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走行距離に応じた課税案は、自動車離れに拍車を掛け都市部一極集中を促進しかねない


 政府・自民党は、自動車税改革の一つとして走行距離に応じた課税制度を検討しているそうだ(時事通信の記事「走行距離での課税検討=自動車税改革で-政府・与党」)。現時点では、具体的にどんな制度を検討しているのか詳細は伝えられていないので、「走行距離に応じた課税」という文言から推測するしかない。時事通信の記事では現在の主な自動車関連税、
  • 購入時に掛かる自動車取得税(取得価格によって税額が異なる)
  • 保有者が毎年収める自動車税(排気量によって税額が異なる)
  • 車検時に課税される自動車重量税(自動車の重さによって税額が異なる)
を紹介している。この内自動車取得税については、消費税が10%になった段階で廃止されることが決まっている。つまり検討されている走行距離に応じた課税は、自動車取得税に代わる税として、自動車税と自動車重量税と並行して課税が行われる(主要自動車関連税は3つのまま)か、自動車取得税を廃止した上で自動車税か自動車重量税に代わる税として導入される(主要自動車関連税が3から2に減る)か、のどちらかだろう。


 自分には、そのどちらにせよ良い考えだとは思えない。自動車取得税に代わる新たな自動車関連税ということであれば、自動車業界などが求めた、自動車ユーザーに対する過重な税負担の是正ということには全くならないし、今後決まる税率や制度次第ではあるが場合によっては、これまでの取得税以上に課税されるかもしれない新たな税が出来ることにもなるだろうから、それでは指摘される若者の車離れに歯止めを掛けることは出来ないだろうし、国内の自動車関連事業の衰退傾向に拍車を掛けることにもなりかねない。

 自動車取得税を廃止した上で、自動車税か自動車重量税の代わりに走行距離に応じて課税する税金を徴収することになるのだとしても、結局のところ自動車離れに拍車を掛けることになりそうだとしか思えない。走行距離に応じた課税とは、携帯電話の契約プランで言えば所謂従量制に該当する。携帯電話の従量制プランとは、使用した通信データ量や通話時間に対して青天井に使用料がかかる契約プランだ。これと同じ様な、走れば走った分だけ青天井に税金が課されるような制度ができれば、「いくら税がかかるか分からない」事を不安視する人たちは、自動車保有・使用を敬遠することが予想される。定額制プランが出来る以前は、料金に対する不安からか、ネット接続機能が携帯電話についていても、ネット接続契約を結ばなかったり契約しても利用しない人が、中高年層を中心に一定数存在したことから考えれば、自動車自体が敬遠されることになりかねないのは容易に推測できる。
 ただ、流石に政府や自民党の議員らもそんなことに気が付かないほど馬鹿ではないだろう。走行距離に応じた課税といっても、走行距離に応じて青天井で税額が上がるような完全従量制ではなく、税額の上限を定め、何km以上何km未満はこの金額のように、段階的に税額を設定する半従量制のような制度になるのではないかと予想する。しかしそれでも、所持する自動車の排気量又は重量という、いつ見ても変わらない分かりやすい指標による区分ではなく、走行距離という変動する指標によって区分が変わる税制度であれば、「分かり難い税制度」と感じる人の率は確実に上がる筈だ。現政府は少し前に携帯電話会社に「契約プランが分かり難い」と苦言を呈し是正させたが、同じような税を課そうというのは一体どいう判断なのだろう。余談だが消費税増税に関しても、軽減税率だとかクレジットカード等の使用によるポイント還元とか、分かり難い税制を政府が提案していることには違和感しかない。

 以上が自分が走行距離に応じた税制が適当ではないと考える理由だ。ただ、このような指摘を受けて、走行距離に応じた課税と言いつつ、最大課税額に達する距離の条件を年間5000km程度と低く設定するなどの手法で、日常的に自動車を使用する者にとっては定額の税金と変わらない税制になる可能性もある。これが取得時にしかかからない自動車取得税の代わりに導入されるなら実質的な増税でしかなく、自動車取得税を廃止する意味がなくなる。また、自動車税又は自動車重量税に代わる税として導入されるのだとしても、それらに比べて分かり難い税制度になることには違いない。このような理由から、走行距離に応じた課税には自動車離れに拍車を掛ける懸念を感じざるを得ず、政府や自民党は自動車離れに拍車を掛けたいのだろうとしか思えない。

 自動車離れに拍車を掛けるという事は、自動車が無くても生活しやすい都市部への一極集中に拍車を掛けるという事でもある。つまり政府や自民党が検討している走行距離に応じた課税案は、彼らが掲げている地方創生とは相反する政策である。
 11/20の投稿「皇室の品格保持に必要な事と、政治的な利用」でも、宮内庁の所有するロールスロイスに関して政府が買い替えを決めたことなどに関して、
 政府内には自動車に詳しい人間が、自動車・交通関連を所管する立場の国交省の中にすらいないのではないか、そんな人たちが政策を立案・運営しているのではないか
と指摘したが、走行距離に応じた課税検討という報道を目の当たりにして、その懸念は更に強まった、寧ろその懸念は懸念でなく事実であると証明されたと言っても良いのかもしれない、とすら思える。

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