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いじめとは思わなかった、差別でなく区別と言い張る、などの詭弁


 「友人を橋から15メートル下の川へ突き落とした少女 あまりに無謀な危険行為に検察は起訴することを決めた」、アメリカ・ワシントン州のある10代数人のグループが、橋の上からおよそ15m下の川へ飛び込む遊びをしていた。その中の1人だったジョーダンさんが飛び込むのをためらっていたところ、グループの中の別の1人がジョーダンさんを思いっきり突き落とした。不意に突き落とされたジョーダンさんは水面に叩きつけられ、肺の破裂・肋骨6本を骨折という大けがを負った、という事件についてのBuzzFeed Japan記事の見出しだ。突き落とされる様子はグループの誰かが撮影していたのか、記事にも引用されている。それを見る限り、かなり突然、しかも強い憎しみか悪意を疑うほどの強さで突き飛ばされている。しかし記事によれば、突き落としたテイラーさんは
 彼女は飛び込みたがっていて、怖がっていた。私に押してと頼んできたんです。どんなことが起こりうるか想像していませんでした
 彼女を傷つける気なんて全然なかった。誰かを傷つけようとしたことなんてありません
などと主張しているそうだ。


 記事に引用されている映像はかなり短く、実際にジョーダンさんが飛び込みたがっていたのか、押してくれとテイラーさんに頼んだのかは厳密には分からない。しかし、その短いムービーだけで判断すれば、とてもジョーダンさんが飛び込みたがっているようには見えないし、押される準備をしている様にも全く見えず、押してくれと頼んだとは思えない。あくまで個人的な見解ではあるが、これはアメリカの話で、日本より訴訟は身近だろうし、親か弁護士などの入れ知恵があったんだろうと推測する。また本心でそう思っていなかったとしても、「傷つけるつもりはなかった」と言った方が得策だということは、多少頭が回る人間ならすぐに考え付くだろうと感じる。

 前段の件を伝える記事をBuzzFeed Japanが掲載した9/1、ハフポストは「春名風花さんが絵本『いじめているきみへ』に込めた思いとは。」という記事を掲載した。AbemaTVのブログ・AbemaTIMESからの引用記事で、AbemaTVのニュース番組・けやきヒルズに、女優・声優の春名 風花さんが出演し、自身が書いた、いじめを題材にした絵本に込めた思いや、いじめ問題について話したことを紹介する記事だ。その絵本の一部を記事でも紹介しているのだが、そこに
 いじめているこは じぶんのこと いじめっこだなんて おもわないから
という一節がある。自分はこの一節を読んで、まず直前に読んだBuzzFeed Japanの記事を思い出した。肺を破裂させ骨を6本も折るような怪我をさせても「傷つけるつもりはなかった」と言える人がいるように、イジメている側も「イジメているつもりはなかった、仲良くしているつもりで、冗談のつもりだった」と言うことが殆どだ。ジョーダンさんが突き落とされたのが、テイラーさんによるいじめだったのかは定かでないが、ジョーダンさんはテイラーさんが謝罪しようと病院に来ても会うつもりもないようだし、「刑務所で少なくとも自分が何をしたか考えて」と言っているようだし、確実に「傷つけるつもりはなかった」というテイラーさんの話をこれっぽっちも信用していないのだろう。肺が破裂し骨が6本も折れる大けがを負わされたら、自分だってそんな風にしか考えられないと思う。

 いじめてる子が自分をいじめっ子とは思わない、という話は、決していじめに限った話ではないだろう。7/22の投稿でも同じ様なことを書いた。そこで取り上げたのは、
  • 炎天下の駐車場の車内に子供を置き去りにした親が「こんなことで子供は死なない」と発言した
  • 痴漢容疑者が「胸を触ったが、揉んではないので性的な意図はない」と弁明した
  • 文科省官僚が大学理事長に「息子が受験するので、よろしく」とは言ったが、「不正に合格させてほしいとお願いしたわけではない」と釈明した
の3件だが、結局どれも「悪意はなかった」という釈明だ。
 1つ目は子供を炎天下の中に放置しておいて、そんなの大したことじゃないと矮小化しようとする行為だが、場合によっては虐待にすら該当しかねない行為だ。この場合は少し違うかもしれないが、虐待する親の常套句は「躾だった」「死ぬとは思わなかった」だ。本心か否かは別としても、虐待を虐待と認識していないと言っているようなものだ。
 2つ目がもっとも愚かで馬鹿馬鹿しい。胸を触ったが性的な意図はなかったので痴漢じゃないなんて言い訳が通用するはずがない。「ナイフで胸を刺したが、死ぬとは思わなかった」と同じような話だし、15m下の川へいきなり、しかもおもいきり突き落としておいて「傷つけるつもりはなかった」と言うのと大差ない。想像力が足りないのか、単に整合性のある思考が出来ないだけなのかは分からないが、到底受け入れることの出来ない話以外の何ものでもない。
 3つ目の「息子をよろしく」と言ったが「不正に合格させてくれ」とは言っていないについては、厳密に状況を確認する必要はあるだろうが、そもそも官僚が支援対象と会食などするから疑われるのだろうし、そんな立場なのに「息子をよろしく」なんて言うから疑われるんだろう。悪意がなかったなんて言われたところで説得力は感じられない。
 要するに、悪いことをする際に「悪いことしてるぞ!」と公言する者などほぼいない。それどころか「悪いこと」と認識している場合は皆無だろう。うすうす「悪いこと」かも?と思っていたとしても、確実にどこかで、これぐらいは、若しくは自分だけは許されると思っているはずだ。例えば、少し前に話題になった所謂バカッター、例えばおでんつんつん事件の当事者だって「これぐらい許される筈だ」という認識が少なからずあったろうし、チェーンソーで宅配会社の事務所を脅す様子を撮影して公開した当事者だって同じだろう。

 いじめや類似行為に話を戻すと、
  • 虐待している親は躾と言い張る
  • DV・パワハラをする者は相手のことを思っての行為と言い張る
  • 差別をする者は差別ではなく区別だと言い張る
  • 男尊女卑行為をする者は差別ではなく伝統・必要悪などと言い張る
などの場面にしばしば出くわす。更に言えば、ユダヤ人や障害者らを排除・虐殺したナチスや、それに関わった者には、民族浄化は良い行いだったし当時は合法だったと言い張る者も少なくないだろう。過去の日本に存在していた優生保護法だって似たようなもので、社会全体の為と正当化していたからそんな法が作られ、施策が行われたのだろう。
 BuzzFeed Japanは同じく9/1に「Abemaが非公開にした「くそババア」罵倒映像 過激化するネットテレビの2つの問題」という記事も掲載している。この中で幾つかAbemaTVが放送した番組についての不適切な点を指摘し、AbemaTVを運営しているサイバーエージェント広報へコメントを求め、その解答が記事には掲載されている。詳しくは記事を読んで欲しいが、自分にはサイバーエージェント広報が不適切な点をなんとか、どうにかして正当化しようとしているように感じられる点が複数ある。
 勿論色々な関係者がいるから一口にAbemaTVと括ることはできないが、春名 風花さんのいじめに関する絵本を取り上げた番組を放送する一方で、そこで紹介した、いじめてる子が自分をいじめっ子とは思わないと言う話を、広報がそれを証明してしまっているようで、なんとも言えない気持ちにさせられる。

 兎にも角にも、子供より確実に分別がなくてはならない、また、子供に「いじめはいけない」と指摘し教えなければならない大人の世界に、こんなことが溢れているようであれば、子供社会からいじめがなくなることなどないだろう。「いじめ」というと子供の問題と感じる人も多いだろうが、子供は大人の映し鏡で確実に大人の問題でもある。大人社会のいじめがなくならない限り、子供のいじめは絶対になくならない。

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