中学/高校と部活動に明け暮れていたので、高校時代はアルバイトをしたこともなかったし、それほど裕福な家庭でもなかったので、親がバイク免許取得費用を出してくれるなんてこともなかった。初めてアルバイトをしたのも高校卒業後だったし、原付免許を取得して原付スクーターを買ったのも、その給料でだった。
こうして自分は、18歳にして初めて、賃労と免許所有者としての交通社会参加を経験したわけだが、その頃に感じた違和感は、今も解消されることなくずっと眼前に横たわっている。その時から自分がずっと感じている違和感とは、
道交法違反はあんなにも厳しく取り締まるのに、なぜ労基法違反はほとんど取り締まられないのか
ということである。
以前にも書いたことがあるかもしれないが、原動機付自転車、50ccのバイクやスクーターの法定速度は30km/h以下ということになっていて、速度制限が60km/hの幹線道路でも、原付は30km/h以上で走ると速度超過で取り締まられる。更には、片側3車線の道路を走っている時に右折する場合、2段階右折しなければならない、という決まりが原付にはあって、自分の生活圏で言うと、神奈川県ではほとんど取り締まりは行われていないが、東京都ではかなり頻繁に2段階右折違反で取り締まられている原付を目にする。
60km/h制限の幹線道路と言っても、実質的な流れはそれを上回ることもしばしばで、その中を30km/hで走れというのは、はっきり言って原付は幹線道路を走るなと行っているにも等しい程度に現実的でない。また、2段階右折に関しても、2車線道路だと思って走っていたら交差点の手前で急に右折レーンが出てきて3車線になることもあり、それに気づいて道路の右側から急に一番左側へ走路変更するのは、そちらのほうが危険極まりないのだが、それでやむを得ず2段階右折をしなかったとしても、そこを警察が見ていたら当然取り締まられてしまうのだ。
こんなふうに、道交法違反に関してはかなり厳しい取り締まりが行われている。しかも、特に原付に関しては、道路交通事情の実際がどうかなんて勘案もせずに、ルールだから、そういう法律だから、のような感覚で有無を言わさない取り締まりが行わている。
一方で労働基準法に関してはどうか。労働法については、中学や高校の社会科/公民分野の授業の中で、その存在やさわりだけをサクッと教えられるが、多分高校の時に、クラスの中にアルバイトをしたことのあるやつが、労働者の権利の授業の際に、アルバイトでも有給休暇はとれるのか?
と先生に聞いたからだったと思うが、アルバイトを自分がする以前に、日本の労働法においては正社員やパートやアルバイトという雇用形態による労働者の権利の差はなく、パートやアルバイトでも半年以上の勤続で10日/年の有給休暇を取得する権利がある、ことを知っていた。勤続が長くなれば当然取得できる有給休暇の日数は増える。
しかし自分の知る限り、少なくともアルバイト労働者について、有給休暇を取らせてくれる労働環境というのは聞いたことがないし、雇用者も非雇用者も含めほとんどの人が、アルバイトは有給休暇など取れなくて当然、と思っている。それは自分が初めてアルバイトをした1990年代も今も変わっていない。それだけで間違いなく労基法の違反だが、関係各所がアルバイトに有給休暇を認めない労基法違反を厳密に取り締まっているなんて話は一切聞いたことがない。
アルバイトに関する労基法違反は、有給休暇を取得させないことに限らず、夜間/深夜/休日などの割り増し賃金を支払っていない場合や、労基法で定められた休憩時間を与えていない場合、労働時間の制限を守っていない場合、最悪な場合はサービス残業をさせたり、始業時間前に実質的な拘束時間があるのに、その時間に対する時間給を払っていなかったり、1時間未満の時間給を切り捨てて支払っていなかったりと、労基法違反のない労働環境のほうが珍しいのではないか?というくらいだ。
でも、労基法違反については、道交法違反のような積極的な取り締まりは行われていない。労働者が労働基準監督署に駆け込めば、是正が促されたり、それでも雇用主が改善しない場合に取り締まりが行われたりもするが、道交法違反の取り締まりに比べたら、生ぬるいなんてレベルではなく、取り締まりをほとんどやっていないと言っても過言ではない。
道路交通法違反は周囲を危険な状態にするし、人の命にかかわるのだから、とりわけ厳しい取り締まりが行わている、と考える人もいるだろうが、でも、その話で言えば、60km/h制限の道路を原付が30km/h以上で走ることを厳しく取り締まることや、2段階右折違反を厳しく取り締まることは説明できない。原付が30km/h以上で走っても、他のバイクやクルマも30km/h以上で走っているのだから、周囲に与える危険度はそう大きくは変わらない。2段階右折も、他のバイクやクルマは2段階右折をしていないのだから同じだ。
それらは建前上、原付運転者自身を保護する為の規制であって、その理由で道交法違反が厳しく取り締まられるべきならば、労基法だって労働者の保護を念頭に厳しく取り締まりが行われるべきではないのか。しかし現実は全くそうなっていない。はっきり言って労基法違反はやりたい放題と言っても過言ではない。
そのように労働者の権利に疎い、いやむしろ企業だけなく行政も労働者の権利を軽視する日本では、外国人技能実習生が産休を取得したなんて話に、ニュースとして報じる価値がある。東京新聞/共同通信によれば、
外国人実習生が産休取得し出産 子どもは帰国迫られる恐れ:東京新聞 TOKYO Web
実習生には日本の労働者と同様に産休、育休制度が適用されるが、労組によると、実際に産休を取得したケースは珍しい
のだそうだ。つまり、これまで外国人技能実習生は実質的に労働者であるのに、産休という労働者の当然の権利が認められてこず、国や自治体などの行政期間も、それを黙認・放置し続けてきた、ということだ。技能実習生が産休を取得することが珍しくないのであれば、この話にニュースとして報じるだけの価値は生まれない。
更に異様なのは、この記事は、
女性は産休明けに実習の再開と育休取得を希望しており、同社も認める方針。ただ、実習生は原則家族の帯同が認められておらず、子どもは短期間で帰国を迫られる可能性がある
と更に続くことだ。実習生の家族帯同は認められていないから、子どもは母親から引き離されてスリランカに強制送還されるかもしれない? どこの誰にそんなことをする権利があるんだろうか。もしそんなことが実際に起きれば、日本は人権無視の国と呼ばれても仕方がない。だってそうだろう。日本で働いている外国人女性が出産したら、働き続けたいなら子どもだけ国へ返せ、さもなくばお前も一緒に帰国しろ、と迫られるんだから。
外国人技能実習生という制度が現代の奴隷制と揶揄される所以はこういうところにもある。日本も他の民主制国家同様に、憲法で基本的人権の尊重や万人の法の下の平等を定めているのに、外国人技能実習生という制度は労働者の権利に適切な配慮をしていない制度なのだから。
人権軽視を国ぐるみでやる国の一体どこが先進国なのだろうか。その意味においても日本は間違いなく先進国とは呼べない。ちなみに、日本の技能実習生制度は人身売買にあたると、アメリカ国務省の人身売買報告書で昨年も指摘されている。
- 2021 Trafficking in Persons Report - United States Department of State
- 2021年人身取引報告書(日本に関する部分) - 在日米国大使館と領事館
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