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法の下の平等は、一国の憲法以上の世界的な常識

 日本国憲法14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とある。これは法の下の平等に関する項目だ。条文には国民とあるが、世界人権宣言を基にした国際人権規約を、日本も1979年に批准していることからも分かるように、日本は日本国民・日本国籍者以外の基本的人権を保障していない、という意味ではない。

 国際人権規約の批准国は現在170以上にのぼり、つまり法の下の平等は世界的な常識と言える状況であり、それを軽視・無視した言説・主張はその時点で否定されるべきと言っても過言ではないだろう。


 たかまつ ななという芸人がいる。お嬢様キャラが芸風の芸人だったが、大学卒業後NHK局員となりお笑い活動などとも並行してディレクター業もしていたようだが、現在はNHKを辞め、主にお笑いジャーナリストという肩書で活動しているようだ。

 たかまつが6/11のABEMA TV・NewsBAR橋下の中で、“シルバー民主主義”の打破のため、一人一票の原則を変え、平均寿命から投票人の年齢を差し引いた分のポイントを選挙権にするという、例えば平均寿命が100歳だとしたら、28歳なら72ポイント、50歳だから50ポイントのような、余命投票制度なる選挙制度改革案を示したことが、波紋を呼んでいる。

“シルバー民主主義”の打破のためには?たかまつなな「“余命投票制度”で若者に発言権を」橋下氏「教育にお金を使うと言えば反対の声は小さい」 | 国内 | ABEMA TIMES

 日本国憲法15条には「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」そして「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」とある。

普通選挙とは、制限を設けずに選挙権を行使できる選挙形式制限を設けずに選挙権を行使できる選挙形式のことであり、たかまつの主張する余命投票制度は制限選挙制度である。年齢によって制限を設ける制度であるから普通選挙とは言えない。
 たとえば、日本では立候補する際に必要な預託金の額が高額で、実質的な経済状況による制限とも言える為、日本では現状でも真の意味での普通選挙が成立していない、という主張もあるようだが、しかしだからといって普通選挙の意味を更に捻じ曲げてもよい、ということにはならない。だが、憲法15条の規定を変更すれば、たかまつの言う余命投票制度の合法的な成立は可能かもしれない。たかまつはすべての有権者が等しく年齢によって選挙権の制限を受けるのだから平等原則に反しないと主張しているようだが、2021年のおおよその平均寿命である85歳を基準に設定したら、85歳以上は選挙権がなくなることになる。平均寿命を超えたら参政権がなくなるのはどう考えても平等でない。また、平均寿命は変化するものであり、平均寿命を基準にするというのも妥当とは言い難い。
  つまり、たかまつの言う余命投票制度というのは、参政権に関する憲法15条の規定を変更したとしても、世界的な常識である法の下の平等に反する制度になることは避けられない。別の言い方をすれば、平等意識・人権意識に欠ける者が考えた不十分な制度だろう。いや、不十分どころか、平等を壊す危険な制度とすら言える。その理由については後述する。


 現在日本の国会議員の平均年齢は55.5歳で、40代以下の議員は約3割、30代は4.7%、20代はたったの0.2%しかおらず、たかまつの言うように、明らかに年代的に中高年に偏っている。

平均年齢55.5歳、最年長は二階氏 20代当選は1人【21衆院選】:時事ドットコム

 また、少子高齢化の影響で、40代以上に比べて30代以下は人口的にも数が少ない。有権者が少ないのだから、30代以下の政治的意向は40代以上よりも選挙で反映され難いとも言えるだろう。そして少子高齢化が改善する兆しは今のところ見えないので、今後もこの傾向がしばらくの間、現在の40代が平均寿命を迎える頃までは続きそうだ。だから何らかの対策・対応が必要なことは確かだろうが、それでも、参政権という権利・人権を軽視し、普通選挙廃止という平等原則を無視した、たかまつが示した案は筋が悪い

 SNS等を見ている限り、多くの人はたかまつの案についてその種の批判をしている。また、このツイートをのような批判もあった。

 スクリーンショットになっているのは、この動画である。

枝野さんに直接質問!「正直、立憲民主党に入れようと思えないのですが……」 - YouTube


 たかまつは批判を受けて「世代間格差に目を向けると炎上する」などとツイートしている。「だから政治について若者が語りにくいんですよ」ともツイートしている。後者は批判とはいえない暴言に対してそう言っているので理解できるのだが、果たして「世代間格差に目を向けると炎上する」という認識は正確だろうか。炎上する、をたかまつがどんなニュアンスで使っているのかは定かでない。しかし、炎上なんて曖昧な表現をここで自ら用いたことは悪手だ。なぜなら、不当な批判、中傷に晒され攻撃を受けた、というニュアンスを強調している・したいように見えてしまうからだ。
 たかまつに対する不当な批判や中傷など一切ない、と言うつもりは全くない。しかし、たかまつの示した案が、憲法における参政権・権利の規定、そして一国の憲法よりも更に強い世界的な常識である法の下の平等を、軽視・無視した提案だから批判している者も多く、そのような意味で言えば、「世代間格差に目を向けると炎上する」という認識は決して正確ではない。むしろ自身に都合よく状況を歪曲しているようにすら見える。それがどういうことか、端的に言い表していたのがこのツイートだ。

 たかまつは余命投票制度は試案の1つだとして、議論を深めようという着地を試みているようだが、人権軽視・平等原則を無視した案など議論に値しない、と言われているのが分からないのだろう。たかまつの言っている議論とは、憲法という国の大原則に反する敵基地攻撃能力の議論とか、非核三原則に反する各共有について議論とか、そんな話と大差ない。

 たかまつの示した案にはどんな問題性があるのかは、この、たかまつの示した案を更に醜悪にしたツイートから考えるとよく分かる。


 たかまつの示した案と微妙な差はあるものの、高齢者の参政権を制限・軽視してもよい、という点で両者は共通している。もし、この年金受給者は社会で面倒見てやっているので選挙権剥奪してよい、が妥当ならば、次は生活保護受給者は…になるだろうし、納税額が〇〇円以下の者は…だって問題ないということになりかねない。つまり、年齢が理由だろうが別の理由だろうが、参政権を制限・軽視したり、剥奪するというのは、明らかに制限選挙であり、それは1925年以前に逆戻りすることにほかならない。
 つまり、シルバー民主主義を打破するために、民主主義そのものを後退させよう、破壊しよう、というのがたかまつの示した案なのだ。


 付け加えておくと、年代別の政治意向反映格差を是正するには、権利をいじるのではなく、男女のクォーター制と同じように年代別のクォーター制を設けたり、男女の候補者比が同数になることを目指すのと同様に、年代別の候補者数を調整することが妥当なのではないか。権利を軽視したり、平等原則を無視して解決しようなんてのは、余計に事態を悪化させることになるだけだ。



 トップ画像は、人 多様 群衆 - Pixabayの無料ベクター素材 を使用した。

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