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ビートルが普及したのは戦後。ナチの手柄ではない

 朝日新聞が掲載した、「ナチスは良いこともした」などという主張がSNSでまことしやかに囁かれているが、それは間違っている、という内容の記事について、とある漫画家が「大衆車としてフォルクスワーゲンを開発・普及させた」とツイートし、多くの人に否定されている。

「ナチスは良いこともした」という逆張り その根底にある二つの欲求:朝日新聞デジタル


 確かに、アドルフ ヒトラーがフェルディナント ポルシェに、フォルクスワーゲン タイプ1・通称ビートルの原型となるKdfワーゲンを開発させたことは間違いない。また、Kdfワーゲンの量産体制を整えようとした、のは事実とすることはできるかもしれないが、実際は購入を希望する市民に積立をさせただけで、殆ど納車されなかった。つまり普及は全くさせていないし、寧ろ詐欺的に購入資金を募っただけだった。戦争によってその積立はなかったことにされてしまうのだから。Kdfワーゲンの生産設備は戦争用の軍用車生産に使われた。そして戦争で壊滅状態になった。戦後、英国軍の将校がその工場を復旧し、それで生産され始めたのがフォルクスワーゲン タイプ1・通称ビートルである。
 また開発についても様々な模倣説がある。何が正しいのかは定かでないが、Kdfワーゲンがなければその後の大衆車の歴史は大きく変わったのかと言えば、決してそうとは言い切れない。つまりKdfワーゲンが開発されなかったとしても、他の似た大衆車がビートルの代わりを担っていたに過ぎない、と見るのが妥当だろう。結果から言えば、ヒトラーやナチは市民を騙して単に軍用車を開発・生産しただけ、と言っても過言でない。


 また当該漫画家は、戦後のロケット技術の基礎になったとして、V2ロケットの開発をナチが行った良いことの例に上げているが、これも結局のところビートルと同じで、V2ロケットがなければその後のロケット技術は発展しなかったのかと言えばそんなことないだろうし、そもそもV2ロケットは兵器であり、殺戮を目的とした兵器開発を、ナチが行った良いことの例に上げるなんてどうかしている
  確かに、現在私達が使っているものにも、軍事技術が民間転用されたものは多く存在する。たとえばGPSもそうだし、インターネットにもその要素はある。しかし、だから軍事開発には良いところもあると言えるかと言えば、自分には全くそう思えない。殺戮の為の兵器開発なんてしないほうがいいに決まってる。詭弁屋は防衛の為の兵器開発だとか言うんだろうが、兵器というのは、そもそも人を殺したり、人の営みを破壊する為のものだ。戦争・軍事利用がないと進歩の度合いに時間がかかるのだとしても、最初から平和利用技術として開発したほうがいい。兵器開発はどう考えても良いことじゃない。

 また、百歩譲ってヒトラーやナチが良いこともしたとして、だからなんだと言うのか。100のうち1つ良いことをしていたとして、なぜ99の悪事に注目せずに1の良いことを強調するのか。たとえば殺人犯だって出会う人全てを殺すわけじゃないし、人生の中で1度や2度は人助けもしているだろう。しかしだから何だと言うのか。100のうち1だけ悪いことをしたのに、その1の悪いことだけが強調されるのは変だが、100のうち99悪いことをしていたなら、1の良いことなど何にもならない。ましてや、1ですらない良いことを10とか20とかに誇張するなんてありえない
  ヒトラーやナチは、多くのユダヤ人や障害者、方針に反対する者を迫害し虐殺した。またヨーロッパの大半を戦争に巻き込むということもやった。もし部分的に何か良いことをしていたとしても、全ては迫害や虐殺・戦争の為の準備だったと見るべきではないのか。ヒトラーやナチがやったのはそういうレベルのことである。


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