新型ウイルスの感染拡大が始まった頃、レギュラーガソリン1Lの価格はおよそ120円台だった。2020年5月には110円台でレギュラー1Lが買えたが、それを底に価格は上昇を続け、先月・2022年3月は170円台が一般的、中には180円台も、地域によっては200円に届きそうな勢いのところもあった。
最近のガソリン価格高騰は、新型ウイルスの感染拡大による物流の混乱によって価格が高騰していたところに、ロシアがウクライナへ侵攻したことによって世界情勢が不安定化したこと、欧州を中心として世界的にロシアからの石油禁輸が広がっていることなどが、その主な原因だろう。
ガソリン価格推移グラフ 最近3年間のレギュラー価格 - e燃費
ただ、このようなガソリン価格高騰がこれまでにはなかったのか、と言えばそんなこともなく、これまでにも何度かこの水準の価格高騰があった。
次のグラフを見れば分かるように、2014年頃にも170円前後の時期があったし、リーマンショック期にも180円超え、そしておよそ40年前の第2次オイルショックの頃にも170円台になったことがある。
ガソリン価格推移(1966年~2021年)と世界情勢の動向 | 車査定攻略ネット
日本では1997年以降、賃金が上昇しておらず寧ろ縮小傾向ではあるが、概ね横ばいであることを考えると、現在のガソリン価格と1997年以降の価格は同じ感覚で捉えても問題がないだろう。だが、第2次オイルショックの頃・1982年は、1ドルおよそ210-270円、大卒初任給が13万程度、現在の価値に換算しても15万円程度だったので、当時の170円台という数字は、現在の感覚に当てはめるにはおよそ20-30%増しで考える必要がある。つまり現在の感覚で言うと当時のガソリン価格は、およそ205-220円程度ということになり、日本におけるガソリン価格が市民にとって今までで最も高かったのは1982年頃、ということになるだろう。
しかしそれでも、この数ヶ月のガソリン価格の水準は、1982年に次ぐ水準、リーマンショック期と同じ水準で高騰していることには違いない。
日本政府は、この価格高騰の対策として、石油元売り会社に支給する補助金額引き上げを始めた。これによってガソリン価格は2週連続で値下がりしてたと報じられているが、それでもガソリン価格はいまだ170円台であり、政府は168円を維持目標に設定しており、焼け石に水で全く意味がないとまでは言わないが、ガソリン価格高騰が緩和されたとは間違っても言えない。
このガソリン価格高騰は、当然日本だけのことではなく世界的な傾向であり、これまで主にロシアからの輸入に頼ってきた欧州でも、同じようにガソリン価格は高騰している。たとえばドイツでは、1年前・2021年4月に1Lあたり1.83ドルだったガソリン価格が、先月・2022年3月には2.35ドルになっている。
ドイツ - ガソリン価格 | 1995-2022 データ | 2023-2024 予測
新型ウイルス感染拡大直後の底値がおよそ1.25ドル程度で、当時の日本のガソリン価格とほぼ同水準であったことから考えると、新型ウイルス感染拡大とロシアのウクライナ侵攻による影響によって、ドイツでは日本以上にガソリン価格が高騰している、とも言えそうだ。日本とドイツとでは賃金も物価も違うので、その価格だけを単純に比較することは適切ではなく、ドイツにおけるガソリン価格は日本と比べるとその数字以上に高騰している、とも言えるだろう。
そのドイツについて、昨日こんなツイートがタイムラインに流れてきた。
このツイートをしているのは、元NHKワシントン特派員で、1990年頃からフリージャーナリストとしてドイツで活動している、ミュンヘン在住の熊谷 徹だ。
このツイート内容について自分は裏取りをしていないのだが、今のドイツ政府なら市民の負担を少しでもカバーしようと、このような対策に乗り出すこともありえるだろう。
このツイートを目の当たりにして次のように思った。今の日本だと、燃料代高騰を理由に交通機関が値上げするんだろうな、と。そして政府は「民間企業のことについてコメントは控える」とか言うのだろう、と。それがたとえインフラでも。
日本ではこの数日のうちに、東急、東京メトロ、JR東日本の首都圏鉄道3社が、相次いで来春からの大幅運賃値上げを発表した。
変わる運賃番付:東京新聞 TOKYO Web
今のところ、官房長官記者会見などでこれについての質問がなされた、のようなことは確認していないが、もし今後そのようなことがあっても、今の官房長官 松野は、何を聞いてもことごとく「コメントは控える」としか言わないような男なので、政府は「民間企業のことについてコメントは控える」とか言うのだろう、と推測したのだ。
与党が敵基地攻撃能力保有検討を政府に提案することを決定したことについて聞かれても、つまり、自民党が敵基地攻撃能力保有検討を政府に提案することを決定したが、提案に対して政府はどう対応するのかと聞かれても、党の議論についてコメントは控える、と言うような男が官房長官なので、交通機関の値上げについては国土交通省の認可が必要でも、松野なら「民間企業のことについてコメントは控える」と言いかねない。
新型ウイルスの感染拡大への対策に消極的だったことの理由として、経済優先と声高に言い続けていたのが自民政府であるが、そんなのは単なるこじつけに過ぎない、というのが、ガソリン価格高騰への対応だけを見てもよく分かる。新型ウイルス感染拡大以降も経済対策優先と言い続けてきたのだから、ガソリン価格高騰にはもっと積極的対応をしていなければ辻褄が合わない。
この件だけでも少なくとも2つの意味で、そしてそれ以外も含めたら色々と、日本は本当に残念な国になってしまった。
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