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緩やかな集団自殺

 1991年12月にスーパーファミコンでレミングスというゲームが発売された。ステージのある場所に上から落ちてくるレミングたちは、プレイヤーが何もしないとただただ漫然と行進し、障害物にハマったり穴に落ちて死んだりしてしまうので、プレイヤーがレミングたちを出口まで誘導するパズルゲームだ。

 レミングスはイギリスのシグノシスが開発したゲームで、元々はAmigaというパソコン用だった。1991年2月の発売直後から人気を博したことで、1994年までに様々なパソコンやビデオゲーム機に移植された。スーパーファミコンはビデオゲーム機への移植第1弾だった。1999年にシグノシスをSCE:ソニー・コンピュータエンターテインメント(現SIE)が買収し、2000年代後半には同社のゲーム機用や、携帯電話用アプリなどのアレンジバージョンが複数リリースされた。

 レミングスのスーパーファミコン版が発売された頃、自分は毎号ファミコン通信を買っていた。多分その記事で読んだのだと思うが、レミングスは、北極圏とその周辺に生息するレミングというネズミをモチーフにしたゲームで、レミングは個体数が増え過ぎると崖から川や海へ身を投げ集団自殺する、と紹介されていたように記憶している。
 このレミングの集団自殺は実態とは異なる都市伝説のようなもので、レミングが集団移動する際には川を渡ることもあり、その際命を落とす個体が出ることもあるそうだが、実際は、川や海へ身を投げるような集団自殺はしないそうだ。自分がそのことを知ったのは、多分2000年を過ぎてからだったと思う。

 レミングが集団自殺するという嘘が広まってしまった発端は、1958年のウォルト・ディズニーによるドキュメンタリー映画・White Wilderness(白い荒野)だそうで、その映画にあるレミングが海に飛び込むシーンは、制作者らが追い詰めたり、海に投げ入れるなどして撮影されたものなのだそうだ。


 レミングの集団自殺の話を知った頃は、そんな動物もいるんだ…くらいに思っていた。しかし、実はそれは人の手による捏造で、しかも実際は集団自殺 ”する” のではなく人が ”させていた” のだと聞いて、戦中に「捕虜になるくらいなら自決しろ」と言い含められた兵士たちや、米軍の攻撃を受けた旧日本領土の島や沖縄で市民までが集団自決させられたことを思い出した。
 レミングの集団自殺も、種全体を守るために自ら集団自殺する、みたいなある種の美談のように語られていたし、戦中に自決させられた人たちのことを、一部の人たちが「尊い犠牲」などと言って美化するのも、両者の似ていた部分であり、それもそんな連想をした理由である。


 レミングの集団自殺が嘘だと知った時、やっぱり自ら集団で命を断つ種なんていないよな、と思った。人間は自殺するが、大量に集団自殺するケースは稀だし、集団自殺も個別の自殺も、大抵の場合、直接的には自ら命を経ちはするが、実際には自殺に追い込まれているケースが殆どで、つまり人間の自殺も、捏造されたレミングの集団自殺同様に、誰かが誰かを自殺に追い込んでいる。つまり、自殺とは言うがそのほとんどは間接的な他殺だ。

 しかし、よくよく考えると、集団自殺する民族が目の前にいるような気もする。勿論それは日本人だ。

  • 日本人は、少子高齢化対策をずっとおざなりにして最早取り返しのつかないような状況にまで追い込んでいる自民党を、それでもまだ支持して与党にする。
  • 税と社会保障の一体改革を行う、と言って政権の座に返り咲いたのに、それから10年、社会保障は横ばいどころか後退させ、消費税だけ増税されても、それでもまだ自民党を支持して与党にする。
  • 2011年に原発事故が起きて、その後ずっと原発や関連施設における杜撰な運営や管理が明らかになり続けているのに、原発再稼働推進の自民党を支持し与党にする。
  • 自民党の議員による、大小様々な公選法違反・汚職がどれだけ明らかになっても、それでも自民党を支持し与党にする。
  • この10年の自民党政権下で、GDP算出データまでも改竄するような、幾つもの公的データや公文書の捏造や改竄・その隠蔽が行われ、且つ大臣らの虚偽答弁が横行し、さらには正当な理由なく大臣らが記者や国会における質問に答えなくても、それでも自民党を支持し与党にする。
  • この10年の自民政府による経済政策の結果、日本円の価値が何十年も前の水準までに後退しても、つまり日本円の信用、言い換えれば日本全般の信用が低下しても、それでもまだ自民党を支持し与党にする。
  • 自民政府の経済政策によって、大企業の内部留保は過去最高なのに、労働者の賃金は横ばいか寧ろ下がっているのに、それでもまだ自民党を支持し与党にする。
  • 日本経済がいよいよ後進国以下になりつつある中で、庶民の暮らし改善の為の予算ではなく防衛費の拡大を叫ぶ自民党を、それでも支持し与党にする。

他にもまだまだ、日本人が緩やかに集団自殺をしようとしている、と言える根拠はありそうだが、何にせよ、今の状況でもまだ自民党を支持し与党にすることは、自分には集団自殺を選んでいるようにしか見えない。


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