スキップしてメイン コンテンツに移動
 

失われたF1ゲームの多様性。

 1980年代に幼少期を過ごし、かろうじてファミコンブームを、つまり第1世代家庭要ゲーム機をリアルタイムで体験した自分は、最近所謂レトロゲーム系Youtube動画をよく見ている。その動機の大半は懐かしさなのだが、自分で古いゲームを揃えてまたプレイしたいとまでは思わず、そのような動画の存在は非常に有り難い。

 あるチャンネルで野球ゲームの特集動画があって、その最後に「昨今は権利使用料が高騰しているのか、野球ゲームの選択肢が少なくなってしまった」のようなことを言っていた。たしかに、ファミコンの頃は各社がこぞってファミスタに対抗する野球ゲームを出していた。ウチにもファミスタ以外に、タイトーの究極ハリキリスタジアムやコナミのがんばれペナントレース、ジャレコの燃えろプロ野球、アスキーのベストプレイプロ野球などがあった。父親が野球好きだったのが多分その理由だろう。
 自分は野球には人並みにしか興味がなく、ファミスタがあればそれで充分だったが、小さい頃からずっとクルマが好きで、レースゲームには人並み以上に興味があった。だから昔から、スーパーマリオやドラクエなどの超メジャータイトル以外ではレースゲームをよくやっていた。ファミコンブーム初頭には、任天堂のF-1レースくらいしかレースゲームはなかったが、1980年代後半になると、日本でF1ブームが起きた影響で、F1を題材にしたゲームも、野球ゲームに次ぐくらいの勢いで多く発売された。自分がファミコンでよくやったのはナムコのファミリーサーキットだった。

 野球ゲームにしろF1ゲームにしろ、PCエンジン/メガドライブ/スーパーファミコンの家庭用ゲーム機第2世代の頃までは、各社から様々なソフトが発売された。セガサターン/プレイステーションの第3世代の頃になると、F1はブームが落ち着いてしまい、リッジレーサーやグランツーリスモなどツーリングカーを題材にしたゲームにトレンドが移行したことなどから、F1のゲームは激減。野球ゲームに関しても、野茂 英雄らのメジャー進出でMLB系ソフトが増えたが、一方でNPB系野球ゲームのファミスタとパワプロへの集約傾向は、その頃既に見え始めていた。

野球ゲーム 進化の軌跡 1978~2017 【名作プレイバック】 - YouTube

 最初のファミスタや燃えプロは、まだ権利意識が低く選手を実名のまま使っていたが、プロ野球ゲームはその後すぐに微妙に名前をもじった仕様に変わっていく。つまりまだその頃は、NPBやチームなどに許可を受けてゲームが作られていなかった。F1のゲームは、当初はチームやドライバーの概念はなく、単にF1ぽいクルマが走るだけだったが、F1ブームの頃になると、野球ゲーム同様に実在のチームや選手を連想させる仕様に変わっていった。つまりこちらもその頃はFIAなどの許可を得たものではなかった。
 この状況はスーパーファミコンの頃に変化の兆しが起きて、権利者の許可を得たゲーム、つまりNPBやF1公認ゲーム・公式ゲームみたいなものが出てきた。ファミスタは1992にスーパーファミコンで最初に発売したスーパーファミスタからNPB公認の実名仕様となり、F1ゲームでは、92年にスーパーファミコンで発売されたビデオシステムのF1グランプリが、日本でF1放送を行うフジテレビの公認を受けた。93年にセガからメガCDで発売されたヘブンリーシンフォニーも、フジテレビとの共同発売という形で、一部を除いてチームやドライバーが実名となった。

Evolution of Formula One Games 1976 to Now - YouTube

 2003年以降、ソニー(2003-2007)、コードマスターズ(2008-2020)、コードマスターズ/EA(2021-)がF1のゲーム化独占契約を結んでいる。名前をもじった連想させる系のゲームは、権利的な理由か売上が見込めないからなのかは定かでないが、今は存在していない為、F1ゲームの選択肢は1つしかない。NPB公認ゲームの独占契約は結ばれていないようだが、それでも今や家庭用ゲーム機では、バンダイナムコのファミスタとコナミのパワプロ(とプロ野球スピリッツ)くらいしか選択肢がないようである。
 ビデオゲームの中心が家庭用ゲーム機からスマートフォンやPCに移行してしまい、家庭用ゲーム機の市場自体が縮小しているということも、野球ゲームやF1ゲームの選択肢が減った理由だろう。何にせよ選択肢が減った結果、いくつものソフトの中から自分にあった作風のゲームを選ぶということができなくなってしまっている。勿論、現在残っているのは過去の競争に打ち勝ってきた良作の進化版であるから、大多数の人はそれで充分なのだろうが、一方でそんな状況だと進化は鈍くなるし、野心的で目の付け所が変わったニッチな作品は出てこない。そんな意味では面白みに欠けるとも言える状況だ。権利意識の高まりには確実に良い面もあるが、一方でそれは文化を停滞させてしまう恐れもある諸刃の剣でもあるだろう。


 このことについて考えていたら、それはスポーツ中継にも同じようなことが言えるのではないか、と思った。
 日本でのF1中継は、1987年から独占契約を結んできたフジテレビのCSチャンネル・フジテレビNEXTだけでなく、2016年からはネット配信サービス DAZNでも見ることが出来るようになった。フジテレビNEXTとDAZNでは実況アナウンサーや解説者が異なり、以前からのF1ファンには馴染み深いフジテレビの中継の方が人気が高いようだ。ただCS放送とネット配信という違いから、録画の出来るできない、家以外でも気軽に見られるかどうかなども違うし、関連番組の違いなどもあって、何を重視するかによってどちらと契約すべきかは違ってくる。しかし、このF1のような例は稀だ。甲子園など民放とNHKで中継が行われることもあるが、他のスポーツでは中継・放送・配信は1つの放送局/配信サービスが独占して行うのが普通である。つまり視聴者が実況や解説を好みで選ぶということは大抵できない
 自分はバイクレースが好きなので、MotoGPやWorldSBKのレース中継をよく見る。しかしMotoGPを中継する日テレのアナウンサーも、WorldSBKを中継するJSportsが起用するアナウンサーも、お世辞にもバイクレース実況が上手いとは言い難い。言い間違いが多いどころか、言い間違いが訂正されないことも少なくないし、変な言い回しが口癖になっている者も結構いる。そんな拙い実況でスポーツを見ていると、そちらの方が気になってしまいモヤモヤしたりイライラさせられたりして、スポーツを見ることの集中をそがれることもある。あまりにもひどい場合は副音声の英語中継に変えたり、音を絞ったりしてしまったりする。ただ、歓声やエンジン音などの環境音までなくなるのは寂しいので、音を絞るのは最終手段だ。

 複数の放送局・配信元が中継をやれば、好みの実況で中継を見られるだろうから、モヤモヤイライラしなくて済みそうだ。下手なアナウンサーは淘汰されるだろうから、実況の質も上がるのではないだろうか。今の技術なら、実況解説全OFFの環境音だけの放送に、実況中継を別トラックで載せて放送配信することは難しくなさそうだし、環境音だけの放送配信をやれば、YoutubeLiveなどを使った野良実況と合わせて見る、なんて楽しみ方も広がるのではないか。それで広がる文化もあるだろう。


 たとえばバイクメーカーには、業界の名手で王道のホンダ、ホンダとしのぎを削る優等生的なヤマハ、そして我が道を行く男ぽさ全開のカワサキ、ホンダやヤマハがやらないことをやって、たまに大ヒットを放つが、変化球が過ぎて変態とも言わがちなスズキがある。ホンダとヤマハは野球ゲームで言えばパワプロとファミスタ、カワサキはかつてプロ野球チームを作ろうやグレイテストナイン等をつくったセガ、スズキは、燃えプロとか魔球など現実離れした超人ウルトラベースボール、子ガメカセットの採用でデータ更新ができた なんてったって!!ベースボール とか、そういう変わり種の野球ゲーム達だろう。今は家庭用ゲーム機では2強(+パワプロのリアル版プロ野球スピリッツ)くらいしか選択肢がないが、スマートフォンアプリにはまだまだ多様性がある。
 しかし、F1ゲームは独占契約が結ばれているため、スマートフォンアプリもEAの公式ゲームしか選択肢はない。

 この投稿を書き終えて、結論をまとめるとすれば、権利の厳格化には良い面もあれば悪い面もある。悪い面とは多様性が失われる恐れであり、文化の維持促進発展に関しても、多様性は非常に重要だ、ということだ。


このブログの人気の投稿

話が違うじゃないか

 西麻布に Space Lab Yellow というナイトクラブがあった。 一昨日の投稿 でも触れたように、日本のダンスミュージックシーン、特にテクノやハウス界隈では、間違いなく最も重要なクラブの一つである。自分が初めて遊びに行ったクラブもこのイエローで、多分六本木/西麻布界隈に足を踏み入れたのもそれが初めてだったと思う。

マンガの中より酷い現実

 ヤングマガジンは、世界的にも人気が高く、2000年代以降確立したドリフト文化の形成に大きく寄与した頭文字Dや、湾岸ミッドナイト、シャコタンブギなど、自動車をテーマにしたマンガを多く輩出してきた。2017年からは、頭文字Dの続編とも言うべき作品・MFゴーストを連載している( MFゴースト - Wikipedia )。

読書と朗読を聞くことの違い

 「 本の内容を音声で聞かせてくれる「オーディオブック」は読書の代わりになり得るのか? 」という記事をGigazineが掲載した。Time(アメリカ版)の記事を翻訳・要約した記事で、ペンシルベニア・ブルームスバーグ大学のベス ロゴウスキさんの研究と、バージニア大学のダニエル ウィリンガムさんの研究に関する話である。記事の冒頭でも説明されているようにアメリカでは車移動が多く、運転中に本を読むことは出来ないので、書籍を朗読した音声・オーディオブックを利用する人が多くいる。これがこの話の前提になっているようだ。  記事ではそれらの研究を前提に、いくつかの側面からオーディオブックと読書の違いについて検証しているが、「 仕事や勉強のためではなく「単なる娯楽」としてオーディオブックを利用するのであれば、単に物語を楽しむだけであれば、 」という条件付きながら、「 オーディオブックと読書の間にはわずかな違いしかない 」としている。

あんたは市長になるよ

 うんざりすることがあまりにも多い時、面白い映画は気分転換のよいきっかけになる。先週はあまりにもがっかりさせられることばかりだったので、昨日は事前に食料を買い込んで家に籠って映画に浸ることにした。マンガを全巻一気読みするように バックトゥザフューチャー3作を続けて鑑賞 した。

敵より怖いバカな大将多くして船山を上る

 1912年に氷山に衝突して沈没したタイタニックはとても有名だ。これに因んだ映画だけでもかなり多くの本数が製作されている。ドキュメンタリー番組でもしばしば取り上げられる。中でも有名なのは、やはり1997年に公開された、ジェームズ キャメロン監督・レオナルド ディカプリオ主演の映画だろう。