スキップしてメイン コンテンツに移動
 

与党も大手メディアも知らんぷり

 あなたはある小売り店の経営者。複数の店舗を展開していて、決算前に実地棚卸を行った結果、1つの店舗で実際の在庫数が帳簿上の在庫数と大きく乖離している。帳簿上の在庫数よりも実際の在庫数が大幅に少ない。あなたならどんなことが原因だと推測しますか?

 例えば、こんな原因が考えられる。

  1. 入庫時に帳簿を1桁間違ってつけてしまった。
  2. 入個数が伝票上の数字よりも大幅に少なかったのに、入庫時の検品がいい加減で帳簿上の数字と差異が生じてしまった。
  3. 発注担当者が納入業者と結託して、実際の納入数よりも多い発注伝票を作成するなどして仕入れ代金を着服している(2の派生)。
  4. 大規模な万引が発生していて、帳簿上の数と実際の在庫数に大きな差が生じた。
  5. 誰かが商品を大量に横領して、どこかに横流ししている。

1は偶発的なミスだが、納品伝票と照らし合わせるとか、納入業者に確認するなどの方法で原因が特定できる。2も偶発的なミスではあるが、3のようなケースもありえるので、担当者が相応の責任を問われても仕方がない。4は、ごく少数の万引なら概ね店舗関係者のミスではないとも考えられるが、あまりにも大規模な場合はわざと見逃している恐れもあり、背任と捉えることもできるだろう。5は言うまでもなく明らかな背任行為である。

 つまり、実際の在庫数が帳簿上の在庫数と大きく乖離する、なんてことは、民間企業においては大問題で、そんなことが起きたら大変なことになる。店舗の責任者、倉庫の責任者は当然責任を問われることになるし、経営者とオーナー/株主が別なら、経営者も相応の責任を取らされることになるだろう。場合によっては刑事罰に問われることもある。


 新型ウイルスの感染拡大が始まって約3ヶ月後の2020年4月頃、首相の安倍が鶴の一声で、感染予防効果の殆どないガーゼマスクを、各世帯に2枚ずつ配布すると言い出した。そもそも感染予防効果が殆どないのに、よくわからない怪しい企業へ発注がされたり、予算額が著しく増減したりするなど、感染予防策というよりも親しい業者に国家予算の横流しをしている感が強かった。また、各世帯2枚というのも不可解で、1人暮らしでも2枚、3世帯同居の大家族でも2枚配布となることにも批判が相次いでいた。そして実際に配布が始まると、今度はカビている個体や汚れている個体、中には虫の死骸が混入した個体なども見つかり、衛生用品としてまともでないという声も高まった。配布後も当該マスクを着用している人など殆どいなかった。
 このマスク及びマスク配布政策は、安倍が政権発足直後に大々的に宣伝した経済政策・アベノミクスをもじって、アベノマスクと呼ばれるようになり、誰もが認める天下の愚策となった

 更には、昨年・2021年の11月に、そんななんの役にも立たないマスクが、今も大量に保管されていて、その保管に約1年間で6億以上の予算が割かれている、ということが話題になった。岸田自民政府は希望者に無償配布と言い出したが、配布のための送料などに処分よりも高額な予算が更にかかる、という指摘がなされた。もうシッチャカメッチャカ、なんの役にも立たないどころか、不利益しか生まない存在でしかない。
 で、どうしようもない話は更に続き、その不利益しか生まないマスクの実際の在庫数が、帳簿上の記録よりも53万枚も少ない、という話が3/18に出てきた。

アベノマスク、53万枚が「不明」 後藤厚労相:時事ドットコム

 厚生労働大臣の後藤は、このような事態が生じた理由について「毎日大量のマスクの納入、梱包、配送を行っていたところ、集計のずれなどにより生じたのではないか」と説明したそうで、つまりその時点では明確な原因は不明である、ということになる。53万枚ものズレが起きているのに、民間企業でこんな説明だけで済むだろうか。勿論済むはずがない。確実に責任者が処分される。

 昨日の参院予算委にて立憲の杉尾が、この件について再び厚労大臣に問いただした。杉尾は「これはズレなんていうレベルじゃない」と指摘したが、厚労大臣の後藤は、前述の説明を繰り返した上で「原因を特定することは困難」とした。また、在庫約8000万枚の配送費は約10億円、焼却処分する場合の予算は約6000万円と試算されていることについて、後藤は「厚労省として10億円と、申し上げていない。どのように配送するかということが分からない状況の下で配送費用は分からない」と述べた。
 こんな馬鹿げた話があるだろうか。まず、53万枚ものズレが生じているなら、保管業者に責任を問わなければおかしい。しかし保管業者には責任は問うていないようだから、現在の保管場所に在庫が移される以前にズレが生じた恐れがある、ということなんだろう。だとしたら、厚労省の担当者が責任を問われるのは当然だし、最終責任者である厚労大臣、そしてその任命者である総理大臣だって当然責任を問われて然るべきだ。しかしそんな話は全然聞こえて来ない。

 そもそも、なぜ立憲がこの件を質しているのかも不思議で、なぜ身内である自民党から積極的な批判が起きないのか。また、Googleで検索した限りでは、昨日の参院予算委でこの件が再び取り上げられたことについて、記事化している・報じているのは、日刊スポーツと信濃毎日新聞だけだ。全国紙、NHK・民法キー局の記事は全く見当たらなかった

アベノマスク53万枚が不明 後藤厚労相「集計のズレ」釈明も「ズレなんてレベルじゃない」野党 - 社会 : 日刊スポーツ

「国民の資産が行方不明に」 立民・杉尾氏、「アベノマスク在庫数」を問題視 参院委員会 | 信濃毎日新聞デジタル

 民間企業でなら明らかに大問題で、横領や背任などの罪に問われる恐れもあることが、政府内で起きているのに、与党も政府関連の記者クラブに名を連ねるような大手メディアも、揃って知らんぷりなのだ。この国は本当にどうかしてしまっている。



 トップ画像には、倉庫 鋼 金属 - Pixabayの無料写真 を使用した。

このブログの人気の投稿

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。

フランス人権宣言から230年、未だに続く搾取

 これは「 Karikatur Das Verhältnis Arbeiter Unternehmer 」、1896年ドイツの、 資本家が労働者を搾取する様子を描いた風刺画 である。労働者から搾り取った金を貯める容器には、Sammel becken des Kapitalismus / 資本主義の収集用盆 と書かれている。1700年代後半に英国で産業革命が起こり、それ以降労働者は低賃金/長時間労働を強いられることになる。1890年代は8時間労働制を求める動きが欧米で活発だった頃だ。因みに日本で初めて8時間労働制が導入されたのは1919年のことである( 八時間労働制 - Wikipedia )。

馬鹿に鋏は持たせるな

 日本語には「馬鹿と鋏は使いよう」という慣用表現がある。 その意味は、  切れない鋏でも、使い方によっては切れるように、愚かな者でも、仕事の与え方によっては役に立つ( コトバンク/大辞林 ) で、言い換えれば、能力のある人は、一見利用価値がないと切り捨てた方が良さそうなものや人でも上手く使いこなす、のようなニュアンスだ。「馬鹿と鋏は使いよう」ほど流通している表現ではないが、似たような慣用表現に「 馬鹿に鋏は持たせるな 」がある。これは「気違いに刃物」( コトバンク/大辞林 :非常に危険なことのたとえ)と同義なのだが、昨今「気違い」は差別表現に当たると指摘されることが多く、それを避ける為に「馬鹿と鋏は使いよう」をもじって使われ始めたのではないか?、と個人的に想像している。あくまで個人的な推測であって、その発祥等の詳細は分からない。