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電子書籍を知らない教育現場

 少し前に、日本の小学生が使う革製のランドセルが、海外でファッションアイテムのように使われた例が話題になり、ランドセルを買っていく海外からの観光客が増え、空港のショップにもお土産用にランドセルが置かれるようになった。

 ランドセルの形状等は、明らかに近世以前の日本に存在したものとは思えない。その期限は、幕末にオランダより伝わった兵隊用のバックパックだそうで、それを小学生用の通学鞄としたのは、1885年に学習院初等科が採用したのが最初らしい。しかし革製のランドセルは高価で庶民にまでは普及せず、現在小学生が使うランドセルが全国的に普及したのは1950年代になってからで、高度経済成長とともに広まったとのことだ。

 小学校の5年頃、クラスの中でランドセルはダサい・子供っぽいという空気が生まれ、ランドセルで登校しない子が増えた。するとその時の担任は「せっかく安くないランドセルを買ってもらったのだし、ランドセルは小学校のうちしか使えないのだから、卒業するまでランドセルを使ったほうがいい」みたいなことを言った。当時自分は、別に買ってくれと頼んでもいないものを有難がれと言われても…と反発したのを覚えている。しかし、当時の親の年齢になってみると、親世代、というか祖父母世代が、子や孫の成長や小学校入学を祝い、そのシンボルとしてランドセルがある、ということも理解出来るようになった。今思えば、小学生の間くらい使いきってあげるべきだったかもしれない、なんて思ったりもする。


 ランドセルに関する朝日新聞のこんな記事が目についた。

ランドセル、どんどん重く? 大量の教科書とタブレットと水筒と…:朝日新聞デジタル

 教科書が以前よりも分厚くなっているため、ランドセルも以前に比べて大型化していて、ランドセル+持っていくものの重量が肥大化している、という話である。教科書以外にも、熱中症対策の水筒、そしてタブレットと電源アダプタなど、小学生が学校にもっていかなければならないものが増えた、とも書かれている。
 記事では、この対応策に置き勉・教科書を教室のロッカー等においていくことを上げているが、盗難対策なのか、家でも勉強しろということなのか、約半数の学校が教科書を学校においていくことを禁じているそうだ。盗難対策はロッカーを施錠出来るようにすればいいし、小学生が当日のすべての教科・翌日のすべての教科を予習復習するなんてほぼありえないので、必要なもののみ持ち帰ればいいのではないだろうか。長期休暇の前にはすべて持ち帰る必要はあるだろうが、年に6往復だし、計画的に数日かけて持ち帰ればいい。

 置き勉なんて話は、というかそもそもランドセルの重量増なんて話自体が、教科書の電子書籍化が進めば全く問題にもならない。この記事でも、小学生が学校に持っていくものとしてタブレットがあげられているのに、なんでそれと別に教科書を持ち歩く必要があるのか。
 タブレット端末のストレージ容量にもよるが、マンガの単行本1冊の容量はだいたい50-100MB程度で、64GBの端末でも1台で64冊から128冊持ち歩くことが可能だ。マンガ単行本は白黒で1冊200ページ程度だ。朝日新聞の記事によれば20年度の教科書のページ総数は8520ページで、理科や社会化などカラーページでマンガ1ページよりも容量が増える場合もあるだろうし、副読本などが含まれていない場合も考慮すると、教科書の全容量はざっと見積もってマンガ50-80冊分、多めに見積もって80GBぐらいだろうか。そう考えると64GB端末1台だけでは全ての教科書を持ち歩くことはできないかもしれないが、現在SDカードの価格は、上を見たら高いものもあるが、それなりに信頼性のあるブランドの128GBでもおおよそ1500円から3000円程度だ。その倍の256GBでも3000-5000円で買える。
 256GBの容量があれば、こち亀全巻も持ち歩く事ができるし、SDカードを複数用意すればストレージ容量的には、こち亀全巻とワンピース全巻とゴルゴ13全巻も同時に持ち歩くことができる時代に、なぜ分厚い教科書を小学生に持ち歩かせるのか。足腰を鍛えたいなら別の方法でやるべきだし、全くその理由が見えない。文科省や各自治体の教委、学校には、電子書籍を使ったことがある人はいないんだろうか。自民政府がデジタル庁なんてクソみたいな役所を作ったが、設立前の指摘通りクソの役にも立っていない。


 時代錯誤なのは役所だけではなくて、民間でも日本は相変わらず色々と遅れている。昨日は、マクドナルドがロシアから撤退し、設備をそっくりそのまま使った Vkusno i tochka:フクースナ イ トーチカというハンバーガーショップが新たにできた、ということが報じられていたが、それを伝えるAFPの記事の中に、注文用のタッチパネル端末の写真がある。

ロシア版マクドナルド、新店名は「おいしい、以上」 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News

 海外のマクドナルドではもう珍しくもなんともないこの注文用端末は、日本ではいまだにあまり導入が進んでいない。少し調べてみたら、2016年には日本でも試験導入(大森駅北口店1店舗のみ)されていたそうだが、日本では2010年代はほぼ全くと言っていいほど見かけることはなかった。2020年に新型ウイルスの感染拡大が始まり、その対策としてか、2021年、つまり去年くらいから都心の店舗でやっと少し見かけるようになってきた程度で、日本のマクドナルドでは今も対面販売が主流だ。
 大型ディスプレイを備えた自動販売機も既にあるし、松屋や富士そばみたいに昔から食券の自動販売機を使ってきた企業もある。一方で回転寿司点などではタッチパネル端末やタブレット端末による注文がもう当たり前になったりもしているが、決済まで自動化しているケースは多くない。日本でも高額決済が必要な場面はほとんど電子決済が可能になっているものの、一方で電子決済が使えない自販機や商店もまだまだ多く、今も小銭を持ち歩いていないと不便だ。
 災害の多い日本では、電力供給が前提で、通信環境が必要なことも多い電子決済しか使えなくしてしまうのは、危機管理上問題があると思うが、しかし一方で、現金でしか決済できない場面、対面決済が必要な場面が少なくないのには時代遅れな感がある


 大人が子供に、タブレット端末と同時に分厚い教科書を何冊も持ち歩かせるような国なのだから、時代錯誤なのは間違いない。これも少子高齢化の影響なのだろうか。20-40代の有権者よりも50代以上の有権者の方が多く、しかも50代以上のほうが投票率も高いのだから、そうなるのも当然なのかもしれない。


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