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なかったことにはならない

 政治家ほど平気で詭弁を弄し、嘘も厭わない人たちはいないのではないか。勿論、他の職業の人たちにだって平気で詭弁を使い嘘をつく人はいるし、逆に政治家にだって誠実で嘘をつかない人もいる。だが、政治家はとりわけその種の人が多いように見える。少なくとも、その種の人が目立つし、その手の人たちが相応の地位にもいる。

 民主制の国における政治家は選挙によって選ばれている。だから、その国の政治家には国民の政治レベルが反映されているとも言える。つまり、平気で詭弁を弄し嘘も厭わない政治家が多選できるということは、厳しく言えば、その国は平気で詭弁を弄し嘘も厭わない国民性である、とも言えるだろう。
 また現在の日本では、そのような政治家による詭弁や嘘を、大手メディアがあたかもまともな発言の範疇かのように伝える。そのようなことを考えれば、やはり、日本は平気で詭弁を弄し嘘も厭わない国民性である、と言えそうだ。あからさまな詭弁や嘘を、詭弁や嘘としてではなくまともな発言かのように伝えるその種の報道を、読者や視聴者が嫌悪しない、ということだろうから。

 政治家の詭弁や最も多いのは「誤解を招いた」である。不適切な発言をした場合や、発言とは異なる行動をとったり、発言とは異なる結果になった場合に、当該発言の意図/趣旨を事後的に改ざんするのに、「誤解を招いた」という詭弁がしばしば用いられる。
 記事や録音、映像が残っていて、もしくは復数の人が発言を目の当たりにしていて、発言を完全否定することはできない場合に、「そうは言ったが〇〇という意味だった」のようなことを言い出す。そうやって実質的に自身の発言をなかったことにしようとする。なかったことにはできなくても、大抵の場合「誤解を招いた」は、歪曲や矮小化のための詭弁であることは否定できない。

 自民党/公明党は3/15に、年金生活者らにコロナ対策の給付金として5000円を支給するよう要請した。

今年の7月には参院選が予定されていて、更に、直近に自民党の政治家/支部などが日当5000円で応援演説に人員を動員していた事案があったことなどから、この件に対して、公金を使った高齢有権者の買収、露骨なバラマキ要請、などの指摘が相次ぎ、党内からも批判が出るような状況になった。

首相演説に日当5千円で“動員” 議員告発

参院選前のバラマキか 年金生活者に5000円給付案 野党や市民からも批判の声|TBS NEWS

 このようなことを受けて、自民党政調会長の高市は、昨日3/29に「年金受給者の年金額が大きく減ることはないように補塡しようと考えていたが、反対の声も多い。(財源に想定していた)今年度の予備費は事務的に間に合わなくなったので、もう、この話はなくなった」と、撤回の意向を示した。

自民・高市政調会長 年金生活者への5000円給付「なくなった」 ゼロベースで議論へ|TBS NEWS

 高市は「年金受給者の年金額が大きく減ることはないように補塡しようと考えていた」と言っているが、2022年4月から年金支給額を減額することを決めたのは政府と与党自民党/公明党だ。年金支給額を自ら減らしておいて、支給額が大幅に減らないようにという理由で、それをたった1度の5000円支給で補う? しかも支給は参院選の前? このようなことを詭弁と指摘しないメディアに存在価値は果たしてあるのか。
 少なくとも、減額を決めたのは自公であり、1度の5000円支給では焼け石に水にしかならない、くらいの注釈は必要で、それがなければ公平公正な報道とは言いがたい。それをやらないなら、政治家の詭弁使い放題、嘘つき放題を許すことになる。少なくとも結果的に加担することにはなる。

 高市は「もうこの話はなくなった」と言っているが、必要だと判断したから政府に給付を要請したはずなのに、こんなにもすぐに撤回するということは、実際は大して必要だとは考えていなかった、ということなんだろう。想定していた財源の2021年度予備費使用に間に合わないからもうやらないということは、予備費が余ってるから選挙前だしばらまこう、使わないのはもったいない、と思っていた、ということではないのか。必要性のある政策なら予備費使用に間に合わなくてもやらなくてはならないはずだ。その為に予算を組むのが妥当なはずだ。
 また、「もうこの話はなくなった」といくら言おうが、自民党/公明党が、公金を使った高齢有権者の買収の画策した、露骨なバラマキを政府に要請し、岸田政府も即座に否定しなかったことはなかったことにはならない。「もうこの話はなくなった」という字面に騙されてはいけない。



 トップ画像には、嘘つき 嘘 Ns - Pixabayの無料ベクター素材 を使用した。

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