たりすると、とても残念な気分にさせられる。
トップ画像は、Joe Biden - Caricature | Joseph Robinette Biden Jr., aka Joe… | Flickr を使用した。