1980年代頃は喫茶店の前には必ずメニューサンプルがあって、フォークで巻き上げたナポリタンはその大定番だった。今も高速のサービスエリアやデパートのレストランフロアなんかのテナントにはメニューサンプルがあるが、飲食店全般的に見たらサンプルを置く店は少なくなったんじゃないだろうか。
サンプルは少なくなったかもしれないが、それでも日本の飲食店は海外に比べてメニューに写真を載せる率が高いように思う。日本以外でもメニューに写真を載せている店はあるけれど、ほぼマクドナルドのような多店舗展開の飲食店だけで、個人が経営するような小規模店の場合は大抵文字だけのメニューだ。初めて行く地域だと、メニューが文字だけだとどんなものが出てくるのか把握し難くて、写真付きメニューは本当にありがたい。
しかし、日本か海外かに限らず、メニューに写真があることでがっかりすることも結構ある。メニューサンプルも同様だ。メニュー写真やサンプルを見て、それを期待して注文したら、それとはかけ離れたものが出てきた時はかなり残念な気分になる。ナポリタンのようにがっかり率の低いメニューもあるが、ナポリタン同様に日本の食堂の大定番メニューであるカレーやラーメンも油断できない。カレーは写真やサンプルだと具がゴロゴロと入っているのに、実際は野菜はほとんど溶け込んでいて、肉も小さくて筋張ったのが申し訳なさそうに混じっているなんてことがあるし、ラーメンも特にチャーシューが写真やサンプルとかけ離れているなんてことがよくある。
「ワッパーが広告より35%小さい」としてバーガーキングが訴えられる - GIGAZINE
これは、日本でも(参入したり撤退したりをしてはいるが)展開している、アメリカのハンバーガーチェーン店のバーガーキングが、看板メニューであるワッパーの実物は広告よりも35%小さい、として訴えられた、という記事だ。
原告らは「バーガーキングは自社のハンバーガーを、競合他社と比較して大きなハンバーガーとして宣伝し、特大のミートパティとバンズからはみ出る具材により、サイズを実物より約35%大きく、倍以上の肉を含んでいるように見せている」として、誇大広告だと訴えているそうで、バーガーキング側は問い合わせに対して、「係争中もしくは潜在的な訴訟についてはコメントしません」と回答しているらしい。
この種のサンプル写真が実際と違うという話は、チェーン店としての知名度の高いマクドナルドのほうが有名で、そもそもマクドナルド自身が、「どうして商品写真とお店で出てくるハンバーガーはあんなにも見た目が違うの?」という客からの質問を受けて、実際にマクドナルドが商品写真をどのように撮影しているのかを詳細にレポートするというムービーを公開している。
Behind the scenes at a mcdonalds's photo shoot - YouTube
これを見れば、どれだけ広告写真/サンプル写真には演出が加えられているかがよく分かる。マクドナルドは多分、サンプル写真には演出を加えてはいるが、増量したり実際の食材とは違うものを使ったりはしていないよ、と言いたいんだろう。
トップ画像に使ったのは、米BuzzFeedが記事にした、マクドナルドの広告写真と実物の比較動画から切り出したスクリーンショットだ。
McDonald's Ads vs The Real Thing - YouTube
どのメニューも広告写真/サンプル写真とはあまりにもかけ離れている。日本のマクドナルドも、今は以前に比べたらいくらかマシだが、一時期どの店に行っても雑に調理/盛り付けされたものが出てくる時期があった。今はマシと書いたが、それでもサンプル写真通りの商品が出てくるとは言い難い。
広告写真/サンプル写真とはかけ離れた商品と言えば、2011年の正月に大きな話題となった、グルーポン/バードカフェのおせち料理の件を思い出さずにはいられない。
グルーポンで買ったおせち料理が「見本と違う」と話題に! 腐っているという報告も多数 | ガジェット通信 GetNews
この件は、誤ってひどいものが届いたわけではなく、同じものが複数の人に届いていたことから、詐欺ではないか、という話に発展して大きく注目された。
バードカフェの件くらい酷いと、誰もが詐欺とか騙されたと思うのだろうが、バーガーキングやマクドナルドのレベルだったり、食品サンプルや写真と比べて明らかに質が低くても、まぁ食べられなくはない、というレベルなら、価格も高額ではないし、多くの人は「そんなのは普通、目くじら立てるようなことではない」と思う程度かもしれない。
確かに、サンプルや写真のポテトフライの本数を数えて、出てきた商品は1本足りないなんてレベルのクレームをつけたり、ステーキの大きさが数mm小さいとか、そんなレベルでクレームをつけるのは馬鹿げていると言えるだろう。また、いつもはほぼサンプルや写真通りの商品が提供されているが、たまたま少し雑な盛り付けになってしまった、なんてことも現実的にはあり得ることだと思う。
しかし、マクドナルドは、そして多分バーガーキングも、絶対にサンプル写真通りの商品なんて出てこないんだから、それは誇大広告だと言われても仕方がない。また、仕入れ価格の高騰で使う具材が減ったとか、充分な技量の作り手が確保できないなどの理由で、サンプルや写真通りの商品を恒常的に提供できなくなったのに、以前と変わらぬサンプルや写真で注文を取るのは、詐欺的だと指摘されても仕方がないだろう。罪に当たるかどうかは別としても不誠実、であることは間違いない。
サンプルや写真通りの商品が出てこないのは当たり前、というのはある意味でその通りだと思うが、ものには限度があるし、たとえそこに「写真はイメージです」なんて端書きがあっても、それでも結局不誠実には違いない。そんなのは当たり前だと不誠実を容認せずに、不誠実には不誠実だとハッキリと言い、誠実な商売を求めることが健全な社会を維持するのには必要なのではないか。
この話も結局、一昨日・4/5の投稿で書いたのと同じようなことで、このような誇大広告を、そんなもんだと容認すれば、それは不誠実な政治についても「政治なんて誰がやっても同じ」とか「政治なんてそんなもの」と容認できることになってしまわないだろうか。やはり、不誠実には毅然と不誠実と言うべきで、言わなければ社会はどんどん不健全になって行くんだろう。