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芸能人の性暴力から分かる、日本における女性の社会的地位の低さ

 香川 照之の性暴力を、週刊新潮が伝えたのは8/24のことだった。記事によると、銀座のクラブでホステスに対して香川は、服の中に手を入れブラジャーを剝ぎ取り、ブラジャーは同行の客3名に次々と渡され、全員がその匂いを嗅ぎ、いろいろと卑猥な言葉を浴びせた。香川はホステスにキスし、服の中に手を入れ胸をなでまわしたり揉んだりして弄んだ。被害を受けたホステスはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患ったそうだ。


 この件は2019年7月のことだ。米国の映画業界におけるセクハラの告発に端を発する #Metoo が世界的に社会問題化し、セクハラ行為に対する認識、向けられる目の厳しさは、それまでも徐々に高まりを見せてはいたものの、#Metooによって更に高まったのは言うまでもない。#Metoo が社会問題化したのは2017年10月頃のことで、香川の行為はそれから約2年も後に行われた。
 香川側はこの新潮の記事についてどんな反応を示したかと言うと、記事が明るみに出た翌日の8/25に事務所が声明を発表しており、その中には「全ては本人の不徳の致すところであり、」とある。記事に書かれたことを部分的にも否定しておらず、つまり概ね内容に異論はない、事実である、という態度だろう。世界的なセクハラ嫌悪の高まりを経た後にもまだこんなことをしていたのか、と思うと、本人や事務所が記事内容を一切否定していないので、示談がどうとか本人に対する訴訟はおこされてないとか、そんなことで擁護できるような話ではないだろう。続報でホステスの髪を掴み不気味な笑いを浮かべる香川の写真も出てきた。

 この写真がどんな状況で撮られたものかは定かではなく、もしかしたら寸劇のような状況なのかもしれない、とも考えられなくはないが、この続報が出てからこの投稿を書いている時点で3日目だが、現時点で香川側からの異論は示されておらず、記事内容が100%実態に即しているかは別としても、全くのでっち上げということでもないのだろう。


 香川や事務所の「不快の念を与えた」という、昨今不祥事を起こした政治家や企業お決まりの謝罪文句には強い違和感を覚えるが、一方で「全ては本人の不徳の致すところ」ともしてはいるし、無理筋な否定もしていないことには、そのようなことに及ぶ政治家よりは幾分マシであるとも思える。また、レギュラー出演番組の降板や広告出演契約の打ち切りなど、これから社会的制裁を受けることがほぼ確実でもある。
 ただ、香川をCMに起用していたトヨタの、契約即時解消ではなく年内までの契約を更新しない方針という、なんとも煮え切らない消極的な態度や、NHKやTBSなどレギュラー主演番組があったテレビ局の、周りを見てから後追いで対応したかのような態度など、香川自体よりも関係各所に不信感が募るような状況ではある。

 当事者の香川よりも関係各所の対応に不信感を覚える、ということの背景には、香川を無理筋で擁護する外野の存在もある。もしかしたら、関係各所にもその人達と同様に無理筋で擁護するような人や、たかが水商売でのセクハラごときで…みたいな認識の人がいて、だから周りを見てから後追いで対応しているのかもしれない、というような気がしてしまう。
 この件について、バカげた擁護を披露した筆頭は、2ちゃんねるの創設者として知られる西村 ひろゆきだ。ひろゆきは、8/27にこうツイートした。

 まず、キャバクラも風俗も、性的被害や嫌な思いをすることで高い給料が貰える仕事ではない。また、キャバクラなどの所謂水商売でもそれ以外の性風俗でも性的嫌がらせ、ルール違反はNGだ。業態や各店舗ごとにしてOKなことNGなことが決められているし、どんなことに対応してくれるかは従事者個人によっても違う。香川の件は明らかに基本おさわりNGの店だ。勿論ホステスが個人的にOKしてくれる場合もあるだろうが、いくら金を払おうが、相手がOKしてないことをするのはアウトだ。
 また、そんないい加減な話を元にして「嫌なら生活保護を受けろ」というのも暴論、というかあまりにも酷い。この直前に、金融庁がプロモーションにひろゆきを起用した件が批判の対象になっているし、昨年はデジタル庁が助言をひろゆきに求めていた、という話も話題なった。ひろゆきがこのようなおかしな主張をするのは決してこれが初めてではない。これまで何度となくこのようないい加減かつ、他者の権利を否定したり尊厳を傷つけるようなことを恒常的に主張してきたのがひろゆきなのに、政府がそんな人物を登用するのは一体どういうことなのか。
 自民政府は、新型ウイルスの給付金について、風俗業界に対する職業差別を公然と行ったことから考えると、ひろゆきと同じような人達の集まりと言っても過言でないかもしれない。また、このような人物であることは明白であるのに、それでも有識者として起用しチヤホヤするテレビ局、その他のメディアも同じだ。ここの所、ネット配信番組やワイドショーなどを中心にひろゆきの起用が目立っていたが、それらのことを念頭に言っている。香川だけを干せばそれでいいのか? 無理筋擁護する者だってセクハラ行為を容認しているのだから、直接セクハラに及んでいなくても、メディアで有識者として起用するのはまずいだろう。

 香川がセクハラ行為を理由に番組を降板させられた一方で、ほんこんや八代 英輝、三浦 瑠麗などは、番組の中でデマや陰謀論をあたかも事実であるかのように主張したにもかかわらず、起用され続けている。テレビを始めとしたメディアでは、政府にすり寄る者はデマを撒いても干したりはしない。異様としか言いようがない。


 次はZOZOの元執行役員という肩書の田端 信太郎のこのツイートだ。

「胸を揉むよりも、髪を引っ張るほうが、ドン引きである。前者は「スケベ」の延長だが、後者は「暴力」の始まりである」などと言っているが、どちらも暴力だ。性暴力という言葉や概念を知らないか、殴る蹴るを伴う性的行為と勘違いしているか。髪を引っ張るだって暴力の始まりじゃなくて暴力そのものだ。
 この論が正しいとすれば、ほぼ全てのセクハラや痴漢行為は、単にスケベなだけで暴力ではない、ということにもなりかねない。そんなバカげた話があるだろうか。あるはずがない。セクハラに対する認識が低すぎて論外だ。

 そして今朝、こんなツイートも目についた。

金さえ払えば性暴力をやっても秘匿してくれるから、何をやっても黙っててくれるから銀座行ってる、これのどこが上客なのだろうか。これは、銀座の飲み屋やホステスはそのような客を上客だと思っている、とバカにしていると同時に、そんな類いの客が銀座に来ている、と客もバカにしている。
 このツイートには現時点で7.5万件ものいいねがついている。だが、このアカウントは500弱のフォローに対して3万強ものフォロワーがいるが、有名人でもなくマンガのような注目を集められそうなコンテンツがあるわけでもない。アカウント開設は2017年なのでアルファというわけでもない。プロフィールも投資家、億り人とあるだけ、使っているアカウント画像も女優の浜辺 美波の無断使用だろう。いろいろと胡散臭い点が多い。また当該ツイートの2916件の引用ツイートの大半は非公開のようで、クリックして追える引用リツイートはその半分にも満たない。つまりどの数字もチートで大幅に水増しされている懸念がある。
 ツイッターにかかわらず、いいねやフォロワーが買えることは既知であり、このアカウントに限らず、SNSなどの数字を状況も考えずに真に受けるのは適切とは言えない。

 しかしそれでも、ひろゆきの主張には2万のいいねがあり、いまだにセクハラ行為に対する認識が低い者が社会にはそれなりにいる、ということは否定できないだろう。前述のように、香川が当該行為に及んだのは #Metoo が社会問題化してから2年も経ってからだし、そしてそれから更に2年後の現在でも、いまだにそれを無理筋で擁護する者が少なくない、ということが、この国の女性の立場がいまだに向上していないことを物語っている。
 それは、選択的別姓を頑なに認めようとしない政党がずっと与党に選ばれ続けていることからもよく分かる。果たしてそんな国が先進国と言えるか。言えるはずがない。


参考


トップ画像には、アニメーション 漫画 泣いて - Pixabayの無料ベクター素材 を使用した。

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