セガ マスターシステムというゲーム機が1987年に発売された。セガは、任天堂のファミリーコンピューターとほぼ同時期・1983年6月に、SG-1000というゲーム機を発売したが、SG-1000は性能面でファミコンに見劣りした。翌84年にはマイナーチェンジ版のSG-1000IIを発売するも、実質的にはSG-1000と殆ど変わらない内容だった。
更にその翌年の1985年、セガはファミコンよりもグラフィック性能がよい、という触れ込みでセガ
マークIIIを発売した。SG-1000/IIとの互換性もあり、しかもマークIIIのゲームは、実際に同時期のファミコン用ソフトに比べてグラフィック面で見映えしていた。イメージ的には、ファミコン以上PCエンジン未満という、発売時期的に順当な性能の機種だった。ちなみにPCエンジンの発売日は1987年10月である。
セガ
マスターシステムが発売されたのは前述の通り、マークIII発売から2年後の1987年10月だった。しかしこのマスターシステムは、実質的には、SG-1000に対するSG-1000IIと同じで、中身はマークIIIのマイナーチェンジ版でしかなかった。マスターシステムは元々、1986年にアメリカで発売されたマークIIIの海外版で、1987年の欧州版発売と同時期に日本でもマークIIIの外観を変更、そしてFM音源の搭載等多少の性能アップを施した機種だ。つまり、ファミコン以上の性能はあるが、同時期に発売されたPCエンジンには見劣りする機種だった。
PCエンジンには見劣りする内容だったが、それでもセガ
マスターシステムは、グラフィック面だけでなく音源性能でもファミコンを凌駕する、という印象が当時確実にあった。そしてそれはイメージだけでなく、実際にそうだったのだが、でもマスターシステムは売れなかった。全く売れなかったとは言わないが、ファミコンには全く歯が立たなかった。それはなぜかと言えば、勿論同時期に更に性能のよいPCエンジンが発売されたから、ということもあるんだろうが、マスターシステムではセガのゲームしか遊べなかったからだ。
セガは当時すでにアーケードゲームでかなり人気のメーカーだったが、ファミコンではナムコやコナミ、タイトーなど、当時アーケードゲームで人気だった複数のブランドのゲームが遊べたのに対して、マスターシステムに限らず、セガの家庭用ゲーム機で発売されるのはセガのソフトだけ、他のブランドのゲームはゼロ。マスターシステムまでのセガの家庭用ゲーム機はセガ専用機だった。
ファミコン用のソフトが1983-1994年の間で1000タイトル以上なのに対して、SG-1000/II用とマークIII/マスターシステム用のソフトは、1983-1989年の間に160程度しか発売されず、しかもツクダオリジナルから発売されたソフト数本を除けば、他は全てセガのタイトルだ。ファミコンの方が5年期間が長いことを勘案しても、明らかに大きな差がある。
いくら高性能でもセガのゲームしか遊べないなら魅力的でない、というのが、当時自分や周囲の感覚だった。アルバイトができる高校生以上なら、両方買うという選択肢もあっただろうが、裕福な家庭の子でもない限り、小中学生にそんな余裕があるはずもない。セガのゲーム機でも他メーカーのゲーム機のようにサードパーティ製ソフトが発売されるようになったのはメガドライブ以降で、そのメガドライブも発売された1989年はほぼセガのゲームのみ、1990年以降徐々にセガ以外のブランドのゲームも発売され始めた、という状況だった。
そんなことを思い出したのは、アップルが毎年この時期に開催する開発者向けの年次会議・WWDC:Apple Worldwide Developers Conferenceが6/6に開催され、そこでアップルの新型チップ・M2を搭載した新しいMacBook Airが発表され、それをテック系Webメディアがこぞって取り上げていたからだ。
「M2」搭載で生まれ変わった「MacBook Air」、13.6インチでフラットボディ、価格は164,800円(税込)から - 価格.comマガジン
32ビット時代のiPadを買ったが、5年も経たないうちにサポートが打ち切られOSをアップデートできなくなったこと、その影響でサードパーティ製ブラウザを含むアプリの更新も止まってしまい、使い道がどんどん狭められていく状況になったことから、今後一切Apple製品を買うつもりはなく、つまり個人的にアップルには全くよい印象がない。
アップルが早々にハードウェアのサポートを打ち切っていくことは、それ以前から有名だったが、自分が実際にそれを体感したのは32ビット時代のiPadだった。自分がiPadを購入した当時は、androidはまだまだ発展途上だったし、Windowsも7の頃でタブレットとしてはまだ実用に耐えるような時期ではなかった。だから当時iPadを購入したのは選択として誤りではなかった。だが今は状況が大きく変わった。iPadはタブレット端末としての優位性を相変わらず保ってはいるものの、iOS以外に選択肢がない状況ではなくなっており、古くなっても利用価値が低くなりにくいandroidやWindowsのタブレットの方が魅力的だ。
話が少し逸れたが、この投稿の本筋は性能と魅力の関係性だ。今回発表されたM2チップの搭載よりも、2020年11月に発表されたM1チップの方がインパクトは大きかった。M2はM1のマイナーチェンジ版という印象でしかなく、M1が登場した時のインパクトには欠ける。その辺に、実際にはマークIIIのマイナーチェンジ版でしかなかったマスターシステムに似ている感じがある。それはさておき、M2チップも、インテル系のCPUを用いたシステムに対する性能面での優位性を相変わらずアピールしているのだが、個人的には、でもそれMacなんでしょ? という風にしか思えない。
そのようなハイパワーを必要とするのは映像関係のソフトかPCゲームなのだが、まず多くの人はそこまでのハイパワーを必要としない。勿論、法的に概ね100km/h以上スピードが出せなくても、300馬力の出力があるとか3リッター以上のエンジンを搭載する所謂高級車に全く意味がないわけでなく、そこから生まれる余裕、余裕が生む安定感というのは確実にあるし、PCの場合すぐに性能が陳腐化してしまうので、将来性を勘案すれば、その時点で最高の性能の機種を購入しておくことにはそれなりに意味がある。そして一昔前に比べたらMacで動くゲームもかなり増えており、その高性能を活かせる場面は確実に増えている。でもやはり、基本的にMacOSしか使えない機種がいくら高性能でも、その高性能を活かせる場面は限定的、としか思えない。自分にとっては。
昔から、特に音楽関係などでは、Macでしか使えないソフトもあったりするので、Mac自体を否定するつもりもないし、Macはハードウェアがアップルしか発売されず安定している、ということにメリットを感じる人がいることも否定しない。また、自分の求める全てがアップルエコシステム内で完結する、という人もいるだろう。
だけど今ではマイクロソフトもWindowsPCを自社で開発して販売していて、ハードウェアに由来する安定感にそれほど大きな差はないし、Macで動くゲームが増えたのと同じように、Macでしかできないことも今はほぼゼロに近い。そしてアップル製品の、サポートが終わった後の使い道のなさは、少なくとも自分にとっては、大きなデメリットだ。
何に魅力を感じるか、その基準は人それぞれだが、自分には、Macがいくら高性能でも、マスターシステムに対して「でもそれセガでしょ?」と思ったのと同様に、「でもそれMacなんでしょ?」としか思えないのだ。