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中央省庁・障害者雇用水増し調査の報告への違和感


 今年の夏・2018年8月に中央省庁・地方自治体等の役所で障害者雇用が水増しして計上されていたことが報じられた(8/29の投稿)。これについて弁護士ら第三者(とされる者ら)による検証委員会によって調査が行われ、昨日・10/22にその報告書が公表された。中日新聞の記事「障害者雇用水増し、国28機関の3700人 検証委報告「意図的」認めず」によると、
 水増しされた人の中には、既に退職した人や死者、裸眼視力〇・一の近視の人なども含まれていたが、検証委は「過失はあるが、故意性はない」と結論づけ、意図的ではなかったとした。
そうだ。 「意図的な不正ではなかった」という見解を検証委員会が示したという論調の記事は他にも多いが、産経新聞の記事「障害者雇用水増し「恣意的」と指摘 退職者も多数算入、検証委報告書 28機関3700人」などは、
 各省庁は「意図的な不正算入はない」と回答したが、検証委は「法定雇用率を充足するため、不適切計上が行われてきたことがうかがえる」と故意性を問題視した。
などと伝えており、前者では「故意性はない」と書いてあるのに、後者には「故意性を問題視した」とある。記者が恣意的な解釈に基づいて記事を書いていないのであれば、恣意的だとか、故意性だとか、意図的だとかの言葉遊びとも言えそうな見解を検証委が会見で示したのだろうと推測する。


 個人的に「意図的な不正ではなかった」という話には強い違和感を感じる。NHKの記事「10年前退職の職員も 中央省庁の障害者雇用水増しで報告書」には、
 国税庁で精神障害と認定する手帳を所持していない「うつ病」などの精神疾患とされる職員を障害者としていたほか、国土交通省では、障害者として雇用された職員を退職後も計上し続けていて、中にはおよそ10年前に退職した職員も含まれていたということです。
とある。うつ病患者や中日新聞の記事にある裸眼視力0.1の者を障害者として計上していたという話は、1000歩ぐらい譲れば「障害者認定に関する誤認があった」と認められるかもしれない。しかし10年前に退職した職員、更には死者を障害者雇用に計上しておいて「意図的ではない」なんて話がなぜ出来るのだろう。退職者や死者を雇用者として計上するということは、障害者か健常者か等は全く関係なくあからさまに矛盾していると気付かないような言語能力・認識能力しかない者が中央省庁の役人になれるものだろうか。
 このような詭弁が含まれている調査報告書を公表・見解の発表をされると、「第三者による調査と言っているが結局のところ行政に対する忖度があり、そういう状況の下での調査では実態がまだまだ明らかにされていない懸念がある」と思えてしまう。

 この件について、未だに「元々の数値目標が厳しすぎたのだから仕方がない」なんて言っている者をしばしば見かける。鉄鋼・自動車・防災関連企業などで近年次々と発覚している、性能を良く見せることを目的とした、または基準を満たさない製品をあたかも基準を満たしている様に見せかけることを目的とした、製品データの改ざんに関しても同様の主張を見かける。まず、万が一必要以上の数値目標・基準が求められていたのだとしても、それを誤魔化していい事にはならない。性能等の要求が過剰な基準が求められているようであれば、まずそれを訴えなくてはならない。それをすっ飛ばして勝手にデータを改ざんしてよいなら社会の秩序は無くなってしまう。
 また、私企業が行政によって求められた基準について不正を行ったのならば、1万歩くらい大目に見れば、データ改ざんの動機について理解出来ないでもない。しかし障害者雇用についての目標値を掲げているのは、他でもない中央省庁・行政である。自分たちで決めた目標値について、「元々の数値目標が厳しすぎたのだから仕方がない」なんてあまりにも身勝手すぎる話だ。しかも私企業については目標値を達成しなければペナルティを科す側であることを勘案すれば尚更で、「元々の数値目標が厳しすぎたのだから仕方がない」なんて話に整合性はない。

 ここからはやや毛色の異なる話になるが、この件を今朝のMXテレビ・モーニングCROSSでも扱っており、いくつか画面で紹介されていたこの件に関する視聴者ツイートの中に次のツイートがあった。

このツイートが画面で表示されたのを見て自分は、
 国家公務員になれる(だけの能力がある)障害者はどれだけいるんだろうね。(そんな人はそれ程いないのに、雇用者数を目標に掲げて能力のない障害者を優先して雇用することを、)社会が受け入れているようになっているのか
と言っているようにしか見えず、
とコメントを付けてリツイートした。番組終了後、あんなツイートをするなんてどんな人なんだろうと思い、彼のタイムラインを覗いてみた。彼は前述のツイートの後に、
とツイートしており、彼は、
 (こんなに水増しが横行しているようでは、ただでさえ障害者は雇用差別されがちなのに)国家公務員になれる障害者はどれだけいるんだろうね。(水増しが中央省庁で横行しているということは、障害者差別を)社会が受け入れているようになっているのか
と、この状況を憂うツイートをしていたのかもしれないとも思えた。どちらが彼の真意に近いのかは分からないが、最初のツイートだけがテレビ画面で紹介されれば、多くの人は彼が他にどのようなツイートをしているか等は勘案せずに、カッコ書きした部分をそれぞれで補完して解釈するだろう。彼のタイムラインを覗いた後では、自分が下した「差別的なツイート」という評価は適切ではなかったかもしれないとも思えるが、その一方で言葉足らずのツイートを見て、行間にどのような意図が込められているのかを推し量りながら解釈をするのは決しておかしなことではないし、差別的にも読めるツイートを番組が画面に表示することへの懸念は変わらない。先日話題になった「「障がいは言い訳」? 都制作のパラポスターに批判」(朝日新聞)と同じ様な事ではないかと思う。

 稀に「1つのツイートだけを切り取るな」という趣旨の主張を見かけることがある。この件に関して言えば、切り取ったのは自分ではなく番組だし、切り取られたくないのなら、ツイートをスレッド化して補足をする、言葉足らずにならないようにブログ等で丁寧に主張してそのリンクを貼る等の対処が出来る筈だ。それをしないで言葉足らずなツイートをするということは、1ツイート単位でリツイートされる事、この記事のように引用されることもあるわけだし、自ら切り取り線をつけて「切り取ってくれ」と言っているようなものだろう。
 ツイッターには概ね140文字、最大280文字の文字数制限、またモーニングCROSSで画面に表示されるには60文字という文字数制限がある。しかし、主張が言葉足らずになることをその文字数制限の所為にしてはならない。モーニングCROSSで画面に表示される視聴者ツイートの中には、表示されることばかりを重視し言葉足らずになっている、若しくはそんな状況を逆手にとって、言い換えれば、言葉足らずを装って差別的・偏見を主張をしていると感じられるツイートがしばしばあるように思う。番組は10月から放送時間を1時間に短縮(これまでは1時間半)し、その理由をMXテレビ自体の収益減の影響としていたが、(意図的な差別など稀なので、意図的か否かに関係なく、)差別的なツイートを指摘もせずに画面で取り上げるような状況を改善しなければ、番組を見たいと思う人は増えない、寧ろ相応に減るのではないか?と感じる。

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