客寄せパンダ という表現がある。辞書には 人寄せパンダ で掲載されているようだが、客寄せパンダも人寄せパンダと同義として紹介されている。そこでは、人々を寄せ集めたり、注目を引いたりするために利用する、人気のある人や物、とニュートラルな表現として解説されているだけだが、日常的には、ネガティブなニュアンスで用いられることが多いのではないか。
客寄せパンダ
の語源は、1972年の日中国交正常化の際にそれを記念して上野動物園にパンダがやってきたことによる。パンダは人気を博し、多くの人が一目見ようと上野動物園を訪れたそうだ。そこから、人々を寄せ集めたり、注目を引いたりするために利用する、人気のある人や物、という意味で客寄せパンダという表現が生まれたらしく、原義にはあまりネガティブなニュアンスはなかったようだが、現在ではネガティブなニュアンスで用いられがちだ。
人気タレントや有名人も客寄せパンダの一種である。たとえば、お笑い芸人が寄席や演芸場で芸を披露することは、客寄せパンダとは言わないが、ショッピングモールが客を集める目的でお笑い芸人を読んでイベントを開けば、お笑い芸人は客寄せパンダと言われる。ショッピングモールは本来買い物する人が来るところだが、人気のある芸人を呼んでイベントを開き、それを見に来たついでに買い物をしてもらう、のような、魅力的な商品や価格など、商店の本質とは別に話題性によって集客しようとしている、のような場合に、客寄せパンダ
という表現が用いられる。勿論、それが常にネガティブな意味を伴うわけではないが、本質とは異なる、という部分には、少なからずネガティブなニュアンスが含まれている。
企業が新商品発表会などを行う際にも、人気のあるタレントなどが呼ばれることがある。人気タレント目当てで多くのメディアが集まり、メディア上の露出が増えることを狙う手法だ。たとえば美容系商品に人気のファッションモデルを招くなど、本質的につながりのある人選の場合もあるが、新商品とは関わりが薄い人気の芸人が呼ばれることも多い。その場合も客寄せパンダと捉えることができる。テレビの情報番組などを見ていると、そのような発表会で、発表会とは全く関係ないことを記者がタレントに質問している様子ばかりが放送されることがよくある。企業は、本当は商品にがっつり触れて欲しいんだろうが、そうやって取り上げられることで、少しでも商品名や企業名などがメディアに露出すれば、とりあえずはそれでいいんだろう。これはまさに客寄せパンダの典型的な例だ。
動物園のパンダは当然動物であるので、パンダが集客の目玉となり動物園の集客が増えるのは、そのような現在の客寄せパンダのニュアンスとはやや異なるものだが、実際は単なる熊の一種なのに、白黒のその珍しい見た目が人を引き寄せるという意味での、マスコット的な存在としての集客のエサ、のような意味では、現在の客寄せパンダのニュアンスに通じるところもある。
タレント政治家/タレント候補もしばしば客寄せパンダと言われる存在だ。中には、確たる信念を持って立候補するタレント候補もいるにはいるが、タレント候補/タレント政治家の多くは、その知名度による集票を見込まれて、大した政治的な新年もビジョンもないのに政党に担ぎ出さて広告塔にされているだけにしか見えない。
タレント候補は比例代表候補になることが多いこともそう見える理由だ。比例代表の候補であれば、実質的にはそのタレント候補の知名度で集まった票で他の候補も当選させることができるからだ。更に、いざ当選して政治家になると、素っ頓狂な発言をするタレント政治家の多さも、彼らが客寄せパンダと言われる理由だろう。たとえば、90年代に活躍した超人気アイドルグループ・SPEEDのメンバーで、2016年の参院選で自民党から立候補し国会議員となった今井
絵理子はその典型的な例で、彼女は、2017年東京都議会議員選挙の際に、「批判なき選挙、批判なき政治」を目指して、とツイートするほどの低レベルさだった。
その後も大したことは何もしておらず、政治家として成長しているかと言えば、全くそんな風には見えない。だから、元アイドルとしての知名度と、女性という点に注目して、自民党が集票目的/マスコット的な存在として担ぎ出しただけのお飾り政治家にしか見えない。
山本太郎衆院議員が議員辞職の意向を表明 れいわ新選組代表:東京新聞 TOKYO Web
れいわ新選組代表の山本 太郎が昨日・4/15に衆院議員辞職願した。そして今夏の参院選に出馬する意向を表明した。山本は会見で記者からの「党利党略ではないか」という問に対して、
党利党略というのは、自分たちの勢力を拡大して自分たちがいい思いしたりとか、思うようにこの世の中動かしてやろうぜ、というところが前提にある言葉だと思う。でも私たちは、そういう前提のために政治はやってない
党利党略って言われると、なかなか難しい。その言葉をなかなか素直に受け止められない。でも私たちの勢力を拡大する理由はある、必要がある
などと答えている。
個人的には、このような選挙制度の隙を突くようなやり方には全く賛成できない。山本の前職は芸能人であり、彼もまた広義のタレント政治家の一人だ。ただ、今井 絵理子のようなお飾りかと言えば、そう言い切ることは出来ないようなことをやってきたのも事実であり、所謂タレント政治家とは一線を画す、言い換えるとタレント政治家だった、と言ってもいいかもしれない。しかしながら、このような選挙制度の隙を突くようなやり方をすれば、結局元芸能人としての知名度に頼った選挙をやっている、と見なされかねないし、衆院議員を辞職して参院議員選に立候補することも、誠実な政治活動とは思えない。
このような山本の行動を支持する人も少なくないようだが、このようなことを称賛してしまえば、自民党などが、知名度だけに注目したお飾りタレント候補を擁立しても、それを批判できなくなる。敵対する勢力がやっているのだからこちらも同じようなことをやらないとフェアにならない、綺麗事だけでは物事は進まない、のようなことを言う人もいそうだが、たとえば、サッカーの試合で相手チームが平気で手を使い、審判もそれを見逃しているとして、だからこちらも手を使おう、というのは正しい選択だろうか。自分にはまったくそうとは思えない。
このような選挙制度の隙を突く、決して誠実とは言えない政治活動が、現野党側でも行われてしまうと、それもやはり「政治なんて誰がやっても変わらない」という馬鹿げた言説を補強することになってしまうのではないか。
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