スキップしてメイン コンテンツに移動
 

Trance-gender ではなく Transgender

 この週末、今では社会的にも広く認知されるようになった、毎年恒例の東京レインボープライドが行われていた。毎年恒例と書いたが、新型ウイルス感染拡大が始まってからはオンラインでイベントを行っていたので、従来どおりの人が集う形式での開催は3年ぶりだった。

 これに合わせて、Web配信メディア・DOMMUNE でも、金曜/土曜と2夜連続で関連企画の配信を行っていた。

PARCO PRIDE WEEK Presents Campy!bar × DOMMUNE SPECIAL DAY!! 「SUPER RAINBOW PROGRAM」 - DOMMUNE

WAIFU -DIAMONDS PRIDE SPECIAL @ SUPER DOMMUNE - DOMMUNE



 金曜の配信では、ドラァグクイーンがテーマの1つとして取り上げられていて、ドラァグとは何なのか、その由来のについての言及があった。

 日本語では概ねドラァグクイーンと表記するが、英語の綴りは Drag Queenであり、 Drag とは、PCのマウス操作におけるドラッグや、1/4マイルの直線を駆け抜ける速さを競う自動車/バイクのレース・ドラッグレース のドラッグと同じである。

 Drag は、引きずるという意味だそうで、マウス操作は、アイコンなどをマウスでクリックして(つまんで)所定の場所まで引きずっていくようなニュアンス、ドラッグレースは、前方からなにかに引きずられているように見えるほど速いのようなニュアンス、なのだそうだ。ではドラァグクイーンは何を引きずっているのかと言うと、男性が女装する際には無骨な脚を隠そうとしてロングスカートを選ぶことが多く、脚を隠そうとしてスカートの裾を引きずっている様子、がその語源なのだそうだ。

 なぜ、マウスやレースがドラッグなのに対して、日本語ではドラッグクイーンではなくドラァグクイーンなのかというと、ドラァグクイーンはクラブカルチャーと密接な関わりがあることなどから、また、従来は同性愛者や女装趣味は性的倒錯という偏見も強く、薬物を意味する Drug/ドラッグと混同され、薬物常用者のようなイメージがつくのを避ける為に、ドラッグではなくドラァグクイーンと表記するようになったらしい。


 その話は以前にも聞いたことがあったが、それを前日に再確認した上で土曜の配信を見ていて、同じような要素がトランスジェンダーという表現にもあることに気がついた。土曜の配信の中で、あるDJがトラディショナルなハウスから徐々にトランス(トランスよりのハウス)へシフトしていくようなDJ MIXを披露していた。そしてその直後のトークパートでトランスジェンダーへの言及があり、トランスには様々な意味合いがあることに気がついた。
 他にどんな意味があるんだろう?なんて思って、トランスを検索してみたら、トランスにはTranceとTransの2つがあることが示されていた。

 恍惚や意識の変性などを意味し、音楽のジャンルやトランス状態のように外来語として日本語でも通用するトランスは Trance で、〇〇を超えて、反対側、変換する、などを意味するトランスは、翻訳の Translation や、大陸横断の Transcontinental、自動車などの変速機を意味する Transmission のように Trans だった。これまでこの2つの綴りの違いをハッキリと意識したことはなく、どちらも単にトランスとしか認識していなかった。つまり2つを混同していたとも言えるだろう。

 この Trance と Trans の違いは、Drag と Drug の違いとよく似ている。Drug は決して違法な薬物だけを指すわけではないが、違法な薬物を連想させる要素を確実に持っているのと同様に、Trance も、決してネガティブなイメージしかないわけではないが、クラブミュージックの1ジャンルとしてトランスがあったり、恍惚とした状態、ある種の催眠状態、酩酊状態のようなイメージがあることから、違法な薬物による酩酊や、倒錯した状態のようなものをイメージさせる要素があることも否定できない。

 トランスジェンダーは Trance-gender ではなく Transgender なのだが、少なくない日本人は、昨日までの自分と同様に、恐らく2つのトランスを明確に意識していないだろうし、トランスジェンダーは Trance-gender ではなく Transgender であることも殆ど意識していないだろう。そこから、トランスジェンダーという表現は、性的倒錯者のようなイメージを醸してしまう側面があるのではないか、と推測した。


 勿論、それだけが日本における同性愛に対する無理解・蔑視や差別、そして大多数がそれに無関心な傍観者であることの原因ではなく、他にもっと大きな要因はあるんだろうが、トランスジェンダーは Trance-gender ではなく Transgender だと強調することは、そんな現状を打破する為の方法の1つなんだろう、と思えた。
 トランスジェンダーとは、LGBTのTであり、性的少数派全般を指す言葉ではなく、性自認に関する概念だが、未だその概念は世間一般に広く認知されているとは言い難く、つまりトランスジェンダー=性的少数派全般、のような混同もあると言えるだろうから、トランスジェンダーは Trance-gender ではなく Transgender である、と強調することは、性的少数派全般の地位向上にもつながるのではないだろうか。



 トップ画像には、ジェンダー ニューハーフ コミュニケーション - Pixabayの無料画像 を使用した。

このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

フランス人権宣言から230年、未だに続く搾取

 これは「 Karikatur Das Verhältnis Arbeiter Unternehmer 」、1896年ドイツの、 資本家が労働者を搾取する様子を描いた風刺画 である。労働者から搾り取った金を貯める容器には、Sammel becken des Kapitalismus / 資本主義の収集用盆 と書かれている。1700年代後半に英国で産業革命が起こり、それ以降労働者は低賃金/長時間労働を強いられることになる。1890年代は8時間労働制を求める動きが欧米で活発だった頃だ。因みに日本で初めて8時間労働制が導入されたのは1919年のことである( 八時間労働制 - Wikipedia )。

同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになる

 攻殻機動隊、特に押井 守監督の映画2本が好きで、これまでにも何度かこのブログでは台詞などを引用したり紹介したりしている( 攻殻機動隊 - 独見と偏談 )。今日触れるのはトップ画像の通り、「 戦闘単位としてどんなに優秀でも同じ規格品で構成されたシステムはどこかに致命的な欠陥を持つことになるわ。組織も人も特殊化の果てにあるものは緩やかな死 」という台詞だ。

「幼稚園児以下だ」は暴言か

障害者雇用、職場でパワハラ「幼稚園児以下」と暴言も TBSニュースが11/6に報じた記事の見出しである。障害者雇用枠で採用された知的障害のある男性が、指導役の女性から暴言を受けたとして、会社と女性に対して賠償を求める訴訟を起こした件で、11/6に和解が成立したという記事の見出しだ。記事には  女性が「幼稚園児以下だ」という表現を暴言と認めた、会社も責任を認め、“今後は知的障害者の特性を理解し、これを踏まえた職場環境を用意すること”を約束した とある。 男性は「私みたいな障害者にも働きやすい環境にしてほしいというのが私の願いです」とコメントしており、恐らくパワハラに相当する行為が実際にあったのだろう。また男性の、  『幼稚園児以下』もそうですし、『バカじゃん』とか、『いつまでたったら仕事を覚えるんだ』とか言われた  とりあえず耐えて、我慢し続けて働いていたので などのコメントも紹介されており、記者は“幼稚園児以下”“バカでもできる”という表現を添えており、それらが暴言に当たるということを示唆しているように見える。