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2022年の憲法記念日に際して

 5/3は憲法記念日だ。1946年11/3に公布された日本国憲法が、1947年5/3に施行されたことにちなんで、1948年から祝日になった。憲法記念日を公布日にするか施行日にするのか、祝日法制定時に議論があり、衆議院では施行日5/3、参議院では公布日11/3とする意見が多かったようだが、衆院案が優先されたようだ。

 ちなみに、11/3は文化の日になっている。11/3は戦前は明治節という明治天皇の誕生日にちなんだ祝日だった。同じ日に新憲法を公布したり、その日を再び祝日にすることには一定の異論もあったようだが、11/3を文化の日とするにあたり、祝日法を審議した参議院文化委員会の委員長を務めた山本 勇造が、

この日は、憲法において、如何なる國もまだやつたことのない戰爭放棄ということを宣言した重大な日でありまして、日本としては、この日は忘れ難い日なので、是非ともこの日は残したい。そうして戰爭放棄をしたということは、全く軍國主義でなくなり、又本当に平和を愛する建前から、あの宣言をしておるのでありますから、この日をそういう意味で、「自由と平和を愛し、文化をすすめる。」、そういう「文化の日」ということに我々は決めたわけなのです

と説明した、と当時の議事録に記録されている。

 近年与党を始めとした一部の人たちが、集団的自衛権の容認だとか、敵基地攻撃能力の保持とか反撃能力だとか称した先制攻撃の正当化だとか、核保有(核保有)の検討だとか、憲法9条を軽視、いや殆ど無視したことをやったり言ったりしていて、憲法記念日もその為に利用しているのだが、憲法記念日が定められた際に一体どれだけの人が、憲法記念日が憲法をないがしろにする人たちに悪用される、なんてことを想定していただろうか


 今、憲法をないがしろにしている張本人たちが憲法改定が必要だと声高に叫んでいる。現首相の岸田も、憲法記念日を目前にして「自衛隊の違憲論争に終止符を打つため、大変重要な課題であると丁寧に説明を続けていきたい」と述べた、と産経新聞が伝えている。

【憲法施行75年】岸田首相、自衛隊「違憲論争に終止符」 - 産経ニュース

 自衛隊違憲論争に終止符を…などと言っているが、一体どこにそんな論争があるのか。全くないとは言わないが、共産党ですら自衛隊の存在は否定していないのに、わざわざ憲法を変える必要なんてどこにあるのだろうか。単に憲法をいじりたいだけか、それを口実に9条を骨抜きにするなど憲法を形骸化させたいのだろう、としか思えない。なぜなら、自民党は憲法を最も軽視している団体だからだ。

 岸田は昨年・2021年の衆院選直後・文化の日直前の11/1に自民党総裁として行った記者会見でも、「党是である改憲に向け、精力的に取り組む」と述べている。

こんなふうに改憲は党是と頻繁に言い始めたのは、前首相の安倍 晋三だ。安倍は何かにつけ「改憲は立党以来の党是」と言っていた。
 憲法記念日のこの投稿を書くにあたり、果たして改憲は自民党結党以来の党是だったのか?という疑問が湧いてきた。少し調べてみたら、1955年の保守合同で自由民主党が結党された際に、立党宣言、綱領、党の性格、党の使命、党の政綱の5文書が作成されたそうで、党の使命では、冷戦下の国際情勢にあって社会主義や共産主義など東側諸国といった反米勢力を批判し、日本国憲法と戦後民主主義を日本の弱体化の一因とし、「正しい民主主義と自由こそが必要であり、わが党は憲法改正で国民の負託に応える」としており、党の政綱でも、独立体制の整備の為に現行憲法の自主的改正、自衛軍備を行う、としている。つまり、改憲は立党以来の党是、と言えなくもないかもしれない。
 しかし、党の政綱には、平和外交の積極的展開 - 自由民主主義諸国との協力、国際連合への加入、原水爆の禁止、ともある。安倍はロシアがウクライナを侵略したことに乗じて、日本も核保有(核共有)を検討すべきだ、と主張していたが、改憲を立党以来の党是と言うなら、平和外交の積極的展開や原水爆の禁止だって同じなのではないか?相変わらず都合のいいことだけを強調し、都合の悪いことは無視する性質である、としか言えない。


 日本国憲法の検討に関わった芦田 均という政治家がいる。憲法9条に関する 芦田修正 で知られ、つまり、9条の条文を決めた男と言っても過言ではない。

芦田は日本国憲法が施行された後、1948年に民主党、日本社会党、国民協同党連立内閣の首相になっている。片山 哲に続く、新憲法施行後2人目の首相だった。だが芦田内閣は、汚職問題で約半年で崩壊した。しかしその後も政治家を続け、1955年には保守合同に参加、自由民主党の所属となった。
 当時の詳しい事情は分からないが、9条の条文を決めたと言っても過言ではない芦田が参加していて、改憲が立党以来の党是だった、というのには矛盾を感じる。勿論当時の自民の中にも安倍みたいなのはいたんだろうが、果たして改憲が結党時から党全体としての意向だったのか?には強い疑問を感じる。党の綱領が法案みたいな主たる部分だとしたら、党の使命や政綱などは、保守合同で誕生した大所帯をまとめる為の、法案に対する附帯決議みたいなものだったのではないのか?というようなことも考えられる。

 自分と同じような疑問を感じた人は過去にもいたようで、検索するとこんな記事があった。

特に後者の記事にある河野 洋平の話は非常に興味深い。1975年頃の話をしていて、当時は石原 慎太郎らが安倍みたいなことを言っていたが、それは決して党全体の意向ではなかった、ということがうかがえる。やはり1955年に示された党の使命、党の政綱にある自主憲法云々は、大所帯をまとめる為のおまけだった感が否めない。
 また、自分が物心ついた1980年代後半以降から2000年代まで、殆ど改憲なんて話は出てこなかった。いやあっただろ!という人もいるかもしれないが、自民党が一丸となって積極的に改憲をずっと訴え続けてきたとは絶対に言えない。なのに改憲は立党以来の党是なんて言われても、全然説得力はない。1980年代や90年代のことをよく知らない若い世代を騙せればそれでいい、のようなノリの印象操作なんだろう、という感しかない。


 昨年の5/3にも書いたが、大手メディア各社は、今年も何について憲法を変えるのか、を前提としない「改憲の必要性を問う世論調査」をやっているようである。そんな調査は果たしてまともな調査と言えるのか。全くそうは思えない。

 有権者も、こんなヌルっとした調査に触れる前に、少なくとも「あたらしい憲法のはなし」くらいは読んでおくべきだろう。「あたらしい憲法のはなし」は、1947年、新憲法が施行された年に文部省が発行した、中学1年生向けの日本国憲法を解説する教科書である。


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